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魔物使い  作者: 紅凛
第一章:子供時代
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1-3




 それからというものシルヴィアは一人で過ごす事が多くなった。


「シルヴィ、元気ないな」


 カインは教室で、窓の外をぼんやりと眺めているシルヴィアを見つめていた。


「騎士になれないって、相当落ち込んでるよ。全然笑わないし、あんまり話したがらないんだ」


 ゴーディは先日、父から譲り受けた木刀を磨いていた。


「オレらも、もうすぐ養成学校に行く事になるからな」


 男子生徒は騎士団に入団する前に、見習いになるための試験を受ける為、半年前から騎士団候補生として城下町の養成学校へ行く決まりになっていた。

 しかも、そこは寄宿舎があるスパルタ学校なので、見習いになれる満十歳になるまでの半年間、自宅にも帰れない。

 いつも男子生徒たちと一緒に過ごしていたシルヴィアの居場所が、もしかしたらなくなってしまうかもしれなかった。


「この間マリーにシルヴィを仲間に入れてくれるように頼んでみたんだけど。シルヴィが、女の子たちと一緒にいて楽しいかどうかは……自信ないや」


 シルヴィアが料理や裁縫などに興味があるとは思えないゴーディだった。


「ゴーディ。カイン」


 不意にシルヴィアが、こちらへやって来る。


「どうしたの? シルヴィ」


 ゴーディが声をかける。


「お前ら、放課後も訓練所行くんだろ? 俺、先帰ってるな」


 沈んだ表情のシルヴィアが、二人にそう告げて教室を出ようとする。

 それを見て、カインが呼び止めた。


「なあ、シルヴィ。訓練終わったら、お前んち寄るからさ。久しぶりに秘密基地行こうぜ?」

「今日は、そういう気分じゃないんだ。ごめんな、カイン」

「シルヴィ。日暮れまでには戻るって母さんに伝えておいて」

「ああ。分かった」


 長い金髪を揺らして、シルヴィアは二人に軽く手を上げると行ってしまった。


「最近、家でもあんな感じなんだよ」


 ゴーディは心配そうにシルヴィアの後ろ姿を見つめた。


「どうにか元気づけてやりたいけどな」

「僕らがやったら逆効果になるよ」

「まあ、そうなるわな」

「シルヴィは騎士になるのが夢だったんだから」


 もうすぐ、その夢を比較的簡単に叶えてしまうだろう自分たちに出来るのは、黙って見守る事だけだった。






***






 シルヴィアは学校の門をくぐると、家とは別の方の道へと歩き始める。

 最近の唯一の楽しみが、学校の近くにある中央公園で時折やっているバザーの出店を見て回る事だった。

 中央に伸びる並木道の両脇に色々な店が立ち並んでいる。

 普通の雑貨や洋服などを置いてある店もあるが、中には安っぽい光を放っている剣が"天子だけが振るえる光の剣"として売っていたりだとか、いかにも妖しい淀んだ色をした宝石が"伝説の聖輝石"と歌われて売っていたりする。

 出店の他にも、大道芸やら簡易占い所などがあり、気を紛らわせるのには丁度良かった。

 何個か気に入ったのを買って、しばらく歩いていると、しわがれた声が耳に届いた。


「待っておくれ。そこの長い金髪の子」

「?」


 シルヴィアが振り返ると、高齢の老婆がよたよたと"占いの館"から出てきて自分のを呼び止めようとしていた。

 手に何か長細いものを持っている。


「もしかして、俺のこと?」

「そうじゃよ。お前さんに、これを。……これを持って行きなさい」

「何? これ」


 老婆が差し出してきたのは、随分古い剣だった。

 作りは良さそうなのだが、柄も柄も鞘もボロボロで、持っただけで手が汚れてしまう。

 そして大きさの割に、持ってみると非常に軽かった。


「お護りじゃ。傍に置いておくといい」


 老婆はその剣をシルヴィアに押し付けると、占いの館に戻ろうとする。


「え……いらないんだけど?」


 どうせなら新品で実用的な剣が良い。

 老婆を追いかけて剣を返そうとするが、老婆はそれを拒否した。


「それは、そなたの物じゃ。そなたの傍に置き、何れ子に渡すといい」


 老婆は頑固だった。

 しかし、ただで貰うのは気が引けたので、シルヴィアは仕方なく懐をさぐる。


「んじゃさ、お金払うよ」

「いいんじゃ。元々、お前さんの"お護り"じゃからの」

「困ったなぁ。親の方針で、人から何かしてもらったら、必ずそれを返すことになってるんだ。だから悪いけど、貴女からこの剣を貰う代わりに、代金を払う事にするよ。……この剣、幾らなの?」

「じゃ、銅貨一枚」


 それは最低金額だった。


「はい。これ貰ってくね。ありがとう」


 生憎とシルヴィアは手持ちに銅貨がなかったので、金貨を一枚、老婆に握らせる。

 銅貨は銀貨の万倍で、銀貨は金貨の万倍の価値があった。


「これでは多すぎじゃ」

「実は凄く落ち込んでたんだ。そんな時に"お護り"もらったんだから。何かの縁だと思って、とっといてよ」


 シルヴィアはそう言って笑うと、剣を腰のベルトにさして、今度こそ老婆に背を向けた。

 老婆はいつまでも頭を下げていた。






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