反抗の狼煙(第3部 / レジスタンスの武装)
翌朝、地下組織の本拠地は活気に満ちていた。慶一郎の料理により記憶を取り戻した人々が、次々と組織に参加を表明していたのだ。その中には、元帝国兵も多数含まれていた。
「俺たちは帝国に利用されていた」
元帝国兵の隊長格だった男性が、仲間たちに告げた。
「今度は本当に正しいことのために戦おう」
男性の名前はガルスといい、かつては帝国軍の精鋭部隊を率いていた。記憶を取り戻した今、自分たちが犯した罪の重さに苦悩しながらも、贖罪のために戦う決意を固めていた。
「でも、武器がほとんどありません」
組織の武器担当者が困った表情で報告した。
「帝国軍に対抗するには、あまりにも装備が貧弱です」
その時、エレオノーラが前に出た。天使の力は完全ではないが、昨日より確実に回復している。
「私の力で、武器を強化できるかもしれません」
エレオノーラが手を差し伸べると、古い剣が神聖な光に包まれた。刃は鋭さを増し、柄には天使の紋章が浮かび上がる。
「すごい……」
ガルスが感嘆の声を上げた。
「これなら帝国軍の魔法武器にも対抗できる」
「私も手伝います」
慶一郎が調和の炎を武器に込め始めた。炎の力が剣に宿ると、刃は温かな光を放つようになった。
「この剣で切られた者は、記憶を失うのではなく、逆に大切な記憶を思い出すでしょう」
慶一郎の説明に、戦士たちの目が輝いた。
ナリが科学者として、その現象を分析した。
「興味深いですね。武器に記憶回復の効果を付与するなんて」
武器の強化作業は、組織全体での共同作業となった。カレンとアベルが騎士として、武器の扱い方を指導し、サフィとマリエルが後方支援の準備を進める。
「みんなで作った武器なら、きっと強いですよ」
サフィが明るく言うと、作業場の雰囲気がより和やかになった。
だが、武器作りの過程で、深刻な問題も浮上していた。
「俺たちは本当に戦っていいのか?」
元帝国兵の一人が苦悩を吐露した。
「俺たちの手は血まみれだ。今更、正義を語る資格があるのか?」
その言葉に、多くの元帝国兵が頭を垂れた。彼らは記憶を取り戻すことで、自分たちが犯した罪の重さも思い知らされていた。
「俺は……無実の人を殺した」
別の兵士が震え声で告白した。
「命令だったとはいえ、許されることじゃない」
作業場に重い沈黙が流れた。過去の罪の重さが、彼らの心を押し潰そうとしていた。
その時、ザイラスが立ち上がった。
「俺も同じだ。俺の手も血で汚れている」
ザイラスが自分の過去を語り始めた。帝国の幹部として、多くの人々の記憶を奪い、家族を引き裂いてきた罪。その一つ一つが、彼の心に深い傷を残していた。
「でも、俺は逃げない。罪を償うために戦う。それが俺にできる唯一のことだ」
リーザも続いた。
「私も同じです。料理検閲官として、多くの家庭を破滅させました。でも、今は罪を償うために料理の喜びを取り戻したい」
二人の告白に、元帝国兵たちも勇気づけられた。
「そうだな……逃げてても何も変わらない」
ガルスが決然と告げた。
「俺たちは戦うしかない。過去の罪を背負いながらでも」
レネミアが王女として、彼らに語りかけた。
「罪を犯したことは事実です。でも、それを償おうとする意志があるなら、あなたたちは歓迎されるべき仲間です」
マリエルも聖職者として、赦しの言葉を口にした。
「神は悔い改める者を拒みません。真の償いとは、同じ過ちを繰り返さないことです」
元帝国兵たちの表情に、希望の光が戻ってきた。罪は消えないが、それを償う道はある。その希望が、彼らに新たな力を与えていた。
「よし、本格的な反乱軍を結成しよう」
オリオンが全体に向けて宣言した。
組織の構成員は飛躍的に増加していた。元帝国兵、元記憶奴隷、帝国から逃れてきた市民、そして地下組織の古参メンバー。様々な背景を持つ人々が、同じ目標のために結集していた。
「作戦本部を設置します」
ナリが組織運営の専門知識を活かして、効率的な指揮系統を構築した。
カレンとアベルが軍事訓練を担当し、エレオノーラと慶一郎が武器強化を継続する。サフィとマリエルは医療支援チームを組織し、リーザとザイラスは情報収集を担当した。
「みんなが自分の得意分野で貢献してるのね」
サフィが嬉しそうに言った。
だが、反乱軍の結成は同時に、より大きなリスクも伴っていた。
「帝国軍が本格的に動き始めています」
偵察から戻った組織員が緊急報告をした。
「三大長官が直々に指揮を取って、大規模な掃討作戦を開始しているようです」
オリオンの表情が厳しくなった。
「ついに最終決戦の時が近づいてきましたね」
「記憶の日まで、あと4日」
レネミアが日程を確認した。
「それまでに、すべての準備を整えなければなりません」
慶一郎は調和の炎を見つめた。炎は確実に力を取り戻しているが、記憶皇帝と対峙するには、まだ不十分かもしれない。
「大丈夫です」
エレオノーラが彼の不安を察して、優しく微笑んだ。
「私たちには仲間がいます。みんなで力を合わせれば、必ず勝てます」
彼女の言葉に、反乱軍のメンバーたちが頷いた。様々な過去を持つ人々が、今は同じ希望を抱いて立ち上がっている。
武器強化の作業が続く中、作業場には決意に満ちた空気が流れていた。罪を償いたい者、家族を守りたい者、自由を求める者。それぞれの想いが一つになって、強大な力を生み出していた。
夜が更けても作業は続いた。記憶の日は確実に近づいている。だが、彼らには希望があった。
愛と絆の力で、きっと世界を変えることができる。そんな確信が、反乱軍の心を一つにしていた。




