黄金の調和(第5部 : 新時代への覚悟)
その夜、慶一郎は緊急摂政として正式に任命された。貴族たちの中には反対する者もいたが、エレオノーラの天使の力、マリエルの愛の女神の権威、セリュナの古代龍族の威厳が、彼らを黙らせた。
「今日から、この国は変わる」慶一郎がルミナリア宮殿の玉座の間で宣言した。「愛と調和による新しい統治を始める」
宮殿の玉座の間で、四人は新しい政府の体制を話し合った。
慶一郎が『シェーレキア公爵』として叙爵され、摂政兼国政のトップに就任した。
「エレオノーラは内政担当侯爵として、民の心を癒してくれ」
「マリエルは福祉担当侯爵として、困っている人たちを支えてくれ」
「セリュナは防衛担当侯爵として、国を守ってくれ」
「はい」三人が決意を込めて答えた。
カレンも新しく設立された親衛軍騎士団長として『伯爵』に叙爵され、アルヴィオンも『伯爵』として正式にヴァレンティア王国親衛軍司令長官に任命された。
「アルヴィオン様」カレンが恥ずかしそうに言った。「これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、カレン様」アルヴィオンが答えた。「この危険な時代を、一緒に乗り越えましょう」
二人の間には、職務を超えた深い絆が生まれつつあった。
「でも、本当に愛だけで国を治められるのでしょうか?」エレオノーラが不安を口にした。
「やってみなければ分からない」慶一郎が窓の外を見つめた。「でも、レネミアが信じてくれた。俺たちの愛の力を」
月光がルミナリア宮殿を照らし、新しい時代の始まりを告げている。しかし、慶一郎たちの前には数々の困難が待ち受けているだろう。
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深夜になると、慶一郎は一人でレネミアが安置された王室の医療棟を訪れた。最高の医師たちが治療を続けているが、彼女は依然として心肺停止状態が続いている。魂素を攻撃する古代の呪毒は、この世界のどんな医術でも解くことができないのだ。
「レネミア…」慶一郎が膝をついた。「あんたの願いを叶えてみせる。愛による統治を。でも、あんたなしでは…」
慶一郎が特別な料理を作り始めた。それは『愛する人への鎮魂の料理』で、故人の魂を慰め、その遺志を受け継ぐ者の心を強くする不思議な力を持っている。
『真の調和の炎』が燃え上がり、医療棟を温かい光で包み込んだ。料理から立ち上る香りは、レネミアが最も愛した薔薇の香りだった。
その時、奇跡が起こった。レネミアの生命脈動器にわずかな反応が現れたのだ。
「まだ生きている…」医師が驚いた。「微弱ですが、生命反応があります。『真の調和の炎』の力が、呪毒に対抗しているようです」
慶一郎の瞳に希望の光が宿った。「レネミア、まだ諦めるな。俺たちが必ず助ける」
そこへエレオノーラ、マリエル、セリュナが医療棟に入ってきた。
その時、マリエルが突然立ち止まり、愛のペッパーミルを胸に抱いて祈り始めた。ペッパーミルから神々しい金色の光が立ち上り、彼女の周りを包み込む。
「マリエル?」慶一郎が心配そうに声をかけた。
マリエルの瞳が金色に輝き、まるで愛の女神アガペリア自身が憑依したかのような神々しいオーラを放ち始めた。
「愛の女神様からの…お告げが…」マリエルが神託を受ける聖女のような声で語り始めた。「レネミア様を救う道が…示されています」
エレオノーラとセリュナが息を呑んだ。マリエルに神の啓示が降りているのだ。
「女神様が仰せです」マリエルが続けた。「『魂素の呪毒を解く鍵は、この世界にはない。愛する者を救うため、遥か彼方の世界へ旅立ちなさい。そこで得た知恵こそが、真の救済をもたらすであろう』と」
「遥か彼方の世界…」慶一郎が呟いた。
「『その世界では、生命を救う術が高度に発達している。魂と肉体を繋ぐ神秘も解明されている。愛の使者よ、恐れることなくその地へ向かいなさい』」
マリエルの声が次第に元に戻り、金色の光も消えていく。
「慶一郎様…」マリエルが我に返った。「女神様のお告げです。あなたはかつてあなたが生まれ育った、魂素なき世界へ行かなければなりません」
「古代の記録にもあります」セリュナが千年の記憶を確認した。「『異世界の医術』についての記述が。まさか、それが存在するものだったとは」
エレオノーラが天使として頷いた。「天界でも、異世界の高度な医術については伝説があります。神の啓示に従うべきです」
慶一郎が決意した。「分かった。レネミアを救うためなら、どこにでも行く」




