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Prologue 女神その2

 「(……取り敢えず、一通り読み終えたか)」


《スキルブック》を一度閉じて、俺はふぅと一息つく。

視神経の消耗が激しい仕事は普段から行っていたが、慣れてきても辛いものは辛い。

ぐりぐり、と目元を指で刺激しつつ、俺は質問を投げかけた。


「アルテナ、俺が選べるのは三つなんだよな?」


「ええ、譲歩してるんだから、少しは有難いと思って欲しいわ」


「Thanks♪」


「……貴方、本当は私の事嫌いでしょ…?」


「そんな事はない。俺は心底お前を敬愛しているさ」


「……ほんっと、貴方って人は…」


アルテナをイジり倒すのは面白いが、不興を買われては困る。

それに、うだうだと女々しく悩んでいるのも俺らしくない。

目に付いた凄そうなの寄せ集めれば意外と何とかなるだろ。


━━なんてアルテナには口が裂けても言えない事を考えていると。


「ねえ、貴方って本当に、所謂そういう系統に全く興味無いの?」


「あぁ、オンラインゲームなら昔ハマってたな」


「…えぇ……一番関係無さそうなのに…」


「現実逃避には持って来いだろう、あれは。職場の同期と遊んでたが、そいつが転勤って事で会社辞めてな、それ以来手を付けてない」


「何かリアル感が漏れ出してるわね…逃避しきれてないじゃない……」


言われて見て初めて気づいた。


 リアルの友人とプレイするオンラインゲーム。確かに字面からして現実から逃げきれてないのがまるわかりだ。楽しかったから良いし、少しそれ系のヲタクっぽくなったから、この際有益なものとして判断するが、当時の俺の感性を疑う。いや待て、誘ってきたのはあっちだぞ。


下らない責任を架空のそれに擦り付けるが、虚しさが募ってきた。

俺は黙って《スキルブック》を読み返す。


「ふーん、それじゃ完全に何もかも知らないってワケじゃないのね」


「まぁな。だが、こんなのは然したるものだぞ」


「大丈夫よ。神が創造した箱庭世界には、そういった概念が多く取り入れられてるわ。私達だって貴方達みたいに休暇を貰うし、休みは満喫したいじゃない? けど直接手を掛けるのは因果の理に反するからダメなの。あくまで観戦者じゃなきゃね」


「在り来りな話だな。要は神々の娯楽ってワケか」


「今では日本のゲーム文化って言うのは、世界どころか銀河まで到達してるのよ」


「……余計信じられんな。あんなものの何処が良い」


「まぁ、貴方には分からないと思うわ。それより、決まったの?」


話を有耶無耶にさせられながらも、俺は黙って本を読み返していく。


 スキルは系統別に分けられていた。パッシブスキル、アクティブスキル、スイッチスキル……と何種類かの枠組みの中で今にも蠢きそうな文字列は、俺が選ぶのを今か今かと待っている。


見兼ねたアルテナが助言を呈した。


「選ぶなら役立ちそうな、貴方の身の丈にあったスキルがお薦めよ」


「身の丈、ねぇ。それならいっそチートなんて要らないんじゃないのか」


「貴方がこれから向かう世界は、神々の遊戯場なのよ? 暇を持て余した神々が、刺激を求めにこの世界を観覧するのに、何で平和ボケした農業ライフが繰り広げられるのよ」


「農業ナメてると痛い目みるぞ……?」


「そこでマジレスしなくて良いからッ! とにかくっ!」


ビシィ、と人差し指を突き立ててアルテナは言い放つ。


「戦闘を覚悟した上で選びなさい。ネーミングセンスとか、直感で選ぶのは愚行よ」


「流石にそこまではしないが……ふむ」


有難いお言葉を頂いたわけだし、しっかりと選ぶ事にしよう。

ぶっちゃけ《農業技術Lv10》とか取ろうと思ったからな。……何であるんだよ、こんなの。


今までの知識とアルテナの助言を含めて、三つという枠組みを種類別に構成していく。


 パッシブスキルは常駐型のスキルだ。これが有れば有るだけ戦闘が楽になるだろう。逆にアクティブスキルは、使用型スキル。何らかのアクションによって引き起こされる攻撃スキルだ。


残すはスイッチスキル。


 オンオフを自在に操れるので、パッシブとアクティブの中間といった感じだ。無論、内容によってはその解釈では間に合わない場合もあるが、今回は前者の方向性として考えよう。


アクティブスキルは一撃必殺。残る二つとは明らかに毛色が違うのだ。

選んで一枠潰すのが僥倖と言えるだろうか……否、それはリスクが高い。


実際、そんなものは鍛錬の最中に自分自身で見つけ出すものだろう。

人様から譲り受けた必殺技で敵を薙ぎ倒して何が得られようか。


「(となると、パッシブ二つとスイッチ一つ…が懸命か)」


その中でも身の丈に合った、尚且つ即戦力になるスキル。

有用性と利便性、カテゴリーを決めてしまえば絞込みは意外と容易い。


「(《剣術Lv10》《拳打Lv10》《射撃Lv10》……ま、この辺か)」


「パッシブスキルを取るのかしら?」


にゅっと顔をのぞかせたアルテナ。俺は振り払う動作をしつつ簡潔に答えた。


「身の丈に合ったって観点からすれば、別に一撃必殺のアクティブを取る必要性はない。あくまで降り掛かる火の粉を自分で払う技量さえあれば良いんだろう?」


「貴方、色々とコストカットしすぎでしょ」


「ウチの経営方針でな」


「……ごめんなさい、古傷を抉ったわね」


「何、この社畜精神はある種染み付いたと言っても過言じゃない。いっそニートになりたいと思ったが、働いてないと気分が悪くてな。理念が変わらん以上は古傷でも何でもないさ」


「………」


何か言いたそうな表情をするアルテナ。

俺はそれを振り切るようにして背中を向けた。


「(《剣術Lv10》は決定だな。後は……まぁ、使う事は無いだろうが、《射撃Lv10》…。残るはスイッチスキルなんだが……)」


先程から読み返す度にスイッチスキルの項目で目を引くスキルがある。

それは《???Lv10》となっており、ブラックボックスよろしく中身が全く分からない。

俺はアルテナにそれについて質問をした。


「これは?」


「あぁ、それは《種族別スキル》よ」


「何だ、それは」


「箱庭世界に住む十三の種族、そのどれかに貴方もなるわけだけど、その種族によって効果が変わってくる不思議なスキルよ。基本外れを引く事はないし、取っておいて悪くはないわ」


「……ほう」


自分のジョブによって能力が変化する特異スキルか。

ハズレが無い、という事はどの種族になっても、強ち弱いスキルには成り得ないという事だろう。


それなら話は早い。


「これで良い」


「…って、ホントにパッシブスキル二つも……」


「近接は剣、遠距離は……弓、か? ともかく、遠近共に戦えるステータスで、尚且つスイッチスキルは種族によって違うが強力な物なんだろう? これで抜け道はないな」


「理論上はね……」


「因みに、こういったスキルってのを確認出来る技とか有るのか?」


「ステータス、って唱えれば良いわよ。言ったでしょ、神が創造した世界、オンラインゲームとか、そういった物により近い世界観なんだって、聞いてた?」


「…成る程な。困った時はオンラインゲームを思い出せ、と」


「ええ」


そう言うと、アルテナは空間に弧を描く。

真っ黒な空間が競り上げてきて、そのまま《スキルブック》を侵食していく。


「さて、これでスキルの取り消しは不可能よ」


「異論はないな」


「それじゃ、貴方が何の種族になるか分からないけど、幸運を祈っているわ」


「運命の女神に祈られたんじゃ、そう易々と死んでいられないな」


「減らず口ばっか叩いてないで、ほら、行った行った」


真っ黒な空間はいつしか巨大なゲートになっていた。

ドロドロと流れ落ちる不純なそれを忌避しつつも、俺は静かに歩き出す。


「そんじゃ、頑張ってきなさい」








◆       ◆       ◆








 鳥の囀りが耳朶を打つ。


心地良い日差しが明るく俺の身体を照らし出す。

むくり、と起き上がった俺は取り敢えず身体の調子を隈なく調べた。


脳の指令伝達速度も異常無し、手も足も欠損したり損傷を負った部分はない。


「……ふむ、此処は一体何処だ」


俺は起き上がったは良いものの、此処が何処か全く分からない。


 四方を森に囲まれたこの空間、何やら神秘的な光景だが、詩的表現を除けば完全に遭難中である。俺がどの種族になったのかは知らないが、森の中で飲まず食わずで異世界一日目を終了するのは何というか華がない。華どころか枝も蕾もあったものではない。


兎に角、此処が何処か、誰か居るのならば手っ取り早く聞いてしまおう。

俺はそう思って森の中をジグザグに歩き回っては、人の気配を機敏に探った。



そうすること数十分。


俺は綺麗な泉の畔にやって来ていた。

美しく清らかな水が溜まりに溜まったその場所は、湖とはやはり形容し難い。


━━と、そんな余裕は無いのだ。


泉に来れば人が居るかと思ったが、早計だったのだろうか。


なんて思ってぐるり、と一周してみると。


「「あっ」」


人が居た。

いや、それ自体は良いのだ。とても素晴らしい事である。

だがしかし、シュチュエーションを考えて欲しい。


泉。人。この二つのワードを繋げるものは一つ、身体を清める、という事に他ならない。


そして、運悪く、相手は男ではなく、女だった。


それもまだ幼い少女(と言っても15、16歳ぐらいではあるが)。


 一片の曇りも映さないきめ細やかな柔肌が、泉の神聖さを纏ったような水を弾き、恥ずかしさで頬を朱に染める姿は、見ていて初々しさを感じる。……って冷静に解説してる場合じゃないな。


「………」


「………」


無言が続いた。嫌な無言、沈黙というヤツだ。

長い沈黙の果てに、俺は━━━


「申し訳御座いませんッ!!」


土下座した。

そして相手は━━━


「許しません♪」


ガスゥゥッ!!


一見柔らかそうな踵が鋼鉄のそれに近い重量で俺の頭に降り注いだ。

間も無くして、俺は意識を失った。



次回から《吸血鬼》の国のお話です。

その際に、世界観等を伝えていけたらな、と思います。

今後読んでいく中で不明な点、矛盾する点があれば、コメントにてご指摘下さい。


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