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統制の鎖(第2部 / 三大長官)


記憶皇帝の怒りが頂点に達した時、帝国の三大機関を率いる長官たちが動き出した。記憶遮断結界に守られた隠れ家の中でも、彼らの不気味な存在感は感じ取ることができた。


「三大長官が動いています」

地下組織の偵察員が青ざめた顔で報告した。

「記憶監視庁長官ヴァルガス、料理検閲局長官エリーザ、そして思想統制省長官ドクター・カイン。三人とも皇帝の直々の命令で動いているようです」


リーザが元官僚として、その名前を聞いただけで震え上がった。

「あの三人が揃って動くなんて……帝国建国以来、初めてのことよ」


隠れ家の壁に設置されたモニターに、街の様子が映し出された。そこには想像を絶する光景が広がっていた。


まず現れたのは、記憶監視庁長官ヴァルガスだった。長身で痩せ型の男性で、顔には感情というものが一切見当たらない。彼の歩く街角では、住民たちが突然倒れ始めていた。


「ヴァルガスの能力は『記憶吸引』」

ザイラスが元同僚として、恐怖を込めて説明する。

「彼が近づくだけで、人々の記憶が自動的に吸い取られてしまうんだ。本人にその気がなくても、能力が勝手に発動する」


モニターの中で、ヴァルガスは無表情のまま街を歩いていた。だが、彼の足跡には倒れた人々が次々と残されている。その人々は皆、生きているはずなのに目に光がない。完全に記憶を失った状態だった。


「あんな化け物が長官をやっているのね……」

サフィが恐怖で震え声になった。


次に現れたのは、料理検閲局長官エリーザだった。一見すると上品な中年女性に見えるが、その瞳には狂気の光が宿っている。彼女の手には奇妙な装置が握られていた。


「エリーザの能力は『味覚支配』」

リーザが苦い表情で説明する。

「彼女が作った料理を食べた者は、完全に彼女の支配下に置かれてしまう。そして、その料理はどんなものでも美味しく感じるように脳を操作するの」


モニターでは、エリーザが街の住民たちに何かの料理を配っていた。それを食べた人々は、最初は幸せそうな表情を浮かべる。だが、次の瞬間には人形のような無表情になり、エリーザの命令に従って行動し始めた。


「料理を使って人を操るなんて……」

慶一郎の胸で調和の炎が怒りに震えた。料理とは人を幸せにするものなのに、それを支配の道具に使うなど許し難い行為だった。


最後に現れたのは、思想統制省長官ドクター・カインだった。白衣を着た痩身の男性で、常に冷静な表情を崩さない。だが、その冷静さの裏には恐ろしい狂気が隠されていた。


「カインの能力は『思考改変』」

ナリが科学者として、その恐ろしさを理解していた。

「彼は人の思考パターンを直接書き換えることができる。記憶を奪うのではなく、考え方そのものを変えてしまうの」


モニターでは、カインが反政府活動家らしき人物と対峙していた。カインが何かの装置を向けると、その人物の表情が一変した。反抗的だった目つきが穏やかになり、最終的には皇帝を賛美する言葉を口にし始めた。


「思考まで変えられたら……もう人間じゃないじゃない」

マリエルが聖職者として、魂の尊厳が踏みにじられることに深い悲しみを感じていた。


三人の長官は、それぞれ違う方向から隠れ家に向かって進んでいた。彼らの能力は個別でも恐ろしいが、三人が連携すれば想像を絶する力を発揮するだろう。


「包囲されています」

地下組織のリーダーが厳しい表情で状況を分析した。

「このままでは逃げ場がありません」


その時、隠れ家の上層部から緊急警報が鳴り響いた。


「ヴァルガスが接近中! 記憶吸引の影響範囲に入ります!」


偵察員の叫び声と共に、隠れ家の住人たちが次々と倒れ始めた。ヴァルガスの能力が遮断結界を突破し始めているのだ。


「結界が持ちません!」

リーダーが装置を必死に調整しているが、ヴァルガスの能力は想像以上に強力だった。


「私が行きます」

エレオノーラが立ち上がった。

「天使の力で結界を強化します」


だが、慶一郎が彼女を制止した。

「危険すぎる。君まで記憶を奪われたら……」


「大丈夫です。私を信じてください」

エレオノーラの微笑みに、慶一郎は複雑な想いを抱いた。彼女を危険にさらしたくないが、他に方法がない。


エレオノーラが天使の力を発動すると、隠れ家全体が神聖な光に包まれた。ヴァルガスの記憶吸引能力が一時的に無効化される。


だが、その光を感じ取ったエリーザが動いた。


「天使の存在を確認。料理による精神支配を開始します」


エリーザが特殊な料理を調理し始めた。その香りは隠れ家にまで届き、嗅いだ者の精神を侵食していく。


「この香り……」

組織の一員が恍惚とした表情を浮かべ始めた。

「素晴らしい……従いたい……」


「みんな、息を止めて!」

カレンが騎士としての判断で警告したが、香りは空気中に拡散しており、完全に避けることは不可能だった。


その時、ドクター・カインも行動を開始した。


「精神工学装置、起動。思考パターン強制改変を実行します」


隠れ家全体に電磁波のような何かが放射され、住人たちの思考が混乱し始めた。


「皇帝陛下は……正しい……」

「帝国は……素晴らしい……」


組織の一員たちが次々と洗脳されていく。三大長官の連携攻撃は、あらゆる防御を突破していた。


「これは……」

レネミアが王女としての精神力で抵抗しようとしたが、三つの異なる能力が同時に襲いかかってくる状況では限界があった。


慶一郎は決断した。調和の炎を解放し、この状況を打破するしかない。だが、炎を使えば記憶皇帝に位置がバレてしまう。


「もう隠れている場合じゃない」

慶一郎が炎を解放しようとした時、ザイラスが前に出た。


「待ってくれ。俺にも責任がある」


ザイラスが元帝国幹部としての知識を使い、三大長官の能力を分析し始めた。


「ヴァルガスの記憶吸引は、強い意志があれば抵抗できる。エリーザの料理支配は、味覚を遮断すれば無効化できる。カインの思考改変は……」


彼の分析を聞いて、仲間たちが連携して対抗策を講じた。アベルが鼻と口を布で覆い、マリエルが祈りで精神を集中し、ナリが科学的な対抗手段を考案する。


だが、三大長官の力は想像以上に強大だった。隠れ家の住人の半数以上が既に彼らの支配下に置かれている。


「時間がありません」

リーダーが絶望的な表情で告げた。

「このままでは全員が……」


その時、隠れ家の奥から新たな声が響いた。


「ならば、我々も本気を出そう」


それは地下組織の真のリーダー、マスター・オリオンの声だった。彼の登場により、戦況は大きく変わろうとしていた。


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