反抗の狼煙(第4部 / 皇帝暗殺計画)
記憶の日の3日前、地下組織の最深部にある作戦室に、反乱軍の主要メンバーが集結していた。石造りのテーブルには記憶宮殿の詳細な設計図が広げられ、その周りを慶一郎たちが取り囲んでいる。ろうそくの炎が設計図を照らし出し、複雑な構造が浮かび上がっていた。
「これが記憶宮殿の内部構造です」
オリオンが指し棒で説明を始めた。
「皇帝は最上階の『記憶の間』にいます。そこには、帝国中から集められた記憶が保管されています」
宮殿は7階建てで、各階に異なる防御システムが配置されている。1階は記憶監視兵の詰所、2階は思想統制装置、3階は料理検閲システム、4階は記憶実験室、5階は三大長官の執務室、6階は皇帝の私室、そして最上階の7階が記憶の間だった。
「各階を突破するのは困難を極めます」
ガルスが元帝国兵としての知識で分析した。
「特に5階の三大長官は、最大の難関になるでしょう」
ナリが科学的な視点で補足する。
「記憶宮殿全体が巨大な記憶増幅装置になっています。皇帝がここで儀式を行えば、帝国全土に記憶支配の力が及ぶでしょう」
慶一郎の胸で調和の炎が不安げに揺らめいた。宮殿の規模と複雑さは、想像を遥かに超えていた。
「でも、諦めるわけにはいきません」
エレオノーラが天使らしい決意で告げた。
「記憶の日に皇帝の計画を阻止できなければ、すべてが終わってしまいます」
「それで、作戦の詳細ですが……」
オリオンが各メンバーに向き直った。
「皆さんには、それぞれ重要な役割を担っていただきます」
まず、侵入ルートの説明から始まった。宮殿の正面は厳重に警備されているため、地下水道を通って宮殿の地下から侵入する計画だった。
「カレンとアベルは前衛部隊として、警備兵との戦闘を担当します」
オリオンが二人の騎士を見た。
「君たちの剣技が頼りです」
カレンが力強く頷いた。
「任せてください。必ず道を開きます」
アベルも若い騎士らしい勇気で応えた。
「僕たちが皆さんを守ります」
「ナリさんは技術支援です。宮殿の魔法システムを無効化してください」
「了解しました。科学の力で魔法に対抗してみせます」
「サフィとマリエルは後方支援と医療を担当します」
「はい! みんなを支えます!」
サフィが元気よく返事をした。
「私は負傷者の治療に専念します」
マリエルが聖職者としての使命を確認した。
「リーザとザイラスは情報戦を担当してください。君たちの帝国内部の知識が必要です」
「過去の罪を償うためにも、全力で取り組みます」
ザイラスが決意を込めて答えた。
「私も元官僚として、できる限りのことをします」
リーザが続いた。
「レネミアさんは外交担当です。宮殿内で遭遇する帝国官僚との交渉をお願いします」
「王女として、平和的解決を目指します」
レネミアが威厳を持って頷いた。
「そして、慶一郎さんとエレオノーラさんが最も重要な役割です」
オリオンの表情が厳しくなった。
「お二人には、直接皇帝と対峙していただきます」
慶一郎とエレオノーラの手が自然と繋がった。二人の絆が、調和の炎と天使の力を結びつけている。
「皇帝との対決で重要なのは、戦うことではありません」
オリオンが『真の記憶の書』を開いた。
「皇帝の心の傷を癒すことです。彼の悲しみを理解し、愛で包み込むのです」
「でも、どうやって?」
慶一郎が不安そうに尋ねた。
「調和の炎の真の力を使うのです。炎に込められた愛と記憶で、皇帝の心に直接働きかけるのです」
エレオノーラが慶一郎の手を強く握った。
「一緒になら、きっとできます」
作戦の詳細が決まると、メンバーたちは最後の準備に取りかかった。武器の最終調整、魔法道具の確認、医療用品の準備。それぞれが自分の役割に集中していた。
その夜、慶一郎とエレオノーラは二人きりで語り合った。宮殿への侵入を前に、お互いの気持ちを確認したかったのだ。
「怖くない?」
慶一郎が率直に尋ねた。
「怖いです」
エレオノーラが正直に答えた。
「でも、あなたと一緒なら大丈夫。私たちの愛は、どんな困難も乗り越えられます」
二人は静かに抱き合った。肌に触れる彼女の温かさが、慶一郎の心を落ち着かせる。調和の炎も穏やかに燃えていた。
「もし……もし俺たちが戻ってこれなかったら……」
「そんなことは考えません」
エレオノーラが慶一郎の言葉を遮った。
「私たちは必ず戻ってきます。みんなと一緒に、新しい世界を見るために」
翌朝、反乱軍は最終的な作戦会議を開いた。全メンバーが決意に満ちた表情で集まっている。
「明日が記憶の日です」
オリオンが厳粛に告げた。
「皇帝の儀式は夜明けと共に始まります。我々はそれを阻止しなければなりません」
「成功の確率は?」
ガルスが軍人らしい現実的な質問をした。
「正直に言えば、高くありません」
オリオンが苦い表情で答えた。
「しかし、やらなければ確実に敗北です。希望を捨てるわけにはいきません」
慶一郎が立ち上がった。
「俺たちには仲間がいます。一人一人は弱くても、みんなで力を合わせれば必ず勝てます」
調和の炎が力強く輝き、その光が作戦室全体を照らした。メンバーたちの顔に希望が戻ってくる。
「そうですね」
エレオノーラが微笑んだ。
「愛と絆があれば、奇跡だって起こせます」
最後に、全員で円陣を組んだ。様々な過去を持つ人々が、今は同じ目標のために結ばれている。
「明日、世界を変えよう」
慶一郎の言葉に、全員が「はい!」と力強く答えた。
記憶の日を明日に控え、反乱軍は最後の夜を過ごしていた。成功するかどうかは分からない。だが、彼らには確信があった。
愛と希望の力で、必ず世界を変えることができる。そんな信念が、彼らの心を一つにしていた。
運命の日は、もうすぐそこまで来ていた。




