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新たなる旅路(後編 : セリュナ)

四人は状況の深刻さを理解し、すぐに首都オーリスへ向かうことを決めた。しかし、その前に現在の旅で学んだことを心に刻み、これからの困難に立ち向かう準備をする必要があった。未知の都への期待と不安が、四人の心に複雑な感情を生んでいる。

湖畔で『真の調和の炎』を燃やしながら、慶一郎が特別な料理を作った。それは『試練に立ち向かう勇気の料理』で、困難な道のりを歩む決意を固める料理だった。

炎は湖面に反射して、まるで二つの心が響き合っているかのように美しい。しかし、今日の炎にはいつもと違う力強さがある。慶一郎の決意が炎に込められ、より強い光を放っているのだ。

「この三ヶ月で、俺たちはたくさんのことを学んだ」慶一郎が料理をかき混ぜながら言った。「愛の力の素晴らしさも、それを憎む者たちの組織的な存在も」

「愛は決して失われないということを学びました」エレオノーラが答えた。「でも、愛を守るためには、時として戦うことも必要なのですね」

「対立は理解によって調和に変わることも学びました」マリエルが愛のペッパーミルを見つめた。「でも、理解を拒み、憎しみを糧とする者たちもいるということも」

「そして、違いこそが豊かさを生むが、その違いを悪用し、分裂を煽る者もいるということも」セリュナが古代龍の智慧で付け加えた。

セリュナが炎を見つめていると、突然、古代龍族の血に眠る記憶が鮮明に蘇った。「慶一郎様…私には見えます。これから起こる試練は、単なる襲撃事件ではありません。古代から続く、調和と混沌の根本的な戦いの一環なのです」

「どういう意味だ?」慶一郎が真剣に尋ねた。

「古代において、我が一族の祖先『セリュナティア』が、人間と人外種族の調和を初めて成し遂げました」セリュナの瞳に神秘的な光が宿った。「しかし、その調和を憎む者たちが『反魂素派』の原型を作り、セリュナティアの偉業を破壊しようとしたのです。今回の戦いは、その古い因縁の再来なのです」

「人外種族…」慶一郎が呟いた。

「精霊、亜人、魔獣…様々な種族が、かつては人間と美しい共存関係を築いていました」セリュナが続けた。「しかし、反魂素派は彼らとの調和も破壊しようとするでしょう。古代の記憶によれば、真の調和を復活させるには、各種族を代表する『魂素の守護者』たちの魂を繋ぐ『調和の儀式』が必要になります」

「調和の儀式?」エレオノーラが興味深そうに尋ねた。

「各種族の代表者が一堂に会し、『真の調和の炎』の力で魂素を共鳴させる古代の神聖な儀式です」セリュナが説明した。「もしかすると、私たちは新たな調和を築くために、彼らとの絆も必要になるかもしれません」

料理が完成すると、四人で湖を見ながら食べた。夕日が湖面を金色に染め、空には最初の星が輝き始めている。料理を口に入れると、最初に優しい甘みが広がり、次第に力強く深みのある辛さが舌を刺激した。その味は、まるでこれから直面する試練を予告しているようだった。料理を食べると、これまでの旅の記憶が蘇ると同時に、これから待ち受ける試練への覚悟も固まってくる。

「これからレネミアの戴冠式、そして反魂素派との本格的な対決か」慶一郎が真剣な表情で呟いた。「そして、レネミアが伝えたいという大切な想いも…。ヴァレンティアの首都オーリス、俺たちにとって未知の地だが、きっと重要な場所になる」

慶一郎の心の中では、レネミアの告白への期待と不安が複雑に入り混じっていた。彼女の立場と自分の責任、そして三人の妻たちへの愛情が、心の中で静かに葛藤している。

「新しい試練の始まりですね」エレオノーラが翼を広げた。

「でも、愛は必ず勝ちます」マリエルが確信を込めて言った。

「私たちの絆があれば、どんな困難も乗り越えられます」セリュナが夫と姉妹たちを見回した。「そして、必要なら古代の調和を再び呼び覚ますことも…」


---


夜になると、四人は湖畔でキャンプをした。しかし、今夜はいつもと違う緊迫感が漂っている。森の中で枝を踏む微かな音が聞こえ、月明かりの下で一瞬、黒い影が横切ったが、次の瞬間には再び闇に溶け込んだ。セリュナは鋭い眼差しで闇を見据え、古代龍族特有の魂素視覚を使って、闇の中に漂うわずかな魂素の揺らぎを探った。

「誰かが見ています」セリュナが小声で警告した。「それも…複数の異なる存在が」

「異なる存在?」慶一郎が身構えた。

「人間だけではありません」セリュナの古代龍族の感覚が、普通の人間には感知できないものを捉えていた。「精霊族の軽やかな魂素、亜人族の力強い生命力、そして…古い契約を結んだ魔獣の気配もあります」

セリュナの表情に、深い憂慮と同時に希望も浮かんだ。「敵意は感じません。むしろ、慎重に様子を伺っているような…古代の調和が乱れると、隠れていた者たちが姿を現すのです。彼らもまた、調和の復活を望んでいるのかもしれません」

エレオノーラが天使の力で周囲を探った。「確かに様々な魂素の波動があります。人間以外の存在が、私たちを観察している」

マリエルが愛のペッパーミルを握りしめて祈った。「神様、どうかすべての存在に愛をお与えください」

しばらく緊張が続いた後、森の奥から微かな光が現れた。それは精霊族の魂素の光で、美しい青白い輝きを放っている。光は一瞬だけ現れて、まるで挨拶をするように点滅した後、再び闇に消えた。

「彼らは私たちを見定めているのです」セリュナが静かに説明した。「焦らず、互いの信頼を少しずつ築きましょう。古代の調和は一日にして成らず。時間をかけて、心の絆を育むものです」

続いて、森の別の方向から、亜人族特有の低い唸り声が聞こえた。それは警戒の声ではなく、むしろ敬意を表する古代の挨拶だった。

「彼らも私たちを認めてくれているようですね」エレオノーラが安堵した。

やがて気配は徐々に消えていったが、敵意のない、むしろ期待に満ちた余韻が残っていた。恐らく、彼らは慶一郎たちの実力と意図を確認し、将来の協力への可能性を探っていたのだろう。

「古代の血が騒ぎます」セリュナが月を見上げた。「セリュナティアの記憶が教えてくれています。大きな変革の時が来ていると」


---


夜が更けた頃、セリュナは一人湖畔に立っていた。月光が彼女の銀髪を照らし、まるで古代の女神のような神々しさを放っている。

「セリュナティア…」彼女が古代龍族の言葉で呟くと、湖面に不思議な光の紋様が浮かび上がった。それは古代龍族の紋章で、調和と統一を象徴する神聖な印だった。

慶一郎が目を覚まし、セリュナのもとに歩み寄った。「どうした?」

「古代の記憶が鮮明に蘇っています」セリュナが振り返った。彼女の瞳には千年の記憶が宿っている。「セリュナティアの血を引く私には、果たすべき重大な使命があるのです」

「使命?」

「人間と人外種族の真の調和を再び築くこと」セリュナが湖面を見つめた。「反魂素派との戦いは、単なる人間同士の争いではありません。古代から続く、調和と分裂の根本的な戦いなのです」

セリュナの言葉に、エレオノーラとマリエルも目を覚まして集まってきた。

「古代の記憶によれば、調和の復活には三つの段階があります」セリュナが続けた。「第一段階は『信頼の構築』、第二段階は『魂素の共鳴』、そして第三段階が『調和の儀式』です」

「具体的には?」慶一郎が真剣に尋ねた。

「まず、各種族の代表者と個別に会い、互いの心を理解し合います」セリュナが説明した。「次に、『真の調和の炎』を用いて、種族間の魂素を共鳴させます。最後に、すべての種族が一堂に会して『調和の儀式』を行い、永続的な絆を結ぶのです」

「それは可能なことなのですか?」エレオノーラが不安そうに尋ねた。

「容易ではありません」セリュナが正直に答えた。「古代においても、セリュナティアは多大な犠牲を払いました。調和の力を使うたびに、龍族の生命力は削られていきます。しかし…」

セリュナの瞳に、強い決意の光が宿った。「愛する人たちのため、そして世界の真の平和のためなら、私はその犠牲を厭いません」

慶一郎がセリュナの手を握った。「一人で背負うな。俺たちが一緒にいる」

「私たちも同じです」エレオノーラとマリエルが声を揃えた。

四人が手を繋ぐと、湖全体が神秘的な光に包まれた。まるで古代の神々が彼らの決意を承認しているかのようだった。そして、森の奥から様々な種族の魂素が微かに応答し、希望の調べを奏でている。

「慶一郎様」エレオノーラが静かに言った。「私たちの愛も、困難を通じて成長していますね」

「そうですね」マリエルが頷いた。「最初は四人だけの愛でしたが、今では多くの人々を守る愛に成長し、そして種族の垣根をも超えようとしています」

「愛は分けても減らない」セリュナが古代の智慧で語った。「むしろ、試練を通じてより強く美しく輝くのです。そして、時が来れば…愛は世界すべてを包み込むでしょう」

慶一郎が三人の妻たちを見回した。「あんたたちと一緒なら、どんな敵とも戦える。どんな困難も乗り越えられる」

「私たちも同じ気持ちです」三人が声を揃えて答えた。

三人の声が調和して、まるで天界の戦いの歌のように力強く響いた。その瞬間、湖面に大きな光の輪が現れ、彼女たちの愛の絆が戦いへの決意によってさらに強化されたことを示していた。そして、その光に呼応するかのように、森の奥から様々な種族の魂素が微かに応答し、古代の調和への期待を込めた調べを奏でている。

満天の星が輝く夜空の下、四人は改めて愛を誓い合った。そして明日からの新しい試練への覚悟を胸に、交代で見張りをしながら夜を過ごした。

遠くで夜鳥が美しい歌声を響かせているが、その歌声には古代の調べが混じっているような気がする。風は温かいが、時折冷たい突風が吹き、大きな変化の兆しを告げていた。

愛の巡礼者たちの旅路は、新たな段階に入ろうとしている。次の目的地はヴァレンティア王国首都オーリス、四人にとって未知の美しき首都だが、そこには戴冠式の喜びと共に、反魂素派という組織的な脅威も待ち受けている。レネミアの女王即位と人生をかけた告白、愛に対する敵の本格的な挑戦、そして古代の調和の復活…愛の物語は、より壮大で困難な章へと続いていくのだった。

湖畔の夜は深く、四人の愛だけが希望の光として燃え続けている。明日への決意を胸に、彼らは新たな戦いと新たな調和への準備を整えていた。

夢の中で、四人はレネミアの表情を見ていた。いつもの優雅さの裏に隠された深い不安と、同時に人生をかけた愛への強い決意を物語る表情で、その瞳はまるで、運命の時の到来を予感しているようだった。そして、カレンの緊張した様子と期待に満ちた心、まだ見ぬアースガルド騎士アルヴィオンとの運命的な出会い、さらには人外種族たちの動向と古代の調和への期待に、心を引き締めているのだった。

明日からは、愛の物語が新たな次元へと進化する。個人的な愛から、種族を超えた世界規模の愛へ。そして、その愛を試す最大の試練が、未知の首都オーリスで待ち受けているのだった。

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