黄金の調和(第4部 : 混乱と緊急決断)
レネミアと国王の悲劇により、ヴァレンティア王国は前例のない混乱に陥った。王位継承者がおらず、女王は心肺停止状態、国王は崩御という史上最悪の政治的空白が生まれたのだ。
ルミナリア宮殿では緊急貴族議会が開かれ、パニック状態の貴族たちが後継者について激しく議論している。
「ヴァレンティア国王が倒れ、女王陛下も意識不明!」年老いた貴族が絶叫した。「今、我が国は完全な無政府状態だ!」
「隣国が攻めてくる可能性があります!」別の貴族が叫んだ。
「内乱が起きるかもしれません!誰が国を治めるのですか?」
「摂政を立てねば国が滅びます!」
「しかし、誰が?王室の血筋は絶えてしまった!」
混乱の中、最年長の宰相が立ち上がった。「諸君、冷静になってください。このような緊急事態では、慶一郎殿しかいないのではないか」
「慶一郎殿?しかし彼は…」
「レネミア女王陛下が最も信頼していた方です。そして、愛による調和という理念は、今こそ国内外の安定の鍵になるはずです」
貴族たちがざわめいた。確かに、これほどの混乱を収拾できるのは、愛の力を持つ慶一郎しかいないかもしれない。
その時、貴族議会の扉が開き、エレオノーラ、マリエル、セリュナが慶一郎と共に入ってきた。
「慶一郎様…」エレオノーラが涙を拭いながら言った。「レネミア様と国王陛下の最後の願いを聞いていましたね」
「ああ…」慶一郎の声は震えていた。「でも、俺は料理人だ。国を治める資格なんて…」
「いえ」マリエルが強い決意を込めて言った。「あなたなら、愛による統治を実現できます」
「古代龍族の予言にもあります」セリュナが千年の記憶を辿った。「『真の愛を持つ者が現れ、混沌の時代に調和をもたらし、新しい国を築く』と。その時が来たのです」
貴族たちがセリュナの言葉に注目した。古代龍族の予言は、この世界では絶対的な権威を持っている。
「予言には続きがあります」セリュナが厳粛に語った。「『愛の統治者は大いなる試練に直面するが、異なる世界の知恵を得て、真の救済をもたらすであろう』と」
慶一郎の表情が変わった。「異なる世界の知恵…」
その時、カレンが血まみれの剣を持って議会に駆け込んできた。
「慶一郎殿!貴族の皆様!」カレンが報告した。「襲撃者は全て捕らえました。しかし、取り調べの結果、恐ろしい事実が判明しました」
「何が分かったのですか?」宰相が尋ねた。
「反魂素派の目的は、単なるテロではありませんでした」カレンが震え声で続けた。「彼らは『愛による統治の芽を完全に摘み取る』ために、王室を全滅させようとしていたのです。そして、その後で傀儡政権を樹立し、魂素の力を完全に封印するつもりでした」
貴族たちが息を呑んだ。
「つまり、彼らは愛と調和を憎むあまり、国家そのものを破壊しようとしていたのです」
宰相が立ち上がった。「諸君、もはや議論の余地はありません。慶一郎殿、どうか我が国をお救いください」
貴族たちが一斉に頭を下げた。「慶一郎殿、摂政として国をお導きください!」
「そうか…」慶一郎が立ち上がった。「分かった。レネミアと国王陛下の遺志を継ぐ。愛による統治を実現してみせる」




