2-3
目覚めた時、ベッドの上に寝かされていて、ベッドの脇に母・シャインがいた。
「シルヴィア。目が覚めたの?」
「かあさん……」
「シルヴィア? わかるの?」
「わかるっ……て? 母さん、だろ?」
シルヴィアが首をかしげた瞬間、母の顔がくしゃくしゃになった。
「そうよ。もう、大丈夫よ」
「だい、じょうぶ……?」
母の言っている意味がわからなかった。
とにかく身体中が痛くて、寒くて、まるで魔物の毒に犯された時のようだったが、それよりも酷かった。
寝ている時の事は、夢の事以外は全く覚えてなかった。
「母さん。何だろう……身体がおかしいよ……」
今まで怪我とか毒とかは経験した事があったが、こんなに身体の調子が悪く感じたのは初めてだった。
寝ているだけなのに、部屋全体が揺れているような不快感があり、言葉では表現出来ないくらい身体が重く感じた。
腕を少し持ち上げるだけでも、相当な気力が必要だった。
「シルヴィア……大丈夫?」
「ねえ、カインは……? 一緒にいたはず、なんだけど……」
母は、酷く優しい笑顔を浮かべた。
「カインは引っ越したの。遠くへ」
「え……? どうして?」
「親御さんの都合で、よ」
「……そんな事、言ってなかったのに……」
ただ、カインが人を呼んでくれたから、こうして無事に帰れたのだろう。
シルヴィアは漠然とそう思った。
「シルヴィア。何も覚えてないのね?」
母が気遣うように自分の頬に触れる。
「……何を?」
「いいの。いいのよ。貴女は酷い風邪で寝込んでいたの」
「風邪……」
「たくさん熱が出て、私やお父さん、ゴーディの事もわからなかったのよ」
「……わからなかった?」
「そうよ。さあ、もう少し寝た方がいいわ」
母の顔色がすこぶる悪い。
「母さん? どうしたの? ……気分悪い? 俺、父さんとゴーディ呼んでくるよ」
「駄目よ。シルヴィア!」
母の制止を振り切ってベッドから起きだそうとした時、酷い目眩を感じた。
「うっ……」
生まれて初めて吐き気を覚えて口を押さえる。
指が、震えた。
胸が焼けるような感覚が更に不愉快で目から涙が流れた。
(何だ、これ。何だろう……)
「シルヴィア。大丈夫?」
母が桶を用意してくれて背中をさすってくれたが、一向におさまらない。
今までこういう経験がなかった為、シルヴィアは戸惑った。
自分たちの様子がおかしいのを聞きつけてか、ドアが開いて父が現れる。
「シルヴィア……! どうした? シャイン」
「わからないわ。シルヴィアが正気に戻ったのよ」
「正気に戻った……本当か?」
シルヴィアは吐き気を必死に抑えながら、両親の言葉を聞いていた。
「ジョナサン。早く、セリス様とニーアを呼んできて」
「わかった」
父は血相を変えて出ていき、間もなくセリスと呼ばれた呪術師の黒い制服を来た女性が現れた。
吐き気が収まらず、胸をおさえて肩で息をしているシルヴィアを見て、セリスは両親を交互に見つめた。
「もう一度、眠らせましょう。検査はその後で」
「わかった」
父が返事して、母は頷く。
『シルヴィア・ガイア。深い眠りにつきなさい』
セリスの言った言葉が、はっきりと聞き取れた。
そして、シルヴィアはその言葉に身を任せた。
泣きながら眠りに落ちるシルヴィアを見て、セリスは憂いの顔を浮かべた。