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【毎日投稿/全45話完結予定】パンドランディング 〜まじめ+天然+バカ+毒舌=4人が織りなす壮大謎解きアドベンチャー〜  作者: 小野兄子


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#7 『目的』

【前回まで】


ついに王家騎士団と校長を倒したゼン。

2人の次に向かう行き先は!?

ゼンのもとへ駆け寄ろうとするフィーナに、ゼンは鋭い声を掛けた。


「来るな」


その緊迫した声に、フィーナは足を止める。

視線の先、倒れたまま動かない校長を見つめ、震える声で尋ねた。


「死んでるの……?」


「……」


無言こそが、その問いに対する答えだった。


その時、「うっ……」と、背後で昏倒していたケイミューの身体がわずかに身じろぎを始める。

ゼンは即座にフィーナの手を強く握った。


「逃げるぞ」


言うよりも早く、ゼンはフィーナを抱え上げた。敷地を囲む十数メートルもの巨大な防壁を、重力を感じさせない足取りでなんなく駆け上がり、乗り越えていく。


塀の頂点で一瞬だけ立ち止まり、振り返って夜闇に沈む学校を見つめるゼン。


わずかな感傷を振り払うように小さく息を吐くと、そのままフィーナを抱えたまま、外の世界へと飛び降りた。





学校の周囲に広がるのは、深い深い原生林だ。


朝までにはなんとしてもこの都市の管轄を抜けたい。ゼンはフィーナを背中に背負い直し、

視界の悪い木々の間を、風のような速さで駆け抜けていく。


規則正しいゼンの足音と、流れていく夜の風の中で、フィーナが背中からそっと尋ねた。


「先生……あの人たち、殺してないのね。校長先生は自分で死んじゃったけど」


「国家騎士を殺せば問答無用で軍隊が出動するからな。これ以上の面倒ごとを抱え込む余裕はなかっただけだ」


「そっか……」


どこかホッとしたような溜息がゼンの首筋に触れる。


ゼンが「なんだよ?」と短く返すと、フィーナは少し申し訳なさそうに言葉を続けた。


「いや……助けてもらって、こんなこと言うのもあれなんだけどさ……」


「……」



「私はね……私が生きるために、私のせいで誰かが死ぬのは、見たくないな」



「…………っ!!」


背中に伝わるフィーナの小さな体温と、その言葉の重みに、ゼンの身体がかすかに強張った。


何かを言い返そうとゼンが口を開きかけた、その瞬間。


突如として足を止め、ゼンの口から熱い塊が溢れ出た。激しく咳き込む。


「……っ、がはッ!?」


ボタボタと夜の地面を黒く汚したのは、まぎれもない鮮血だった。

一気にゼンの身体から力が抜け、膝が激しく震える。


「きゃっ!? せ、先生……っ!?」


背中からずり落ちるように着地したフィーナが、慌ててゼンの顔を覗き込む。


月光に照らされたゼンの顔は、土気色を通り越して真っ白だった。


(わかってはいたが、グランドクラスの攻撃をまともに喰らえば……タダで済むわけないか……)


校長の能力を見破るために受けた、グランド・ケイミューの攻撃の代償は高くついていた。


「ちょっと、先生!? 嘘でしょ……血が……!」


パニックになるフィーナの手を、ゼンは血に染まった手で弱々しく掴む。


「声が……大きい。静かに……頼む……っ」


ゼンは口元の血を強引に袖で拭うと、再び這い上がるようにして立ち上がった。激しい呼吸のたびに、肺の奥からヒューヒューと痛々しい音が漏れる。


「せ、先生……もう無理しないで! 私、歩くから……!」


「ダメだ。手負いの俺より遅いフィーナじゃ、この森は抜けられない……っ。いいから、大人しく掴まってろ……!」


有無を言わさぬ口調で、ゼンは再びフィーナを背負い、よろめきながらも前へ足を踏み出す。


背中に伝わるゼンの熱い吐息と、激しい鼓動。


(なにが『私のせいで誰も死なせたくない』よ……!)


フィーナは自分の無力さに、奥歯がすり減るほど唇を噛み締めた。


ゼンは傷一つない顔で自分を助け出してくれた。それは、自分のために敵の攻撃をすべて、その身一つで受け止めてくれていたということだ。


それなのに自分は、背中で甘ったれた理想を語っていた。


悔しくて、涙が止まらない。


でも、泣いている暇なんてない。これ以上、この人の足を引っ張りたくない。


(守られるだけの子供は、もう終わりだ。せめて……自分の命くらい、自分で守れるようにならなきゃ……!)


フィーナはゼンの首に回した手に、ぎゅっと力を込めた。


「……先生」


「……なんだ。愚痴なら後にしてくれ……」


「愚痴じゃない。……お願い、先生。私に、禍力を教えて?」


「……っ」


「私、強くなりたい。ちゃんと勉強するから……だから、お願い……!」


夜霧の森を駆けるゼンの背中で、少女は小さく、けれど確かな大人の一歩を踏み出した。


やがて森の木々の隙間から、うすら明るいオレンジの朝光が見え始めていた。





フィーナが川の水で濡らしたハンカチで、眠るゼンの青ざめた額をそっと拭う。


アメージュ川のほとりにひっそりと佇む無人の小屋に、2人はいた。


森を抜け、念には念を入れて追跡を巻くために夜通し駆け続けた。

先にある国境の検問を強引にすり抜け、ようやく辿り着いた静かな川のほとり。


禍学専門学校から現在いる無人の小屋まで、その走行距離はなんと140キロに及んでいた。


━━━━━━━━━━━━━━━


ここにたどり着いたゼンは限界を迎え、身体を地面に横たえてわずかな仮眠をとっていたが、ようやく目を覚ました。


既に太陽は高く昇り、うららかな木漏れ日の中、少しずつ会話が始まる。


「……少しは落ち着いた、先生?」


「あぁ……最悪の峠は越えたな。ここはもう、隣国の領内だ」


フィーナはホッと胸をなでおろしながらも、この先の不安を抱えていた。


「ねぇ先生。……これから、私たちはどうするの?」


ゼンはまだ辛そうに上体を起こすと、フィーナの手帳とペンを借りて簡単な世界地図を描き始めた。

ちなみに、ゼンは壊滅的に絵が下手だった。


「目指すのは、大陸の西の最果てにあるサザナだ。そこに……俺の学生時代の担任だった『すげぇばぁちゃん』がいる」


「先生の、先生……?」


「あぁ。あの人の元へ行く。おそらくだが、今俺が知る中で一番あの学校について詳しい。何かしらの手がかりは得られるはずだ……だが」


ゼンは子供のお絵描きのような地図を指さす。


「そのためには、ここから最短でも4つの国を通り抜けなきゃならない」


━━━━━━━━━━━━━━━


この世界の初代国王は、神話において『イペ』と呼ばれる神とされている。

神官を引き連れてフィーナたちが過ごした学校の


ある中央都市「セレメント」に降り立ち、そこから発展を繰り返した。


神話はさらに続く。


その後イペは400年生き続け、ゼンが今描いている14の大大陸を開拓した。


イペには無数の王子がいたため、その中から叡智に優れた皇太子14名を選抜し、以後その14カ国を支配させた。


その後は気の遠くなるような歳月をかけて世代交代を繰り返し、現代の王へと継承され続け、今日に至る。


━━━━━━━━━━━━━━━


そのうちの4つの国を抜けるというのは、並の冒険者であれば狂気的とも言える大遠征であった。

地図に描かれたゼンの指の軌跡を見て、フィーナが首を傾げた。


「ねぇ先生……これ、西へ行くにしては、ずいぶんと南側に遠回りしてない?」


「あぁ。わざとだ。おそらく今後も刺客が送り込まれるだろう。そうなるとフィーナを守りながらこの旅を生き抜くには、俺だけじゃ戦力が足りない。……だから、まずは南の自由交易都市へ向かう。そこに行けば、少なくとも俺の同級生だった奴の居場所について聞けるはずだ……」


少し歯切れの悪くなるゼン。


「同級生?……その人は強いの?」


「あぁ。多分だけど、純粋な禍力対決なら俺でも相手にならない」


「……」


「本来なら主席卒業は俺じゃなくあいつのはずなんだけどな……。授業にもあまり顔を出さなかったから内心点がな。問題児で有名だったし、すぐ手が出るし、仲間になったとしても協調性がな……」


話しながら、どんどん不安材料を口にしていくゼン。


「うーん……だんだん不安になってきたな。しかも、国を敵に回した俺の誘いに乗るかどうかは賭けだ。……まぁ、最悪力ずくでも連れて行くさ」


(ゼン先生でも勝てない?……きっと、ゴリラみたいな不良なんだろうな。嫌だなぁ……)


ゼンはそう溢すと、愛刀シュヴァイツアーの柄に手をかけ、ゆっくりと立ち上がった。


「その間の道中は、禍動のことを勉強しながらだな。強くなりたいんだろ?」


はて? と気の抜けた顔をするフィーナに、ゼンは意地悪そうに目を細めて言った。


「まさか……忘れてないよな? あの時のセリフ」

「えっ……!?」


フィーナの動きがピキリと止まる。


「あ、あの…………えっと……」


目が泳ぎまくるフィーナをじっと見つめるゼン。


少し慌てながらも、フィーナはめいっぱい胸を張って言い張った。


「も……も……もちろん! 忘れるわけないじゃん! 心に刻んでるよ、心に!」


「……怪しいな。まぁいい、歩きながら授業開始だな」


「ええーっ!?」


ゼンはニコリと笑うと、自作の大陸地図をしまい込み、まるで冒険の始まりのようにマントをたなびかせた。


「いくぞ!」


しかし、フィーナの表情は少し暗い。


「不安か?」



「うん。あのね先生……その書いた地図捨てない? むしろ迷子になりそう……」



「ぐぬぬ……!!」


ーー 2人の遥かなる「4カ国遠征」の旅が、いま水のほとりから静かに始まった。

『パンドランディング』を開いていただき、本当にありがとうございます。

たくさんのPV嬉しいです!ぜひ感想などあればコメントやご評価いただけますと励みになります!

既に半分以上の原稿は出来ておりますのでブックマークなどして頂けると嬉しいです。


【次回予告】


フィーナに禍動の勉強をさせるのだが、一向に上達しない。そんな中、思わぬ敵に遭遇するゼンとフィーナ!

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