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想い焦がれる時間

いらっしゃいませ。

I.終業と放課


ようやくといってもいい4時間目の終業のチャイム。

「ありがとうございましたっ!」

みな威勢良く挨拶をし、目で先生が退出するのを追いながら、机にうっつぷす。

そして、決まって口癖のように言うのだ、「あー疲れたー」と。


そんないつもと変わらない昼休みの始まりと共に、宮本は大きくため息をついて目を瞑った。

「…ねみぃ」

とりあえず眠い。頭の中は眠気と眠気と眠気と、少しだけ空腹感、といったような感じで、もはやまともな思考なんてできる気がしない。


そのままうとうとし始め、心地良い夢の世界へ一直線………


「おーい!」


突然頭元で呼びかけられ、驚いて目を覚ます。


ぼんやりとしている視界をゆっくりと女子生徒の方に向ける。


が、目に映るのは胴体だけで顔が見えない。


「………?」


そのままフリーズしていると、その女子生徒がパッとこちらにしゃがみ込んだ。


「おはよー、もしかして寝てました?」


「……上川、さん…?」


まだうまく働かない頭をフル回転させ、次に続く言葉を探すが、元よりコミュ力のない自分には無理だった。


「あ、そうだけど……分かるんだ?私がメガネしてても」


確かに言われてみれば彼女は眼鏡をしているが、おおよそ眼鏡をしていても大体の人は分かるような気がした。


「……で、何か用事があるんですか……?」


眠たさにどうにか打ち勝ちながら、会話を続ける。


彼女は僕が眠そうにしていることに気づいているのだろう、少し笑いながら言った。


「んー、今ヒマ?」


「…まあ、確かに、暇ですね」


暇かどうか、と言われると眠たいから暇じゃない、と言いたいところだが、逆に暇じゃなければ寝れないわけだからやっぱり暇ではあり、つまり質問に対しての答えも「暇である」になる。

もとより気になっている人に暇かどうか聞かれて暇じゃないです、なんて言えるはずもなく。


「じゃあさ、ちょっと付き合ってよ」


普通に考えて「(私のやることに)ちょっと付き合ってよ」となるし、むしろそうだとしか思わなかっただろうが、この時の彼は「眠さ」× 「好意」によって完全に聞き間違えを発動してしまった。


「……えっ、えっ、えーっ?!」


若干大きな声を立てた自分に対して、上川さんが人差し指を立てる。


「うるさい、ばれちゃったらどーすんの」


またこの発言も違う妄想をさらに促進することとなってしまい、宮本は顔を真っ赤にしながらうなづいた。


「わっ、分かりました!僕でよければ!」


上川さんは全く違う聞き違いをしていることにはつゆも気づかず、嬉しそうに微笑んだ。


「それはよかった、じゃあ今日のほーかごね!」


その日は、今までで初めてと言ってもいいほど、午後の授業は苦痛ではなかった。


来たる放課後に期待を寄せ、珍しくちゃんと書いた(なお当人比)授業のノートをカバンにしまい、帰りの支度をして、ドキドキしながらホームルームを待ち侘びる。


「ホームルーム始めるぞー」


若干低い乾いた声で担任が皆を座らせる。


「えー、明日ですが……」


どうでもいいことをベラベラと話している担任の声を、耳に入れることなく聞き流し、早く終ってくれ、早く放課後になってくれと今か今かと放課を待ち侘びていると、突然周りの皆が盛り上がった。


なんだ?と思い皆の反応を見ていると、どうも今から席替えがあるということらしかった。


(席替え……か、別に嫌ではないけど…今じゃなきゃダメだったかなぁ)


こうして、早々にホームルームが終わることは諦めなくてはならなくなってしまった。



II.ドキドキの席替え


「じゃあ席の決め方は…くじ引きでいいか?」


「いいと思いまーす」

「えーっ?!」

「選びたーい」


そんな風にクラスメートたちがはしゃいでいる中、僕は一人静かでいた。

「……早く席替え終わらないかなぁ」


そんな席替えよりも早く放課後になって上川さんと………ん?


「席替えでもしかしたら席が近くなるかもしれない……?」


そんな重要な行事をよもやスルーしそうになっていたとは……生涯悔いる失敗だ…


大慌てで周りを見ると、後ろからくじ箱が回ってきていた。


みな次々に引いていき、数字を見て、周りの友人と照らし合わせては喜んだり、あるいは悲しんだり、実に感情がごちゃ混ぜになっている。


徐々にくじ箱は前に回ってきて、ついに自分の番になった。


(とりあえずどうか上川さんと近い席近い席近い席近い席………)


もはや呪いなのではというレベルに祈りを捧げ、くじ箱に手を突っ込む。


くじ箱の内側面を一回りした後、手の感覚を頼りにほしいくじを探す。特にこれだとわかるようなものはないのだが、まあ勘というやつだ。


ふと手の先でピンとくるようなくじを見つけた。

ゆっくりと間違えないようにくじを確実に掴み、手を引き抜く。


手には何の変哲もない、でも確かにそれだと思えるくじ…という名の紙片があった。


くじ箱を前に回して、少し深呼吸をする。



ペラっと折りたたまれているくじをめくる。


一部しか見えなかったがおそらく「21」だろうと思われた。


しばらくして全員がくじを引き終わり、前に名前を書く時間になった。

自分のクラスは縦6列横7列で、後ろ側のはじっこだけ机がない。


皆がどんどん黒板に書いていく。

上川さんは23番であった。

そこで自分の淡い期待は砕かれた。

上川さんは4列目の左から3番目。

自分は3列目の一番右端。

近くなるどころか遠くなっている。


最悪の結果に苦しみながら自分もそろそろ書かなくてはと思い、よろよろ立ち上がって黒板をよく見ると、21番のところに別の名前が書いてあった。

「…?」

慌てて自分のくじを見返した。

そこには「24」と書いてある。


思わず二度見する。


「えーっ?!」


その自分の大袈裟じみた声にクラス中がしーんとなる。


「…宮本、うるさいぞ」


担任が突き放すように言うと、クラス中が笑い転げはじめた。


「どーした宮本!」

「なんだ?好きなやつと隣にでもなったのか?」


その言葉に一瞬ドキッとするが、まさか気づいているはずがないだろうと自分に暗示をかけ、「そんなわけないだろ?!」と返す。

が、その時一瞬声が裏返ったような気がした。


まずい、と思い、何か弁明しなければ、と口を開くが、何も言葉が出てこない。


その男子が口を開く。


「まーそうだよな、お前に好きなやつなんかいないかぁ!」


人を小馬鹿にしたような言葉だったが、それよりもバレなかったことに対しての安堵が大きすぎて返答することを忘れてしまった。


それを好機と見たのか、さらに追い討ちをかけてくる。


「無言ってことはもしかして図星か?まあもしいたとしても叶いやしないけど」


一瞬その言葉にイラッとしたが、やはりそれよりもバレたくない一心が大きく、曖昧な返事で終わらせる。


チラッと上川さんの方を向くと、彼女もまたこちらを見ていた。

が、ふっと笑うと、そのまま目を逸らしてしまった。

その仕草に一瞬だけ不安がよぎるが、その不安はあっという間に席が隣になったことへの喜びで塗りつぶされていった。


「———さて、じゃあ明日からは…おっと失礼、来週からは、この席で行くからな、覚えておけよ!」


クラス中の空気は本当にあちらこちらで違う。

友人と近くになれて舞い上がっている者、逆に喋ったこともない女子に周りが囲まれていることに絶望して机にうっつぷす者、はたまた嬉しさのあまりうっつぷす者。


「じゃあ挨拶、しようか」


「起立!」

「気をつけ!礼!」


「「さようなら!!」」


バタバタ、とカバンを背負ったりする音が教室中を満たす。


宮本はよろこびが身体中をぐるぐると駆け回り、かろうじて机にうっつぷして表情に出すので精一杯だった。


とそこへ、


「おっ?どーしたのかな?」といつものような調子の声が聞こえる。


顔を上げるとニコニコしながら上川さんが机の前に立っている。


「あっ!そう!席替えの番号が上川さんに近かったんです!」


嬉しさのあまり頭の回っていない宮本は、清々しいほどに即答した。


というのもこの後デートに行く相手にそれを言ってもそれは相手にとっても嬉しいことのはずだからだ。


しかし、そもそも宮本はデートに行くわけではない。そもそも付き合ってというのも意味が違う。


上川さんは一瞬目が点になって、そのまま目を大きく見開いたが、その目には驚きと少しの気味悪がっている要素もあった。


「……えぇ…?あっ、そうなんだぁ……それってそんなに嬉しい…?」


思わぬ反応に宮本は顔がこわばる。


「えっ?」


「いやだって私と席が近かったらどうとかって別にないでしょ?特段授業中に喋る訳でもないし」


完全に疑問符を頭の上に浮かべている上川さんを見て宮本は何かおかしいことに気づくが、一体何がどうなってこうなっているのかは全く予想もつかなかった。


「…え、あっ、そ、その、普通に、上川さんと近くなれて嬉しい……と言いますか」


「………?!」


上川さんは一瞬だけ顔を赤くして目を伏せかけたが、その瞬間ぱっと目の奥に面白がっているような光が浮かんだ。


「…ふーん?つまり宮本くんは私と近くなったのが嬉しいと?それって何でだろうね?ね?」


宮本は質問の意図を一ミリも理解していないので、なぜそんなことを今更聞かれるのかと疑問を浮かべる上に、羞恥心もあって言葉にはならなかった。


「えっ?…いや、えっ……あ、え?」


上川さんはニヤニヤとしながらこちらをじーっと見ている。


その視線に若干どぎまぎしながら宮本もかろうじて反撃しようとする。


「…で、でも上川さんも嬉しいでしょ…?!」


上川さんが呆気に取られた顔でこちらを見る。大きく見開いた目は鏡のように澄んでいて………


「えっ?」


その目の中に一瞬だけ嫌悪感が浮かんだ気がして。


「うわぁ……宮本くんって現実と妄想の区別つかない人なんだぁ……」


上川さんが若干困ったような顔で笑いながら言う。


思わぬ返答と表情に宮本は慌てふためいて周りを見渡す。


周りは何もないように帰りの準備をしている。


「えっ?だ、だって上川さんが付き合ってって……」


「………え?ちょ、ちょっと待ってもしかして今日のお昼の話してる?」


それ以外の選択肢があるのか…?と思いながら首を縦に振る。


「あー……そっかー………そういう誤解の仕方するのかぁ……」


「え?」


上川さんは半ば笑いを堪えるのさえ辛いといった様子である。


「別に付き合ってって交際しよう?ってことじゃないよ?ただ単に暇なら付き合って、着いてきて?って意味ね」


宮本は真っ赤な茹でタコのようであった。


「…まったく…これだからヘタレは…」


笑いながら上川さんは宮本の頭を小突く。


「まあとりあえず行こっか、お店閉まっちゃうし」


更新遅れてしまいました!申し訳ありません!

本日もお読みくださってありがとうございます!

ぜひご感想やご評価もお願いいたします!

それではまた次もよろしくお願いいたしますー。

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