[コミカル・リリーフ版](含む前編)『死灰からの誓約』
灰に埋もれた町の片隅で、慶一郎は泥まみれになりながら鍋を振っていた。絶望的な状況の中でも、彼が料理を諦めることはない。
「――俺には、これしかできねぇ!」
必死の表情で慶一郎が叫ぶ。
隣ではカレンが包帯まみれで呆然としている。
「料理……って、この状況で?」
慶一郎は血走った目でうなずいた。
「そうだ、料理だ。今までだってこれで何とかしてきただろうが!」
足元で焦げかけたスープの煙が立ち昇る。
その香りを嗅いだ途端、昏睡状態だったサフィがむくりと起き上がった。
「……匂う、焦げてる……おいしそう!」
慶一郎は仰天した。
「いや、待て、寝てろよ!?今生き返ったばかりだろ!?」
サフィはぼんやりと周囲を見回すと、不機嫌そうに言った。
「死ぬかと思ったけど、空腹のほうが深刻だったわ……」
「あんたの生命力、食欲だけで説明つくのか?」
カレンが呆れた顔で呟くと、少し離れた瓦礫の山からすすけた姿でマリエルが現れた。
「今、料理と聞きましたわよ……? 私、料理における神託を感じます」
続いて王女レネミアが、乱れた髪を掻きあげながらやってくる。
「私もですわ……この焦げ臭い香り、神がかってますわ!」
――どういう神託だよ。
慶一郎は内心でツッコミを入れつつ、鍋を必死で振り続けた。
料理が出来上がるころには、死んだと思われていた仲間がちらほら集まっていた。
「慶一郎! 私、死の淵であなたの料理を夢見てたわ!」
「俺もだ! 料理が食べたすぎてあの世から逃げてきた!」
慶一郎は戦慄した。料理が人を生き返らせるって、そんなバカな。
「あのさ、俺の料理、万能薬か何かだと勘違いしてない?」
だが誰も聞いていない。
マリエルは星のような目で慶一郎を見つめ、手を握った。
「あなたこそ神の調理人! 私、ついに神託の意味がわかりましたわ。あなたと一緒に料理をしたい!」
レネミアも負けじと反対の手を握る。
「いえ、私こそ! 王女として、いえ、一人の女として、貴方の料理を毎日味わいたいの!」
二人が睨み合う間に、蘇ったばかりのサフィが割り込む。
「二人とも譲って! 死にかけたご褒美として、慶一郎は私がいただく!」
争う三人を、仲間たちが拍手喝采で盛り上げる。
「結婚式だ!料理で生き返ったんだ、慶一郎は責任取れ!」
「みんなまとめてハーレム婚しちゃえ!」
――いや、俺の意思はどこ行った?
慶一郎は頭を抱えたが、悪い気はしなかった。むしろ嬉しいくらいだ。ただ、この状況はどう考えても異常だ。
瓦礫の上で雑多な結婚式が始まりかける中、カレンがため息をつきながら近づいた。
「慶一郎……こうなったのも料理のせいよ?どう責任取るの?」
彼は鍋を抱え込むようにして、真顔で言い返した。
「俺が悪いんじゃない、鍋が悪いんだ」
カレンは眉をひそめて、すかさず返す。
「それ、最低の言い訳よ」
慶一郎は少し間を置いて、鍋を見つめた。
「だが、最高の料理だ」
カレンは思わず吹き出し、苦笑を浮かべる。
「まぁ、あなたらしい答えよね」
慶一郎は微笑んだ。死と破壊に囲まれていても、笑える瞬間があった。
――こうして焦土の真ん中で、料理が生んだ奇妙でコミカルな誓約式が執り行われた。
誰もが生死の境目で絶望した後だからこそ、どこか明るく笑える儀式は、みんなにとって特別なものになった。
瓦礫に囲まれた宴の中で、慶一郎は気づいた。
料理というのは、笑いも涙も絶望も、全部ひっくるめて救える魔法みたいなものだと。
この奇妙な誓約は、きっと新しい明日への扉だった。




