第28話:親友
ニブルから候補者狩り――それがソフィアだと言われた時、私は即座に否定した。
だってソフィアはずっと私を助けてくれた親友なんだもの。
でもニブルから流れてくる情報が、本当に昨夜襲撃してきたのがソフィアだったって私に告げていた。
だけど、それでも私はソフィアを信じる事を選んだ。
そしてソフィアの家の近くの街に辿り着くと、すぐに騒ぎに気付いた。
「逃げろ! 巻き込まれる!!」
「貴族の――候補者同士の戦いだ!?」
人々が逃げてくる。候補者同士の戦いだと叫びながら。
それを聞いて私は、反射的に何かを感じ取って街中でも馬を走らせた。
そして魔力が感じる場所、戦いの音が鳴る場所に辿り着くと、そこには昨夜襲ってきた候補者狩りが立っていた。
相手は既にいなかった。決着が着いたんだと思う。
勝ったのは候補者狩り――それを見て、私は思わず名を呼んでしまった。
「ソフィア」
その言葉に候補者狩りは振り返って、フードを外した。
「あら、ステラ……どうしたの?」
フードから出てきたのは、花の様に綺麗な薄紫色の髪――ソフィアだった。
「うそ……どうして?」
ニブルの言った通りだった。
昨夜、襲撃してきた正体は――ソフィアだったんだ。
私は言葉が震えるのを感じた。
まだ信じられないから。
でも、そんな私を見てソフィアは笑っていた。
「それはどういう意味で?――私が候補者狩りだったこと? それとも昨夜、アナタを襲撃したこと?」
「どっちもだよ!」
気付けば私は叫んでいた。
叫ばなければ胸が破裂しそうな程に苦しかったから。
けどソフィアは私が叫んでも怯んだ様子はなく、ただ真剣な表情で私を見ていた。
「ステラ……アナタは本気で貴族王を目指す気はある?」
「……えっ?」
ソフィアの言葉に私はすぐに返事をする事が出来なかった。
そんな私を見てか、ソフィアの瞳が険しくなるのに気付いた。
「私はあるわ。必ず叶えたい願いがあるから……その為には邪魔なのよ。本気で貴族王にも目指すつもりもない半端な候補者達が!」
「願い……それって弟くん――レイくんのこと?」
私がそう言うと、ソフィアは悲しそうな表情で頷いた。
「そうよ……レイは今も病気で苦しんでる。ファルに頼んで偉い医師に視てもらっても完治できなかった。――ただでさえ、今は貴族王の戦いで貴族間の繋がりが閉ざされてる。ファルに頼っても無理なら、私が出来る事は候補者狩りぐらいだったのよ!」
そう言って叫ぶソフィアの瞳からは涙が流れていた。
ソフィア――そんなに苦しんで、悩んでたんだ。
私、全然知らなかった。
親友だったのに。そう思った私は言葉が出なかった。
けれど、ソフィアは言葉を続けていた。
「レイの為なら私は貴族王を目指して、その願いを叶えてもらう!――例え、途中で敗北したとしても私は戦果をあげるわ! それも上級貴族になれる程の戦果を! 上級貴族にさえなれば多大な恩恵が得られる! 少なくともレイを今よりも助けられる!」
「だから私を襲撃したの……? 上級貴族二人を倒したから?」
恐る恐る私は一番を聞きたかった事を聞いてみた。
すると、ソフィアの表情が険しく変わった。
「それだけじゃないわ! ファルの屋敷で聞いて確信したのよ! ステラ! アナタは貴族王を目指す気はないって! 領民? 家の位? どれもこれも、もう叶ってるも同じじゃない! 上級貴族二人を倒した時点で下級筆頭か中級以上は約束されたも同然よ!」
「それは……!」
ソフィアの言葉に私は言い返せなかった。
私にとって領民や家族は、本当に大切な存在。
だけど、今のソフィアの気迫を前には何も言えなかった。
少なくとも、私の大切な存在の皆は、すぐに命の危機にある訳じゃないから。
「だからステラも邪魔なのよ! 私だけがアナタを助けて……なのに私の時は助けてもらえない存在なんて親友でもなんでもないわ!」
「っ! 言ってくれれば良かったじゃない! 言ってくれれば私だって――」
「言って何になるのよ!! 下級貴族のアナタに言って!! 助けにもならない相手に頼む程、虚しいものはないわ!」
その言葉に私は胸を貫かれた様な衝撃を受けた。
下級貴族だからと馬鹿にされていた私を守ってくれたソフィア。
彼女に下級貴族だからと言われて、私は心の底から悲しかった。
でもソフィアから謝罪の言葉はなかった。
ソフィアはマントから腕を出すと、その両手には花を模したトンファーが握られていた。
「もう良いでしょステラ! これが私の答えよ!――レイド!!」
「あっ――ガハッ!!」
咄嗟にニブルを抜こうとしたけど、私はニブルを置いてきた事を思い出した。
その瞬間、腹部に強烈な一撃を受けた。
私は痛みと共に全身から酸素を吐き出した様な感覚に襲われ、そのまま建物の壁に叩きつけられた。
そして、そのまま倒れてしまった。
「うっ……ソフィア……!」
腹部だけじゃない。全身が痛い。
辛うじて腕は動かせるけど、立ち上がるにはまだ時間が掛かる。
その間にもソフィアは私に近付いて来ていた。
「ステラ……『魔石』を差し出して。そうすれば、また《《優しい親友》》に戻ってあげる」
ソフィアの言葉に私は何も言えなかった。
でも、彼女の言う通りにした方が良いのかもしれない。
私の願いは既に叶ってるも同然だもの。
けどソフィアは、レイくんを助ける為に戦い続けなきゃいけない。
なら私が『魔石』を差し出した方が、もっと誰かを助けられるかもしれない。
そう思った私は、ゆっくりとペンダントに手を掛けた時だった。
『ステラ!!!』
「なっ!」
「――えっ!?」
空から声がした。私とソフィアは一斉に空を見上げた。
――瞬間、それは私の目の前に落下し、そして地面へ突き刺さった。
それは私が酷い言葉を掛けた相棒、蒼い氷の魔剣――ニブルだった。




