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消えぬ傷痕(第3部 / 旅立ちの準備)


静かな焚き火がパチパチと音を立て、重苦しい空気を揺らしていた。広間に集まった仲間たちは、ナリが慎重に広げる分厚い革表紙の資料を固唾を呑んで見つめていた。


「『セメイオン帝国』の政府は非常に厳格だ。記憶監視庁、料理検閲局、思想統制省――その名の通り、人の内面を完全に掌握している」


ザイラスが静かに続けた。


「特に料理に記憶を宿すことは重罪だ。摘発されれば記憶を奪われ、生きながらにして空っぽの器にされる」


その言葉を聞き、サフィは顔を真っ青にして唇を震わせた。


「そ、そんなの……酷すぎるよ……」


レネミアは厳しい表情を浮かべながらも、声には僅かな震えが混じった。


「記憶を奪われるなど……生きている意味を失うに等しいですね」


マリエルは胸の前で祈るように手を組み、静かに呟いた。


「神よ、なんと恐ろしいことを……」


その緊張を破るように、慶一郎が強い瞳で全員を見渡した。


「だが、それでも俺たちは行く。記憶は人の尊厳そのものだ。失わせはしない」


エレオノーラがその隣で穏やかな光を宿しながら頷いた。


「私も最後まであなたと共にいます」


炎の揺らぎが勇気を映し出すかのように、強く燃え上がった。


---


翌日の朝日が訓練場を柔らかく照らしていた。カレンが整然と並ぶザイラスの配下を見つめ、力強く宣言した。


「過去は問わない。だが、これからは互いの命を預け合う仲間だ」


アベルが具体的な指示を与え、部隊を即座に訓練モードへと導いた。張り詰めた空気の中、徐々に連携の兆しが見え始める。


マリエルは戦士たち一人ひとりに寄り添い、穏やかな祈りを捧げた。その祈りに触れると、兵士たちの険しかった顔に安堵の色が浮かぶのだった。


レネミアは兵士たちを前に外交術の授業を始めると、具体的な交渉場面を想定した演習を行った。その言葉遣いと振る舞いには優雅さと強さが共存し、兵士たちも真剣に聞き入った。


ナリは素早く新部隊の分析を行い、全員の特性を把握して戦略に反映させると宣言した。


新たな仲間たちが徐々にまとまっていく様子を見て、慶一郎はわずかに胸を撫で下ろした。


---


旅立ちに備え、広間にはさまざまな道具が整然と並べられていた。慶一郎は愛用の包丁を取り上げ、その刃の冷たい感触を指先に感じた。柄の握りは何度も手になじんだため滑らかで、力強さが指先から心に伝わった。


エレオノーラは、かつての旅で得た美しい琥珀色のスパイス瓶を手に取り、懐かしげに微笑んだ。


「これは、最初にあなたと旅をした時に手に入れたスパイスですね。香りを嗅ぐたびに思い出します」


慶一郎も微笑み、瓶の蓋を開けると芳醇な香りが鼻をくすぐった。脳裏には旅の情景が鮮やかに蘇った。


ナリは地図を前に調和の炎の新たな応用法を真剣に考察した。


「エレオノーラ殿の天使の力と調和の炎を組み合わせれば、料理だけでなく癒やしや防御にも応用できるはずです」


その言葉にエレオノーラも興味深く頷いた。


「確かに、私の力で少しなら結界を張れるかもしれません」


旅立ちへの準備は着々と進んでいく。緊張と共に高揚感が一同を包んでいった。


---


ついに旅立ちの朝が訪れた。澄み渡る青空に朝日が輝き、要塞の周囲には新たな旅への希望と決意が満ちていた。


慶一郎はエレオノーラの手を取り、その温もりを確かめるように強く握った。


「さあ、新しい旅が始まる。今度こそ、必ず成功させる」


エレオノーラもまた力強く微笑み返した。


「ええ。どんな困難があっても、必ず乗り越えましょう」


レネミアは静かな威厳を漂わせながら呟いた。


「私は王女として、この世界のすべての人々を守りたい。この旅でその覚悟を試します」


マリエルは神への祈りを胸に抱き、静かに空を見上げた。


「神よ、どうか我々を見守りください」


カレンとアベルは剣を確かめ合い、戦士としての誇りを静かに再確認していた。


険しい山脈へ向けて歩き始めると、冷たく澄んだ風が頬を撫でた。遠くからはサフィの澄んだ歌声が響き、その旋律は一行の心に深く染み渡った。


新たな冒険に向けて踏み出す一歩一歩には、仲間の絆と希望が確かに息づいていた。


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