永遠の家族(第1部 / 新しい絆)
世界に完全な平和が訪れてから一ヶ月が過ぎた朝、第三都市は新たな輝きに満ちていた。街の至る所で愛と調和の象徴である虹色の花が咲き誇り、空気は薄紫色の花粉に包まれて甘い香りを放っている。
朝露が真珠のように石畳に散らばり、陽光がそれを黄金色に輝かせていた。風は絹のように柔らかく、頬を撫でると花の蜜のような甘さが感じられる。鳥たちの歌声は水晶の鈴のように美しく、新しい時代の始まりを祝福しているかのようだった。
中央広場では、特別な式典が行われようとしていた。それは『永遠の家族宣言式』という、これまでに例のない儀式だった。
「皆様、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」
司式を務めるのは、今や『愛の王』となったアルヴィオンだった。彼は深緑色の王家の衣装に身を包み、頭には古代龍族の王冠を戴いている。しかし、その表情は威厳よりも温かな愛情に満ちていた。
「今日、私たちは新しい絆を確認いたします」アルヴィオンが宣言した。「血の繋がりを超えた、愛による真の家族の絆を」
広場には、これまでの冒険で出会った全ての仲間たちが集まっていた。レネミア、カレン、サフィ、ナリ、ザイラス、リーザ、アベル、ガルス…みんな正装に身を包み、新しい家族を祝福するために集まっている。
慶一郎、エレオノーラ、マリエル、セリュナの四人は、特別な衣装を身に纏っていた。それは『調和の家族服』と呼ばれる、四つの異なる文化を融合させた美しい装いだった。
慶一郎は虹色の刺繍が施された白いタキシード、エレオノーラは天使の翼と調和する水色のドレス、マリエルは聖女らしい金色のローブ、セリュナは古代龍族の伝統的な銀色のドレスを着ている。
「まず、アルヴィオン様から、新しい家族への想いを聞かせていただきましょう」ヴァルガンが進行した。
アルヴィオンが前に出て、深い感謝の気持ちを込めて語り始めた。
「私は長い間、愛を見失っていました」アルヴィオンの声は、遠い記憶を辿るように静かだった。「愛する妻エリシアを失った痛みから逃れるために、虚無の道を選んでしまいました」
参列者たちが静かに聞き入っている。
「しかし、娘セリュナと、彼女の愛する人たちが、私を愛に帰らせてくれました」アルヴィオンがセリュナを愛しそうに見つめた。「慶一郎、エレオノーラ、マリエル…あなたたちは血の繋がりはありませんが、今や私の大切な家族です」
「アルヴィオン様…」エレオノーラが感動に震えた。
「特に、慶一郎よ」アルヴィオンが慶一郎に向き直った。「あなたは私の娘を愛してくれただけでなく、私の魂をも救ってくれました。今日、正式にあなたを息子として迎えたいと思います」
慶一郎が恐縮しながら答えた。「こちらこそ、よろしくお願いします、お義父さん」
「お義父さん…」アルヴィオンがその響きを噛みしめた。「久しぶりに聞く、美しい言葉ですね」
続いて、エレオノーラが前に出た。
「私は元々、天界の天使でした」エレオノーラが透明感のある声で語った。「感情を持つことは禁じられていましたが、慶一郎様の料理によって愛を知りました」
「そして今、新しい家族ができました」エレオノーラがマリエルとセリュナを見つめた。「マリエルさん、セリュナさん、アルヴィオン様…皆さんとの絆は、天界での絆よりもはるかに美しく強いものです」
マリエルも愛のペッパーミルを胸に抱いて語った。
「愛の女神アガペリア様は教えてくださいました。『真の家族は血ではなく、愛によって結ばれる』と」マリエルの声は神聖な響きを帯びていた。「私たちの家族がその証明です」
最後に、セリュナが古代龍らしい気品を込めて語った。
「千年の孤独を経験した私にとって、家族は夢のような存在でした」セリュナの瞳に涙が浮かんだ。「しかし今、私には愛する夫と、美しい義理の姉妹たちと、そして帰ってきた父がいます」
「これ以上の幸せはありません」セリュナが確信を込めて言った。




