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境界線を超えて(第2部 / 国境突破)


夜が更け、雪山の峰に月明かりが青白く照らし出された頃、一行はついに帝国との国境に到達していた。そこに広がっていたのは、想像を絶する要塞都市だった。

巨大な城壁が地平線まで続き、無数の監視塔が星空に向かってそびえ立っている。城壁の上では帝国兵が松明を持って巡回しており、その光が規則正しく動いているのが見えた。

「あれがセメイオン帝国……」

アベルの震え声に、一同は息を呑んだ。

「正面突破は無理ね。でも、昔私が使った地下水道がある」

リーザが城壁の一角を指差す。そこには古い排水口があり、汚れた水が流れ出ていた。

「あそこにも魔法的な監視装置が仕掛けられている」

ザイラスが苦い表情で補足する。

「記憶感知装置だ。強い記憶や感情を持つ者が通ると、即座に警報が鳴る」

慶一郎は胸元の調和の炎を見つめた。この炎には膨大な記憶が込められている。感知装置に引っかかる可能性は非常に高い。

「俺の炎が問題になる」

「大丈夫。私が何とかします」

エレオノーラが決意を込めて告げた。だが、彼女の顔色は相変わらず悪く、体力の限界が近づいているのは明らかだった。

夜半過ぎ、警備が最も薄くなる時間を狙って、一行は排水口へと向かった。雪に足跡を残さないよう慎重に進み、監視塔の光を避けながら城壁に近づいていく。

排水口の前に到達すると、リーザの警告通り、透明な結界が出入口を覆っているのが見えた。結界は蜘蛛の巣のような細い銀色の糸で構成され、近づくたびに微かに震えて虹色の光を放っていた。触れた瞬間に記憶が吸い取られるような恐ろしい気配が、冷たい空気と共に流れ出している。それは記憶を感知する魔法装置で、触れただけでも警報が鳴る可能性があった。

「ここからが正念場よ」

リーザが緊張した声で告げる。

エレオノーラが前に出て、天使の力を集中させ始めた。彼女の手から聖なる光が立ち上がり、結界に向かって伸びていく。だが、結界は強力な魔法で守られており、簡単には突破できそうになかった。

「強い……」

エレオノーラの膝が震え始め、額の汗が頬を伝って滴り落ちた。その青白い顔に激しい痛みが浮かび、か細い吐息が漏れる。慶一郎はその姿を見て、胸を掻きむしられるような痛みを覚えた。

慶一郎は見ていることができず、調和の炎を手に掲げた。

「俺も手を貸す」

炎の力がエレオノーラの天使の力と融合した瞬間、結界に亀裂が走った。しかし、その衝撃で周囲の魔法装置が反応し、鋭い警報音が甲高く響き渡り、全員の背筋を凍らせた。

「急いで!」

カレンの指示で、一同は急いで排水口に向かった。悪臭漂う狭い通路に一人ずつ潜り込んでいく。

最後に慶一郎とエレオノーラが通路に入った時、遠くから兵士たちの足音が響いてきた。警報に気づいた帝国兵が、この方向に向かっているのだ。

「見つかった!」

リーザの悲鳴に似た声が通路に響いた。

地下水道は薄暗く、足元は濡れて滑りやすかった。

「こっちよ!」

リーザの案内で、一同は迷路のような通路を進んでいく。

「止まれ!」

帝国兵の声が通路に響いた瞬間、カレンとアベルが振り返った。

「先に行け!ここは俺たちで食い止める!」

「駄目だ! みんなで行く!」

慶一郎が叫んだが、すでに帝国兵が姿を現していた。

ザイラスが前に出て、敵の剣を受け止めた。

「私の贖罪の時だ!」

三人の戦士が連携して帝国兵と戦いながら、残りのメンバーは通路の奥へと逃げていく。金属の擦れる音、怒号、そして戦いの響きが地下水道に反響した。

「急いで! 通路の出口が見えるわ!」

リーザの声に従って進むと、確かに微かな光が見えてきた。それは帝国内部からの明かりだった。

戦闘音が徐々に遠ざかり、ついに一行は帝国の領土内に足を踏み入れた。だが、そこで目にしたのは、想像を絶する光景だった。

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