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調和の炎(第2部)


黄金龍都を包む空は、奇妙な赤い影を落としていた。まるで世界そのものが熱を帯びて、揺らいでいるようだった。


広場の中央、慶一郎は仲間たちを前に決意を固めた表情で語りかける。


「俺は料理人だ。神だろうが人だろうが、食べればきっと分かるはずだ」


その言葉に、サフィが不安そうな表情を見せながらも、強く頷いた。


「慶一郎ならできるよ。私たちも全力で協力する!」


マリエルが胸に手を当て、真剣な眼差しで答える。


「私は神の僕として、あなたに授けられたこの胡椒の力を使って、必ず成功させます」


そして、調和のポトフを作るために必要な特別な食材を集めるため、サフィとマリエルがすぐさま出発することになった。


---


サフィとマリエルが黄金龍都近郊の神聖な森を進むと、神秘的な光が木漏れ日となって二人を照らす。


「この森……なんだか温かい。まるで守られているみたい」


サフィが呟くと、マリエルが微笑んで頷いた。


「ここは神の恵みに満ちた場所です。この食材がなければ、神々の心に響く料理にはならないでしょう」


二人は慎重に光るキノコや黄金色の実を摘み取り、持ち帰る。


---


広場に戻った二人を、エルマーが待ち受けていた。彼は興奮した面持ちで古文書を広げ、集まった人々に向かって解説を始める。


「この料理、『調和のポトフ』が神々にも効果をもたらすのは偶然ではありません。世界の根源を成すエネルギー――つまり、秩序や混沌といった概念を超越した『根源のエネルギー』に作用するからです!」


ナリが眼鏡を押し上げながら補足する。


「つまり、この料理はただ美味しいだけではない。この世界の調和そのものを取り戻す力があるんだね」


「その通りです!」


エルマーが熱く語り、周囲の人々が希望に胸を膨らませる。


その説明を聞いた慶一郎は、さらに上を目指さねばならないことを直感した。


(調和だけでは足りない。神々を説得するには、さらにその先を行く味わいが必要だ)


慶一郎は母の遺した古いレシピ帳を手に取ると、その中のページをじっと見つめていた。


---


ついに完成した調和のポトフが、神々の前に供される時が来た。広場の上空に神々が姿を現す。


最初に試食したフィオネアは、スプーンを口に運んだ瞬間、驚きと喜びの入り混じった表情を浮かべる。


「なんということ……これはまさに、世界そのものの調和を再現したかのよう。人間にこんなことが可能だなんて……」


しかし、エウリュディケはひと匙食べた瞬間、眉間に深い皺を寄せ、冷たく突き放した。


「確かに驚くべき味だ。だが、これで神々が秩序を変えるなど許されない。人間が我々を動かすなど、あってはならぬことだ」


アトレウスは困惑した表情で皿を手に取り、複雑な表情を見せた。


「これは……私には判断できぬ。確かに調和そのものだが、我々の存在意義とは……」


神々の意見は徐々に対立し、空中で激しい口論が展開される。やがてその議論は、地上にまで影響を及ぼし始めた。


大地が揺れ、突如として強風が吹き荒れ、広場の人々が混乱に陥る。


その混乱の中、アベルが息を切らせて広場へ駆け込んできた。


「大変です!西方神教連盟内で内紛が激化しています。ザイラスが『秩序』のため神獣召喚の儀式を開始し、エレオノーラ様が捕らわれました!」


その報告に、レネミアが険しい表情で声を上げた。


「どうしてそこまで……エレオノーラが危険に晒されているなんて……」


慶一郎は仲間たちを見回し、固い決意を告げる。


「これ以上の混乱は見過ごせない。神獣召喚を止め、エレオノーラを助けに行く!」


広場にいた人々が一斉に頷く中、ベルナルドが険しい顔で拳を握りしめた。


「我が剣でお供いたす。彼女を救うためならば」


空を見上げると、神々はまだ口論を続けている。その影響で雷鳴が轟き、大地が揺れ、街はさらなる混乱に陥っていた。


慶一郎は静かに胸に手を当てる。母のレシピ帳と神の授けたペッパーミルを握りしめ、次の決意を固めた。


「今の俺の料理は、調和までしか届いていない。調和を超える――新しい味を見つけなければ、この混乱は終わらない」


サフィが静かに慶一郎の袖を掴んだ。


「私たちは一緒だよ。どんな味でも、一緒に見つけよう」


慶一郎は微かに微笑み、その温かな手を握り返した。


「ありがとう、サフィ。必ず世界を、そしてエレオノーラを助けるために」


雷鳴が鳴り響き、さらに激しくなる神々の議論が世界の行く末を揺るがしていた。


――彼らの前には、この先も困難が待ち受けている。

それでも慶一郎たちは、決して希望を失うことなく、その先にある真なる調和を目指して前進を始めた。



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