表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物使い  作者: 紅凛
第一章:子供時代
6/56

1-5




 シルヴィアは迷いの森の泉の近くの秘密基地に篭る事が多くなり、今日も学校帰りに小屋に身を寄せていた。


「……いてて」


 シルヴィアは右足首を押さえて、顔をしかめる。

 最近、一人で行動していると、真っ黒な動物たちに襲われる事があった。

 先程も黒い蛇に絡まれて、足首を噛まれてしまった。

 しかも今日は学校帰りで"お護り"を持っていなかった為、近くにあった棒きれで追っ払ったのは良いものの、蛇に噛まれた跡が次第に腫れてくる。


「家に戻って、薬をぬらなくちゃ……」


 どうしようもなく痛む足を引きずって、シルヴィアは家を目指す。


「シルヴィア。どこにいってたの?」

「……散歩」


 玄関で待ち構えていた母に見つかって、シルヴィアは伏せ目がちにそう答える。

 先ほどから、背筋が寒くてたまらなかった。


「おやつ食べる?」

「いらない。疲れたから寝る……」


 母は、ゴーディが騎士の寄宿舎に行ってからというもの、いつも一人で元気のないシルヴィアを心配していた。


「待って。シルヴィア」

「……何?」

「貴女が騎士になりたいと思ってる事、お父さんは嬉しく思っているはずよ。でもね……貴方は女の子だから、心配なのよ」

「ごめん。……本当に疲れてるんだ」


 シルヴィアは、母の前なので足の痛みを隠して、普通の足取りで歩いた。

 その姿は、頑なな態度にも見えた。


「シルヴィア……」


 母の悲しそうな呟きが背後で聞こえてくるが、シルヴィアは振り返らずに自分の部屋に戻った。

 クローゼットの奥から救急箱を取り出して、蛇の毒に効く薬を塗りつける。

 これで良くなるだろうとタカをくくっていたシルヴィアだったが、一向に寒気が引かず、足首もちぎれそうなくらいに痛みが増してくる。

 とても夕食など食べている余裕などなかったが、両親が不審に思うのは避けたかったので、シルヴィアは食事に参加した。


「今日、学校の先生から聞いたが、最近いつも一人でいるそうじゃないか」


 父はそんな事を言い出した。


「遊ぶ相手がいないんだ。仕方ないだろ」


 言葉少なにシルヴィアは、香ばしい香りをさせているパンを千切った。


(早く済ませて、もう一度薬を塗ろう)


 シルヴィアは、どこか朦朧とした意識の中でそう思った。


「私がマリーに頼んであげましょうか?」

「母さん、余計な事しないで。……女の子にはそれぞれのグループがあるんだ。俺の相手なんかさせたら、マリーが可哀想だよ」


 シルヴィアは何とか平静を取り繕って、手早く食事を口に運んだ。


「ご馳走様」


 ようやく食事を終えたシルヴィアが立ち上がろうとした瞬間。

 頭から血の気が引いて、その場に倒れてしまった。


「……っ……」

「シルヴィア!?」


 母の声が遠くに聞こえた。

 右の足が燃えるように熱い。


「……ぅ……」


 足を抱えるように庇っていると、父が紫色に腫れ上がった足首を見つけた。


「大変だ……魔物に噛まれて相当、時間が経ってる。早く馬車の手配を!」


 父の声が響いて、身体が宙に浮かんだような感覚に覆われた。


「は……っ、は……っ」


 激しい自分の呼吸だけが耳元に聞こえてきた。

 こういう事が何回か続き、遂に父から「あまり外で遊ばないように」と外出規制されてしまった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ