#35『獲物』
一方その頃シルキーは逃げ切れないと思い、荒野でリノビオと対峙していた。
「もしかして天才シルキーさんが禍動切れか?」
シルキーは服についた埃を払いながら挑発に挑発で受け返す。
「追いかけっこも飽きたしここらでボコるけどいい?」
シルキーの後ろにはフィーナが隠れている。
フィーナの頭を撫でながら忠告をした。
「私の背中から離れないこと、それから視線は絶対に下げない、いい?わかった?」
フィーナが頷くと、シルキーは片手で突き出した掌から、70ほどの輝きを放った閃光を断続的にリノビオに浴びせる。
200メートルほどの距離をつめたリノビオに向かった閃光は、0.1秒で獲物に到達したが、瞬時に分厚すぎる禍動のバリアを張らし、一つ一つ跳ね返されてしまう。
(あの女……ゼンより懸賞金が低いが一番侮れん。少しでも気を緩めたら一気に叩かれる。もし万全だと思うと恐ろしいくらいだ)
ドドドドドドドドッ!!ドドドドドドドドッ!!
(だが……!)
ドドドドドドドドッ!!ドドドドドドドドッ!!
(禍動量は今のシルキーだったら俺と互角……
いや、やや俺の方が上くらいか?どっちが先に尽きるか根比べだな)
「………」
シルキーは無表情で全力で光の禍力を矢のように飛ばしていく。
20分ほどの攻防の中で段々とシルキーの線状の光が少しずつ細くなっていく。
ドドドドッ……ドドッ……ドドドド……ドド
(この女……力がなくなってきたのに顔色ひとつ変えないか……)
ドドドド……ドド……ドドドッ……ドッ
(ただ、ポーカーフェイスでいてもこんなに早く禍動切れを起こすのはおそらく!)
ドド……ド……ド……ドド
(不安・焦り・疲労)
光の波状攻撃がみるみると痩せ細っていく。
(ふっ、違いねぇな……あと1分以内には力尽きて倒れる……そしたら四肢を裂いて動けな)
ドゴッッッ…!!
「あぐぅっ!!」
リノビオは顎下に強烈な痛みと、目眩のように視界が歪み出した。
(な……なにが……起き……)
リノビオは何をされたかもわからずに膝から崩れ落ちて失神した。
「はぁあ……しんどっ!」
シルキーがため息を吐いて座り込んだ。
「シルキーさん!どんな技使ったんですか?」
「そんな大した技でもないわよ」
汗を手で拭いながらシルキーが解説した。
シルキーは片手で波状攻撃を仕掛けながら、もう片方の指ではゆっくりと太い禍動の光を地面に刺し、その光がL字に曲げた後、地面を下から這わせてリノビオに向かわせていた。
「あいつのバリアは硬いんだけど足元までは張ってなかったからさ」
(あ!だから視線は下げるなって言ってたんだ!それ見てたら絶対に釘付けになってあの人に気づかれちゃっただろうなぁ)
リノビオの足元まで這わせた光の線を一気に上に突き上げて、顎に命中させた。
「大丈夫?光のぴゅーって飛んでたやつ、途中で元気なくなってたけど……」
「あれは『ブラフ』よ、力が弱まったら敵は油断はするからね」
「なるほど!」
フィーナの能天気さとは別に、シルキーは脳内で戦闘の反省をはじめた。
(けど、あのままやってたら……)
「シルキーさん?」
「………」
(まっいっか!勝ったし!)
面倒くさいことが嫌いなシルキーは考えるのをやめた。
◆
ゼンがスパージュの能力で刀を落とす少し前、ヴェトンは余裕がないほどリデアとの戦闘に集中せざる得なかった。
(多分ゼンより速いな……捕まえらんねぇ)
攻撃を避けながらドンッと地響きが鳴るほど重い殴打を繰り出すが、リデアの鋼の腕当に塞がれる。
(血出まくってるし、さっさと決めないとやべぇかも!)
ドガッ!ドガッ!
(いいこと考えた!でも……)
ドガッ!
(……痛いけど、まぁ仕方ねぇか)
ドガッ…ドガッ!ドガッ!
「おい!ベトン!考え事しながら"戦われた"のは初めてだぜ?」
「バカ野郎!『ベ』じゃなくて『ヴェ』だ!」
2人の火花が散る無数の手数が空で舞う。
その時 ━━
「しまった!」
ゼンが刀を落としたその声にヴィトンは思わず脇見をした。
グサ!!!
「脇見はさすがに舐めプだろ!?『ベ』トン!」
リデアが笑いながらヴェトンの腹に刀を突き刺すがヴェトンの表情は変わらない。
(嘘?…抜けねぇ!)
「脇見したフリしたらこうくるかな?って思ったから別に舐めてねぇよ」
リデアが刀を捻ろうとするが、ビクともしない。
ヴェトンに手首をガチッと掴まれ、ようやくリデアに笑顔が消えた。
「ま……待って!ヴェトン!!」
「今から言い直しても遅せぇよ……」
ドゴッッッ!!
渾身の一撃はリデアの手甲ごと壊し、顔面に撃ち込む。
ズザーーーーーッと、勢いよく地面に叩きつけられたリデアは白目を剥き失神した。
しかしゼンを心配して横を見た瞬間、ヴェトンも倒れ込んで気を失った。
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「しまった!」
ゼンが刀を落とした顔をスパージュは刮目した。
(あぁ……獣も魔族も人間も……死ぬって分かった瞬間にするその目!……その目が……あぁ……ゼン!やっぱりお前のその目……たまらないよ)
しかし次の瞬間、スパージュの強烈な痛覚が脳をジャックした。
「痛……っ!?」
スパージュの背中を誰かが斬っていた。
(シルキー?違う!ヴェトンは……!誰だ?)
"シュヴァイツアー自身だった"
「ゼンの得物!?」
バシュッ!バシュッ!バシュッ!
浮かんだゼンの愛刀が振り向いたスパージュの全身を滅多斬りにしていく。
(このガキ……!まさかオート(自動)禍動!?)
「お前の講演の、お気に入りは『生き残る奴ほど死ぬ準備をたくさんしている』だったよな?」
「がはっ!」
「人生が変わるほどの名言だったよ」
スパージュは血を吐きながら、ニヤッと笑った。
(ふっ、ちょっと違うが……しかし……)
「……エクセレントだ……ゼン……」
それだけ言い残し、満足げに前に倒れた。
(『オート禍動』……フィーナと旅に出なきゃ思いもつかなかった)
"自分がもし死んでしまったらフィーナは?"
以前、カエルの魔獣の毒で瀕死になってから、そのことだけを考え、行き着いたのは、自分の死後でも局所的にフィーナを守る保険だった。
(こいつに俺が死んだ後のイメージを送れば……けど)
ー 複雑な命令は実行できない ー
(それなら……)
発動条件は「刀を落とした瞬間」
対象は「その場にいるフィーナを攻撃する者」のみにしよう、そうゼンは考え、その日から、シュヴァイツアーに禍力を毎日ありったけ注ぎ込んでいた。
シュバイツァーは役割を終えたように禍動がなくなり、ようやく地面に転がった。
(まさかこれを使う日がこんなに早いとはな……そして『新たな奥の手』がいる)
ゼンはサザナにそびえる山脈を見つめた。




