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二次方程式の舌打ち

 ミオはなかなか捉えどころのない女だった。愛情に満たされないからと焦る訳でもなく、かといって余った金と時間をワインや美食につぎ込む訳でもない。占いもたいして興味はないらしく、テレビに出てくる占い師を独自の方法で精神分析して笑ったりする。つまり、彼女は多くの一般女性が自分らしさを表すと思い込んでるお祭り騒ぎには全く参加しなかった。

 ただファッションだけは別だ。ミオはいつもセンスのいい格好をしていた、少なくとも僕の前では。初めて僕がミオに会った時、彼女は肩の開いた赤いコルセットを着け、ダークカラーをメインとする花柄のロングスカート、その上から丈の短いレザージャケットを羽織っていた。そしてウェーブのかかった短い黒髪をバレッタで後ろにまとめ、そこに乗せていたのはブランドものサングラスだ。

 当時ミオは僕の最も大切なガールフレンドだった。その彼女との出会いは青春のせいと言わざるを得ない。何か浮き足立つ気持ちがないと男女の出会いはかえって難しくなる。青春は誰にも気づかれないように僕とミオを心ここにあらずという状況に祭り上げていた。

 うん、ミオのことは今でもありありと思い出せる。そしてこうやってミオのことを書くことで僕の心に彼女という存在を刻印しているのだ。僕の青春の証として。しかもそれは僕にとってのものであり君にとってのものでもある。皆がミオという女のエピソードを共有することは、ちょっと付き合えよ、という僕の一言で全て上手くいく。どうだい? 君もミオの話が聴きたくなっただろ?

 

 あれは三年前、台風と共に北海道の夏が去った8月下旬のことだ。僕は高二で夏休みが終わることを惜しむ隙もなく宿題に追われていた。そんな時友人のアユムからスマホにメッセージが届いた。

「オマエに美女紹介してやる」

 アユムは脳天気だ。

「あ、そう」

 僕は面倒臭そうに答える。

「タイミングが合えば俺の彼女にしていたよ」

「詳しく」

「そのミオって女に出会う直前、俺は彼女の親友と寝てしまってね」

 僕はSNSで親友のアユムとこんなやり取りをしていた。


 さっき夕食の後、僕は母親と軽く言い争いになった。自室から出たゴミの分別が原因だ。僕の不注意のせいで彼女に余計な手をわずらわせてしまった。誰が考えても僕が悪い。とはいえムシャクシャするのも事実。

 結局僕は身仕度を整えて家族にバレないように夜の街に飛び出した。机の上に放置した解きかけの二次方程式があきらめたように舌打ちするのが聞こえた。

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