勾玉に籠めた約束
少女は親とはぐれ、陽が差さず薄暗い、見知らぬ森で迷っていた。
泣きそうになりながらも森の中を歩いていると、根っこが地に出る程の大きな樹がある広場のようなところに抜けた。
この場所だけには陽が差していて明るい。
大きな樹の根元には少年が一人、座り込んでいた。その少年の髪は綺麗な琥珀色をしていて、白緑色の和服を着ている。腕には澄んだ緑色の勾玉がついた腕輪をしていた。
少女は一人ではないことに安堵し、少年に近づいた。
しかし、近づくにつれてその少年が泣いている事が分かった。
「どうしたの?」
少女はその場にしゃがみ、少年に話しかけた。少年は少女の存在にやっと気付き、うつむいていた顔を上げて少女を見た。
そして、躊躇いながらも理由を言った。
「さっき転んじゃったんだ」
よく見ると、少年の膝には転んでできたような傷があった。
「じゃあ、あたしが治してあげる」
すると少女は指を少年の膝に向けて、空中にクルクルと円をかいて言った。
「ちちんぷいぷい、いたいのいたいの、とんでけー…どう?」
少女はまじないの言葉を言うと少年の顔をじっと見た。
「…痛くない」
「えへへ。このおまじないね、ママに教えてもらったんだよ。こう言うと、痛いのから守ってくれるの」
「そっか、ありがとう」
「どういたしまして。ねぇ、あたしのパパとママ知らない?」
「ううん」
少年は首を横に振る。
「どうしよう、見つからなかったら」
今度は少女の方が泣き出しそうだ。少年は慌てて少女に言った。
「あっ、でも、出口なら知ってるよ」
少年が言うと、少女はぱっと笑顔になった。
「ほんとに!?」
「うん。こっち」
少年が立って少女の手をひく。
そして森の中を歩き続けた。少年が通る道は、まるで木が自らよけているみたいに道が開けていく。
少年は少女の、少女は少年の手をはぐれないように互いにしっかりと握り合っている。
だいぶ歩いたころ、少年が歩くのを止め、立ち止まった。
「ここをまっすぐ行けば帰れるよ」
「うん。ありがとう」
少女は満面の笑みで礼を言った。すると少年は腕にしていた勾玉の腕輪を外し、少女の前に出した。
「おまじないしてくれたから、あげる」
「いいの?」
「うん。今度会ったとき、君が泣いてたら僕が守ってあげる。これはその約束の印だよ」
少年はそう言うと少女の手に腕輪を握らせた。
「また、会おうね」
「うん。絶対にね!」
少年と少女は互いに笑顔で再会の約束をした。
「じゃあね!」
少女は少年に手を振って言われた道をまっすぐ走って行った。
少年から貰った勾玉の腕輪を握り締めて。