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仇討ち(後編)


その瞬間、慶一郎の胸元から迸った炎が異様なほどの輝きを放った。ザイラスとの交渉が決裂した直後、感情が制御の枷を外れ、深い悲しみと燃え盛る怒りが入り混じって炎となって噴き出したのだ。


蒼白い炎は瞬く間に赤く燃え上がり、やがて閃光のような純白の光となって謁見の間を満たしてゆく。


「な、なんだこれは……!」


兵士たちが驚愕のあまり声を失い、ザイラスですら思わずたじろぐ。炎はまるで慶一郎の心の奥底の叫びを具現化したかのように激しく唸り、謁見の間の空気を震わせていた。


慶一郎自身も、自らの中で膨れ上がる力に困惑していた。体中が焼けるように熱く、内側から突き破られそうなほどのエネルギーを感じる。


「エレオノーラ……俺はまた、力を制御できないのか……!」


周囲の温度が急速に上昇し、石床からも陽炎が立ち上る。誰もが圧倒され、ただその超常的な光景を見つめるしかなかった。


---


しかしその暴走する炎の中に、やがて柔らかな輝きが現れた。まるで夢のように美しい純白の光が、穏やかな旋律とともに姿を形成してゆく。眩い光の粒子が舞い踊り、ふわりと羽根が浮かび上がる。


「あれは……!」


マリエルが感極まり、涙を浮かべて両手を合わせる。


「奇跡……これはまさに、神の奇跡です……!」


やがて完全に姿を現したのは、純白の羽根を背にした、息を呑むほど美しいエレオノーラその人だった。その姿は生前よりもさらに美しく、慈愛に満ちた瞳は全てを包み込むような優しさに溢れていた。


「エレオノーラ……本当に君なのか?」


震える声で尋ねる慶一郎に、エレオノーラは天使の微笑みを返す。


「はい、慶一郎様。あなたの愛が私をここに呼び戻してくださいました。今度こそ、あなたと共に戦わせてください」


透明なその声は謁見の間に響き渡り、皆の心に直接届くかのようだった。


ゆっくりと彼女は地上に降り立ち、慶一郎を包み込むように抱きしめた。その抱擁は暖かく、確かに彼女がここにいることを感じさせる。


「エレオノーラ……!」


慶一郎の目から涙が溢れ、彼女の腕の中で震える。その光景を見た仲間たちは皆一様に感動に打ち震えていた。


レネミアが畏敬の念を込めて囁いた。


「美しい……これが本当の天使……」


サフィは感激の涙を拭い、声を弾ませる。


「エレオノーラさん、本当にまた会えたんですね!」


ナリは驚きを隠せずに眼鏡を直しながら呟く。


「これは……理論や常識では説明できない現象だ」


一方、ザイラスは信じられない光景に激しく動揺していた。


「ありえない……死者が蘇るなど……ありえぬことだ!」


彼の声には明らかな恐怖と戸惑いが混ざり、強固な信念に小さな亀裂が入り始めていた。


---


慶一郎とエレオノーラが抱擁を解くと、彼女は静かに微笑んで慶一郎の胸にそっと手を触れた。


「私の愛と、神の恵みをあなたに。受け取ってください、慶一郎様」


その瞬間、調和の炎が再び燃え上がり、今度は黄金色の光を放って輝いた。その光は穏やかでありながら力強く、周囲には美しい光の羽根が舞い踊り始めた。


「これは……すごい。君の力が俺の中で調和している……」


その炎は、慶一郎の中に新たな力を生み出していた。それは、愛と記憶を食材に込め、食べる者の魂に直接働きかける真の『調和の料理』を作り出す力だ。


ザイラスはその神聖な輝きを目の当たりにし、ついに自身の心の揺らぎを止められなくなった。


「神など存在しない……はずだ……なのに、この光は……」


彼の心には失った家族への記憶が蘇り、己の過ちに気づき始めていた。


---


光の中で慶一郎は力強くザイラスに向き直った。


「ザイラス、今度は俺だけじゃない。エレオノーラの力も共にある。必ずお前の心を変えてみせる」


エレオノーラもまた静かに、しかし強く続ける。


「ザイラス様、あなたにも愛があるはずです。料理でその扉を開きましょう」


慶一郎はさらに力強く宣言した。


「真の平和を作るため、『調和の聖餐』を作り上げる。この究極の料理で、心の深奥まで届かせる!」


マリエルが神々しい祈りを捧げ、宣言を後押しする。


「神の奇跡をここに示しましょう」


ザイラスは震える心を隠しながら、ぎりぎりと歯を食いしばって応えた。


「ならば、見せてみろ……その料理で本当に世界を変えられるかどうかを!」


愛と希望が満ち溢れる光の中で、慶一郎たちの新たな決戦の幕が切って落とされた。次なる闘いの先に待つ真の調和に向けて、一歩を踏み出したのだった。


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