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平和の礎(第2部 / MHAO第一回正式会議)


午後、新生セメイオン共和国の議事堂に、多元調和連合機構の主要メンバーが集まった。

円形に配置されたテーブルの中央には、慶一郎の調和の炎が静かに燃えている。この炎こそが、異なる次元、異なる価値観を持つ存在たちを結ぶ象徴だった。

「では、多元調和連合機構第一回正式会議を開会いたします」

アルカディウス元皇帝──今は共和国の暫定指導者として、会議の進行を務めている。かつての威圧的な雰囲気は完全に消え去り、代わりに穏やかな知恵者の風格を纏っていた。

「まず、各加盟組織からの現状報告をお聞きしましょう」

最初に立ち上がったのは、ザイラスだった。元帝国幹部の男性は、かつての冷酷さは微塵もなく、真摯な表情で報告を始める。

「新生セメイオン共和国技術・情報部門の報告をいたします」

ザイラスの手元に広がるのは、精密な図表と数値の羅列だった。しかし、その説明は驚くほど明快で希望に満ちている。

「記憶回復技術の民間応用が順調に進んでおります。現在までに、首都圏の市民約八万人の記憶回復が完了。副作用は皆無、満足度は九十八パーセントを達成いたしました」

会議室にどよめきが起こる。

「また、記憶技術の特許料収入により、MHAOの運営資金の約四割を賄えるめどが立ちました」

慶一郎は感嘆せずにはいられなかった。ザイラスの技術力と管理能力は、平和な目的に向けられたとき、これほどまでに素晴らしい成果を生むのか。

次に発言したのは、リーザだった。元料理検閲官の女性は、今や料理復興局長として、食文化の再生に情熱を注いでいる。

「料理文化復興事業について報告いたします」

リーザの声には、かつての厳格さの代わりに、生き生きとした活力が満ちていた。

「各地に設置された料理学習センターでは、一日平均二千人の市民が料理技術を学んでおります。特に、慶一郎様の情報料理技術を応用した『記憶継承レシピ』が大好評で、家族の絆を深める効果も確認されています」

「記憶継承レシピ?」エレオノーラが興味深そうに尋ねる。

「はい」リーザの顔が輝く。「慶一郎様の技術をもとに開発した、家族の記憶を料理に込める技法です。祖母の味、母親の愛情、家族の歴史──それらすべてを次世代に継承できるのです」

マリエルが愛のペッパーミルに手を触れる。

「素晴らしいですね。アガペリア様もお喜びになるでしょう」

レネミア王女が立ち上がる。

「黄金龍都外交・資金部門からの報告です」

王女の報告は、MHAOの国際的な影響力の拡大を物語っていた。

「現在、十二の国と地域がMHAOとの文化交流協定締結を希望しております。特に、東方諸国連合と南海島嶼連邦からは、正式な加盟申請も届いています」

「十二もの国が...」慶一郎は驚きを隠せない。

「料理を通じた文化交流の効果は、私たちの予想を遥かに超えています」レネミアが続ける。「特に、情報料理による記憶共有技術への関心は非常に高く、『二度と戦争を起こさないための技術』として注目されているのです」

会議室の空気が、希望と興奮に満ちてくる。

「天界改革派からの報告です」

エレオノーラが立ち上がると、その背後に薄っすらと光の翼が現れた。

「大天使ミカエル様率いる改革派は、現在天界の約六割の支持を得ています。『愛による秩序』の理念が、多くの天使たちに受け入れられているのです」

「秩序派の反発は?」アルカディウスが尋ねる。

「確かに存在しますが、実力行使には至っていません」エレオノーラの表情が少し曇る。「ただし、アトレウス様を中心とする一部の天使たちは、依然として私たちの活動を快く思っていないようです」

慶一郎は妻の肩にそっと手を置いた。エレオノーラの心の動揺が、肌を通じて伝わってくる。

「大丈夫だ。愛は必ず理解される」

「はい」エレオノーラの表情が明るくなる。「私たちの愛が本物であることを、時間をかけて証明していきましょう」

最後に、マリエルが立ち上がった。

「改革無餐派からの報告をさせていただきます」

聖女の周囲に、香辛料の芳香が漂う。それは単なる香りではなく、記憶と感情に直接作用する神聖な力だった。

「シスター・ルシア様の指導のもと、各地の神殿で『調和の料理教室』を開催しております。参加者は延べ五万人を超え、宗教の枠を超えた交流が生まれています」

「宗教の枠を超えた交流?」慶一郎が尋ねる。

「はい」マリエルの微笑みが深まる。「料理という共通言語により、異なる信仰を持つ人々が理解し合えるのです。アガペリア様も、『愛に宗教の壁はない』とおっしゃっています」

会議室に温かな沈黙が流れる。それぞれの報告を聞き、MHAO がいかに順調な発展を遂げているかが明らかになった。

「では」アルカディウスが議事を進める。「今後の課題について議論いたしましょう」

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