優しい罰
短編です
この間、同僚が会社を辞めた。最後に見たアイツは、ひどくやつれていて、心配になるほどだった。
入社してから十年、俺とアイツは、ずっと一緒に競い合うように仕事してきた。アイツは頭が良くて、優しくて、頼りになる奴だった。出身大学が少しランクの低い大学だからという理由で、課長にいびられてさえいなければ、今頃はアイツは何らかの役職についていただろう。それに比べて俺は、大学こそ偶然空いた枠で引っかかって、多少は名のある大学に入学できたおかげか、課長から良い意味で目をかけられていたから、いびられはしなかった。まぁ、結果をあまり多く出せてはいないから、未だにアイツと同じように平社員のままなんだけど。
アイツは、優しくて、あまり主張が激しくないから、課長にいびられる姿を見た他の同僚や、部下や後輩にまで舐められていて、残業を押し付けられることがしばしばあった。
そのたびにアイツは、ニコニコ笑って、「いいですよ」なんて言って残業を請け負っていたから、俺は一度だけ、断るように進言したんだ。でもアイツは「俺にできるのはこれくらいだからな」なんて言って、そのあとも断りはしなかった。俺はアイツが過労で倒れたりしないかが心配だった。
心配はしても、本人が現状を受け入れているのだから、俺にはどうしようもできない。次第にやつれていく頬、弱々しくなっていく体、目から覇気のような物はほとんど感じなくなっていった。
アイツが辞める一週間前、俺に久しぶりに声をかけてきた。
「お疲れ」
「お前、ようやく辞める気になったんだな・・・」
「あぁ、お前には世話になったよ。ありがとな。お前はこの会社辞めないのか?」
「俺?俺はまぁ・・・もう少しかじりついてみるよ」
「そうか・・・まぁ、頑張ってくれ」
それがアイツと話した最後の会話になった。実は課長の推薦で、アイツがするはずだったプロジェクトのリーダーに、俺が成り代わってしまったんだ。十年目にしてそんな大役を任されるなんて初めてだったから、申し訳ないと思いつつも、今の俺にこの会社を辞めるという選択肢はなかった。
アイツが辞めて一週間が経った頃、異変が起きた。
まず、後輩のパソコンにエラーコードが現れて、パソコンのデータが吹っ飛んだ。まぁ、後輩は入社2年目の若手だから、パソコンにあまり重要な資料は入っていない。おかげでその日はさほど問題にはならなかった。
しかし次第に、数人のパソコンから同じエラーコードが出現し、データが一瞬にして消えた。何人も何人も、エラーコードのせいでデータを紛失していく。
いったい何が起きたのか、誰にも何もわからない。
ついには会社全体のパソコンにエラーコードが表示され、俺のパソコンにも影響が及んだ。
技術開発課がすっ飛んできて、対処に当たると、ウィルスの出所を追いかけ始めた。
エラーコードが出始めた面子を確認していくと、それはアイツに仕事を押し付けていた奴らが筆頭だった。まさかとは思ったけど、そのあとにエラーコードが出たのは、俺を含め、アイツに仕事を押し付けていない人間だ。アイツの仕業だとして、なぜ一週間経ってからそんなエラーコードが出現したんだろう。
数日たって技術開発課が現れ、こういった。
「エラーコードは時限式で、そのウイルスの出所が、この課のパソコンからでした」
そう言って、報告書を持っていた開発課の職員が申し訳なさそうに視線を上げた。
俺たちは、その視線を追った。
その先にいた一人は、青白い顔をしていた。
——優しい罰——
優しい罰は誰に




