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権力の味(第1部 / 大規模料理狩り)

記憶の日の朝、帝国の空は血のように赤く染まっていた。夜明けと共に、記憶皇帝の怒りが具現化したような不吉な光が街全体を覆っている。慶一郎たちは地下組織の隠れ家で最終準備を整えていたが、突然響いた警報音に全員が緊張した。


「大変です!」

偵察から戻った組織員が息を切らして報告した。

「帝国軍が街中で大規模な『料理狩り』を開始しました!」


オリオンの顔が青ざめた。

「ついに始まったか……」


街の監視カメラに映し出されたのは、想像を絶する光景だった。帝国軍の兵士たちが各家庭を回り、手作り料理を片っ端から没収している。そして、その料理を作った人々を次々と連行していた。


「記憶宿り料理禁止法第1条違反!」

兵士の冷酷な声が響く。

「手作りの温かみを感じさせる料理は社会秩序を乱します!」


街角では、母親が子供のために作った弁当を奪われて泣き崩れていた。老人が亡き妻を思って作ったスープが廃棄され、恋人同士が一緒に作ったクッキーが踏み潰されている。


「ひどい……」

サフィが涙を浮かべながらモニターを見つめていた。


料理を奪われた人々の中には、記憶を一部取り戻していた者も多くいた。慶一郎の影響で、密かに記憶を回復していた人々だった。だが、彼らは再び記憶を消去されようとしていた。


「俺は……何をしていたんだ……」

慶一郎が拳を握りしめた。胸の調和の炎が激しく揺らめいている。

「俺がもっと早く行動していれば……」


エレオノーラが彼の肩に手を置いた。

「あなたのせいではありません。帝国が悪いのです」


だが、慶一郎の自責の念は止まらなかった。料理人として、料理を通じて人々を幸せにすることが使命だった。それなのに、自分の影響で人々が苦しんでいる。


「もう我慢できない」

慶一郎が立ち上がった瞬間、調和の炎が激しく反応した。これまでとは比べ物にならないほど強い光を放っている。


「慶一郎さん!」

仲間たちが慌てたが、もう止められなかった。


「俺は料理人だ!」

慶一郎が叫んだ瞬間、調和の炎が完全に解放された。その光は隠れ家を突き破り、街全体を包み込んでいく。


炎の光に触れた瞬間、街の人々に変化が起きた。奪われようとしていた料理に、再び記憶と愛情が宿り始めたのだ。


「この味……お母さんの味だ……」

兵士に弁当を奪われそうになっていた子供が、突然立ち上がった。


「これは私が愛する人のために作った料理です!」

老人が兵士の手からスープを取り戻そうとした。


調和の炎の力により、街中の料理に込められた記憶が復活していく。愛情、思い出、絆、すべてが鮮やかに蘇っていった。


「何が起きている!」

帝国軍の指揮官が混乱していた。


だが、さらに驚くべきことが起きた。炎の光に照らされた帝国兵たちにも、記憶が戻り始めたのだ。


「俺は……なぜこんなことを……」

ある兵士が手にしていた没収品を見つめた。それは母親が息子のために作った愛情たっぷりの料理だった。

「俺にも母親がいた……俺も昔は……」


記憶を取り戻した兵士は、武器を捨てて膝をついた。自分が何をしていたのか、ようやく理解したのだ。


「すみませんでした……」

兵士が泣きながら謝ると、料理を作った母親も涙を流した。

「あなたも被害者だったのね……」


街のあちこちで、同じような光景が繰り広げられていた。記憶を取り戻した兵士たちが、市民に謝罪し、共に泣いている。


「奇跡だ……」

マリエルが聖職者として、神の奇跡を目の当たりにしていた。


だが、調和の炎の完全解放は、慶一郎にとって大きな負担でもあった。炎の力を制御するために、全身から汗が噴き出し、手足が震えている。


「大丈夫ですか?」

レネミアが王女らしい気遣いで慶一郎を支えた。


「ああ……でも、まだ終わってない」

慶一郎が立ち上がると、街の向こうから大音量の放送が響いてきた。


『緊急事態発生! 記憶テロリストによる大規模攻撃が進行中! 慶一郎と名乗る料理人を最重要指名手配とする!』


記憶皇帝の怒りに満ちた声が街全体に響き渡った。


『賞金1000万帝国金貨! 生死を問わず! 即座に確保せよ!』


慶一郎の正体が帝国全体に知れ渡った瞬間だった。もう隠れることはできない。


「覚悟を決める時ですね」

ナリが科学者らしい冷静さで状況を分析した。


「ええ」

慶一郎が仲間たちを見回した。

「俺たちは最後まで戦い抜きます」


カレンとアベルが騎士として、決意を新たにした。

「どこまでもついていきます」


だが、街では新たな動きが始まっていた。記憶を取り戻した市民たちが、怒りを露わにし始めたのだ。


「俺たちは騙されていた!」

「記憶を奪われて、人形のように扱われていた!」


人々の怒りが、巨大なうねりとなって街を包み込もうとしていた。調和の炎による記憶回復は、同時に民衆蜂起の引き金ともなったのだ。


「始まったな……」

ザイラスが元帝国官僚として、この展開を予測していた。

「これから本当の戦いが始まる」


隠れ家の窓から見える街では、記憶を取り戻した人々が政府建物に向かって行進を始めていた。平和だった朝が、一瞬にして革命の火種に変わろうとしていた。


慶一郎の調和の炎が、ついに帝国全体を揺るがす力を発揮したのだ。


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