火曜日に見る夢
火曜日、深夜。
今宵わたしの身を支配するのは、金色の眼をぎらつかせながら鋭い爪と嘴を持って悠然と舞う猛禽類である。大きく羽ばたいた翼はわたしを覆うほどで、びっしりと張り付いた黒く濡れたように光る羽毛の下にある筋肉はしなやかなものだと眺めるだけで判る。
ひゅうー、くるり。
いやになるほど穏やかな青空の中、まるで風の抵抗を知らない巨体は滑らかにわたしの遥か上を翔ぶ。そしてそいつは並行に翔ぶことを急にやめると、スピードは維持したまま高度を徐々に落として、わたしの身体を掠めるのだった。痛みがないまま、新鮮な血液を滴らせてわたしの肉片は雑に剥がれていった。
いつもこの場面で目醒める。
剥がれた肉片の行方は知らないし、夢の中で横たわるわたしが果たして死んでいるのかすらわからない。ただ一つわかるのが、その夢は決まって毎週火曜日に見るものだということだ。
この夢を見始めたのは7週間ほど前だろうか。つまり、もうこの夢を7回も見ているのだ。ある時は脇腹を、ある時は喉笛を、ある時は頬肉を攫われる、そんな残虐極まりない夢であった。
初めて見た時は、驚きと感じるはずのない痛みに身を捩りながら飛び起きた。2度目は、再来した恐怖に怯え、全身に厭な汗をかいて目覚めた。そして3度目にして漸く気づいた。この夢は繰り返し、繰り返しわたしに襲いかかる恐怖の時間であることを。
毎週決まった夢を見ることには驚かなかった。
すでにわたしは、物心が付いた頃から見続けている夢があった。
それは───得体の知れない誰かに、キスをされ続ける夢だ。