1-5
シルヴィアは迷いの森の泉の近くの秘密基地に篭る事が多くなり、今日も学校帰りに小屋に身を寄せていた。
「……いてて」
シルヴィアは右足首を押さえて、顔をしかめる。
最近、一人で行動していると、真っ黒な動物たちに襲われる事があった。
先程も黒い蛇に絡まれて、足首を噛まれてしまった。
しかも今日は学校帰りで"お護り"を持っていなかった為、近くにあった棒きれで追っ払ったのは良いものの、蛇に噛まれた跡が次第に腫れてくる。
「家に戻って、薬をぬらなくちゃ……」
どうしようもなく痛む足を引きずって、シルヴィアは家を目指す。
「シルヴィア。どこにいってたの?」
「……散歩」
玄関で待ち構えていた母に見つかって、シルヴィアは伏せ目がちにそう答える。
先ほどから、背筋が寒くてたまらなかった。
「おやつ食べる?」
「いらない。疲れたから寝る……」
母は、ゴーディが騎士の寄宿舎に行ってからというもの、いつも一人で元気のないシルヴィアを心配していた。
「待って。シルヴィア」
「……何?」
「貴女が騎士になりたいと思ってる事、お父さんは嬉しく思っているはずよ。でもね……貴方は女の子だから、心配なのよ」
「ごめん。……本当に疲れてるんだ」
シルヴィアは、母の前なので足の痛みを隠して、普通の足取りで歩いた。
その姿は、頑なな態度にも見えた。
「シルヴィア……」
母の悲しそうな呟きが背後で聞こえてくるが、シルヴィアは振り返らずに自分の部屋に戻った。
クローゼットの奥から救急箱を取り出して、蛇の毒に効く薬を塗りつける。
これで良くなるだろうとタカをくくっていたシルヴィアだったが、一向に寒気が引かず、足首もちぎれそうなくらいに痛みが増してくる。
とても夕食など食べている余裕などなかったが、両親が不審に思うのは避けたかったので、シルヴィアは食事に参加した。
「今日、学校の先生から聞いたが、最近いつも一人でいるそうじゃないか」
父はそんな事を言い出した。
「遊ぶ相手がいないんだ。仕方ないだろ」
言葉少なにシルヴィアは、香ばしい香りをさせているパンを千切った。
(早く済ませて、もう一度薬を塗ろう)
シルヴィアは、どこか朦朧とした意識の中でそう思った。
「私がマリーに頼んであげましょうか?」
「母さん、余計な事しないで。……女の子にはそれぞれのグループがあるんだ。俺の相手なんかさせたら、マリーが可哀想だよ」
シルヴィアは何とか平静を取り繕って、手早く食事を口に運んだ。
「ご馳走様」
ようやく食事を終えたシルヴィアが立ち上がろうとした瞬間。
頭から血の気が引いて、その場に倒れてしまった。
「……っ……」
「シルヴィア!?」
母の声が遠くに聞こえた。
右の足が燃えるように熱い。
「……ぅ……」
足を抱えるように庇っていると、父が紫色に腫れ上がった足首を見つけた。
「大変だ……魔物に噛まれて相当、時間が経ってる。早く馬車の手配を!」
父の声が響いて、身体が宙に浮かんだような感覚に覆われた。
「は……っ、は……っ」
激しい自分の呼吸だけが耳元に聞こえてきた。
こういう事が何回か続き、遂に父から「あまり外で遊ばないように」と外出規制されてしまった。