微睡みの接吻
いつものように身体を起こされて、最初は包まれるように優しく抱き締められる。指先で背骨をなぞられ、まるで皮膚を溶かすようにじわじわと身体の中に沈み込んでくる感覚がある。痛みは伴わず、ただひたすら優しく、甘美だ。
そうしてうっとりと夢の主に身を委ねる間にも、唇は柔らかく食まれるのだ。舌を上手く絡げられて、鋭く吸われ、息をつく暇もなく唇全体を包まれるように舐められる。
「っ…う、はぁ」
目を開けると、空気の中に微かな人の輪郭が存在し、動いているように見える。
「ンン、ぁ」
あなたは、誰なの。
「っふぅ、あ……ン、」
小夜子はキスに夢中になりながらも懸命に問いかける。
歳を重ねるにつれて、キスは激しく情熱的なものになっていった。毎週毎週飽きずにキスをしにやってくる夢の主の正体はわからないまま、やがていつの間にか朝がやってくる。
そうして、眠るか眠らないか、まるで灰色のボーダーライン上で小夜子は無邪気な不貞をはたらくのだった。
本当に、わたしはいつか、あの人と出逢えることができるのかしら。
カーテンの隙間から差し込む朝日を恨めしく思いつつ、小夜子はぼんやりとそんなことを思う。もう少しで、姿が見える気がする。
もう少しで───
まだ微睡みの醒めない土曜日、残る微かな感覚を惜しむように指先を唇に押し当てた。