続・世界史の先生
放課後、職員室に行くと西は自身が顧問する図書委員会へと顔を出しに行ったと言われた。
とりわけ西と親しいわけでもなかった小夜子は、そこではじめて西が図書委員会の顧問であることを知った。
図書委員会といえども、図書の貸し出しや整理整頓などはすべて学校で勤務する司書が行なってくれるために所属する生徒も顧問教師も特に仕事はない。
とても楽な委員会であるため生徒の間でも人気の高い委員会だった。
おそらく西が顧問を買ってでたのも楽であるとか、顧問室で時間を気にせず本を読めるからとかいう理由であることは容易に想像できた。
言われるがままに図書室へと向かうと、西はすぐに見つかった。
試験期間になると静かに賑わいをみせる図書室だが、今はなんでもない時期なので誰も居ない。それをチャンスだと言わんばかりに、西は部屋の中央にある12人掛けの、一番大きな勉強机の半分をひとりで占領していた。
分厚いくて古い本が幾つもの山を作っていたり、見たこともない言語で書かれた奇妙な絵の載った図鑑のような大判の書物が三冊ほど開かれたまま放置されていた。古書独特の酸っぱいような、ほこりっぽいようななんとも言えない匂いは離れた場所からでもわかった。
本で作られた幾つもの山に囲まれながら本を読むことに没頭していたはずの西は、小夜子が少し近づいただけで敏感に頭を上げた。
「やっぱり来たね」
そして彼女を見るなり、にやりと不気味な笑い方をした。
「せっかくだから、お茶でも飲みながら話をしよう。こっちへ」
読みかけの本を広げたまま西が立ち上がり、スタスタと歩き出した。足の長さも手伝ってか、彼は歩くのが速かったので、小夜子は慌ててその後を追って顧問室に入った。
顧問室は言わば図書委員会の部室のようなものであるが、その部屋は西によって完全に私物化されているようだった。
足の踏み場すらないほどの散らかりようで、小夜子にとってはどれも見たことのないものばかりだった。
扉を開けて正面すぐには、小夜子の腰ぐらいまでありそうな大きな黒い観音開きの扉が付いた箱が置かれていた。その箱の周りには、なにやら包帯のような白くて細長い紙が巻かれていて、その紙には文字のような、模様のようなよくわからない細かい書き込みがされていた。
また床の上にあったのは大量の本だけでなく、人を象った黒く光る彫刻や、奇妙なパズルのような鍵が付いた木箱、見たこともない文様の刻まれた壺───足を取られないように慎重に歩いて、漸く西の引いた椅子に座ることができた。椅子は小さな机を挟んで、向かい合うように配置されていた。
腰を落ち着けて、再びよく見ようと周りを見渡すと壁にはびっしりとお面が並べられていた。仮面舞踏会に付けて行きそうな、派手で華やかなものから能楽に使われる般若のお面までバラエティ豊かであったが、どれもくり抜かれたはずの目が小夜子を見下ろしてきているように見えて不気味だった。
室内は甘ったるい香が焚き染められたような匂いが充満していて頭がくらくらし
た。