続・摩訶不思議の対話
「えっ」
今度は小夜子が目を丸くする番だった。西の何気ない質問し対して、小夜子は自分の中の無意識な欲望に気づいたからだ。毎週土曜日の明け方のあの夢を、実は、毎晩毎晩渇望していたというどうしようもない欲望に。
そして己を恥じた。あの夢のことは今まで誰にも話したことはないし、これから話す気もない。もちろん、相談に乗ってくれている西にもだ。
「いえ、えっとそんな…なんでもないです」
背徳的な嗜好の鱗片を目の前の男に晒してしまったような気がして、小夜子はひたすら顔を赤くし、肩をすぼめた。小さく自分の頬を叩いて、少し目線を下げると、その先には、すっかり温くなってしまったコーヒーの水面があるだけだった。
一人でなにやら大騒ぎする小夜子の一方で、西は、ふぅん。ととりわけ興味のなさそうな生返事をするだけだった。
ずずず。
西の、おそらく同じくして冷めてしまったコーヒーを啜る音だけが室内に響いた。お互いの間に、どんよりとした沈黙の空気が流れ込み、気まずさだけが残った。よく考えてみれば、西と小夜子は言葉を交わすのはほとんど初めてだった。
そうしているうちにも外はいよいよ暗くなり、なんだか家に帰りたくなってしまった。外の景色が暗闇に包まれたことも手伝って、実際どれくらいたったのかはわからないがずいぶんと長い間、この奇妙な部屋で過ごしたような気がした。
小夜子は、そろそろ帰りたいという意思をどのタイミングで切り出そうかとそわそわしだした。
「あ、あの」
「明晰夢っていうんだけどさ」
小夜子の言葉をかき消すように、西は突然話し出した。
「め…めいせきむ?」
帰るタイミングを失ってしまったことに小夜子は内心失望しながらも、西の話を聞くことにした。よくわからない話しかしてこないくせに、この男の話に興味を感じてしまうのはなぜだろうか。
「自分が夢を見ている、ということを自覚しながら見る夢のことさ。」
「…はあ、」
「僕は明晰夢を見ることができるんだ…たまにだけど。なんで出来るかは自分でもわからないけど、僕はたまに夢の中で歩き回っている。」
少し残っていた冷めたコーヒーを一気に飲み干して、西は饒舌に続けた。
「ただ自分の夢の中を歩き回るだけなら問題ないけど、いつしか他人の夢にも侵入してしまうようになったんだ。ほら、そこら中に転がってる変なものは全部、───他人の夢からの"お土産"だ。」