第5話 祝杯と冒険者とショッピング
「それじゃあ、最初の食事を祝って……」
「かんぱーい!」
そういい終わると、エールを口に含んでみる。思っていたよりも炭酸のような感覚とアルコールの香りが強い。そして少し経つと苦みがやってきた。そこで、串焼きを食べる。口に入れると、今までに食べたどんな食べ物とも違う、味がした。香辛料の影響だろうか。しかし、それでいて味付けに使われているのは、前の世界の塩と胡椒に似ているものであっさりとしている。
どうやら食べ物はおいしいタイプの異世界のようだ。
しかし、なんとなくビールと焼き鳥を美味そうに食べていた人達の気持ちがわかるような気がする。
「エレナ、美味いか?」
「うん、とっても」
「そうか、ならよかった」
しかし、美味そうに物を食べるやつだ。まあ、そんなことよりもこの後の予定を考えなければ。一応、冒険者ギルドに行ってみるとして、それからだ。
街を探索してみてもいいし、少し外に出てもいいし、はたまた買い物という手もある。なにせ、大量の金貨があるからしばらくは楽ができそうだ。まあ、エレナに聞いてみるか。
「なあ、食い終わったらどうする?」
「うーん。あ、ショッピングでどう」
「じゃ、そうするか。でも、先に冒険者ギルドに行ってからな」
「はーい」
あ、コップ戻さないといけないのか。
「エレナ、コップ持ってくぞ」
「ん、よろしく」
エレナは酒が入ったせいか少し顔が赤い。冒険者ギルドに行ってから食事するべきだったか。
まあ、本格的に酔っぱらってはいないようだから問題ないだろう。早く戻してギルドへ行くとしよう。そう考えながら俺はコップを屋台に返した。少し遅めの昼ご飯だったが、その分夜は早く宿に戻って晩飯にしよう。
「エレナ、行くぞ」
「ん、わかった」
なんというか、今更だが何年ぶりに人と一緒に歩いたのだろう。というか、女の子と一緒に歩く機会なんてあっただろうか?
ないな。
人とあまり、いやまったくと言っていいほど話さなかった俺にそんなことはなかっただろう。
人間不信。そんな言葉がよく当てはまる人間だった。まあ、それには理由があったりもするのだが別に特別気にしている訳ではない。だが、いまだに少し引きずっているのだろう。そのせいか人の眼はかなり気にしてしまう。
そういや、エレナは最初からあまり気にせず話せたな。人間じゃない、からだろうか……。
特に何か話すこともなく看板などを頼りにギルドへ着いた。商業ギルドとは違って少しは人がいた。扉に重厚感はなく軽く力を入れるだけで音もなく開く、それと同時に中から視線が刺さる。
冒険者たちとは目を合わせずにカウンターへと向かう。
「すいません。冒険者登録ってできますか?」
「ええ、できますよ。こちらへどうぞ」
そういってマニュアル通りの笑顔と言葉で受付嬢が案内してくれた。というか、この世界は平均的に顔やら容姿のレベルが高いと思う。
「登録料は銀貨1枚になります」
「あ、連れもセットでお願いします」
「はい、少々お待ちください」
どうやら、カウンターの中にカードの元のプレートがあるらしい。そして、受付嬢が2枚のカードを取り出すと近くの置物にセットした。
「では、手を魔道具の上へお願いします」
「はい」
手を出すとエレナの手と重なった。ハッとして手を放して置きなおす。
「フフ、すいません。お一人ずつお願いします」
笑われるとは予想外だった。そして一連の光景を見ていた冒険者から笑いが起こる。和やかなムードになったようだ。エレナが赤くなってるけど、まあ気にしない。気にして叩かれたらたまったもんじゃない。
「えっと、お名前はアオバ様でよろしいですか?」
「はい、あってます」
「エレナ様でよろしいですか?」
「ええ、合ってるわ」
「それでは罪歴もないようなので、冒険者について説明しますね、まず階級についてです。階級は下からF、E、D、C、B、B+、A、A+、S、S+になります。それから、昇格降格はギルドカード更新時に合わせて更新されます。ルールに関しては利用規約を渡しますので必ず目を通しておいてください」
そういってギルドカードと利用規約を渡された。
「それでは、冒険者として自由に楽しんでくださいね」
営業スマイルだ。スマイルは無料はどこの世界でも同じらしい。
そんな下らないことが頭に思い浮かべながら外に出た。
「よし、エレナ。少し買い物でもしてくか」
「うん」
確かさっきの通りにいろいろ売ってたはずだ。
「欲しいのがあったら何でも買っていいぞ」
「何でも?」
「あ、でも高すぎるのは駄目だからな」
「もう、それぐらいわかってるって、それに私のだけじゃなくてあんたの武器とかも買わなきゃでしょ」
「言われてみればそうだな、俺何が使えるんだろう」
「さあ、それまでは流石に……」
「剣とかかっこいいよな」
「……」
剣といえばファンタジーの王道だ。それに剣士はかっこいいし、エレナとのバランスも考えると近接攻撃がベストだろう。
「ん? どうした」
「その、アオバって剣なんか使えるの?」
「え、振ればいいだけだろ?」
「そんなわけないでしょ」
「そうなのか?」
「たぶん」
「まあ、使ってるうちに慣れんだろう」
「だといいけど」
うーん、剣は楽じゃないのか。言われてみたらフットワークとかいろいろ大変そうだな。
「武器屋があるみたい。寄ってく?」
「そうするか」
いかにも武器屋といった感じの建物だ。誰もがゲームで見たことのあるあれだ。
「いらっしゃーい、何をお探しで?」
店の奥に長い髭を蓄えた男がいた。
「えっと、自分に合う武器を探しに」
「そうか。近距離系と遠距離系どっちがいいんだ?」
「できれば近距離でお願いします」
「よし。じゃあこれでそこにある藁の束に攻撃してみろ」
「はい」
手に渡されたのは少し長めの剣だった。そして重い。
肩に力を込めて振りかざすと藁と藁の隙間に挟まった。
「兄ちゃん、こりゃ向いてねえな」
苦笑いを浮かべながら次の武器を渡された。というか無理もないだろう今まで使ったこともないんだから。
次はかなり短めな剣だった。ショートソードとかいうやつだろうか?
これは振るものなのか突くものなのかいまいちよくわからないがさっきのと統一して振ることにしよう。
イメージは刀の居合切りだ。
フッと息を吐きながら斜めに振りかぶると今度は途中で止まった。
店内から店主とエレナの笑い声が響く。失礼な話だ。
「こりゃ、センスの無さにも程があるな、力がないんだったらこの剣にしな」
「これは?」
「さあ、誰かしらが売った武器だろ」
「うーん」
なんというか長くも短くもない剣だ。なんだろう、しっくりくる。だけどまあ買うほどでもないだろう。
「あ、遠距離も見せてもらえますか?」
「おう、いいぞ。といっても弓と魔道具しかないぞ」
「魔道具?」
「例えばこんなのとか」
「こ、これは!」
まさかこの世界にこんなものがあるとは思わなかった。これで俺は異世界無双デビューか。もしそうなったらと考えると口元に笑みがこぼれまくる。傍から見れば変人だ。