虚無と調和(第2部 / 最高の料理)
慶一郎が迷いに陥った時、神殿の扉が開いた。現れたのは、エレオノーラ、マリエル、セリュナの三人だった。
「慶一郎様!」三人が駆け寄ってきた。
「どうしてここに?」慶一郎が驚いた。
「あなたが一人でどこかに行ってしまったので、心配になって」エレオノーラが答えた。
「愛する人を一人にはできません」マリエルが愛のペッパーミルを握りしめて言った。
「夫婦は困難も喜びも分かち合うものです」セリュナが確信を込めて答えた。
虚無の慶一郎が嘲笑った。「ほら、やっぱり来たじゃないか。お前一人じゃ何もできないと思ってるんだよ」
しかし、エレオノーラが静かに答えた。「違います。私たちは慶一郎様を信じています。でも、愛する人が苦しんでいる時に、そばにいるのは当然のことです」
「私たちの愛は、慶一郎様の力とは関係ありません」マリエルが確信を込めて言った。「あなたがただの人間でも、私たちの愛は変わりません」
「実際に試してみましょうか?」セリュナが提案した。「慶一郎様、調和の炎を一時的に封印してください」
「え?」慶一郎が困惑した。
「私たちの愛が本物かどうか、確かめてください」セリュナが微笑んだ。
慶一郎は迷ったが、最終的に決断した。調和の炎を完全に封印し、ただの人間に戻った。
すると、三人の妻たちが迷わず慶一郎を抱きしめた。
「やっぱり、あなたは私の愛する慶一郎様です」エレオノーラが涙を流した。
「力があってもなくても、あなたは私の大切な人です」マリエルが温かく微笑んだ。
「千年間待っていたのは、調和の炎ではなく、あなたの優しい心です」セリュナが確信を込めて言った。
その瞬間、虚無の慶一郎の表情が変わった。
「そんな…本当に愛してるのか?」虚無の慶一郎が困惑した。
「当然です」三人が声を揃えて答えた。
慶一郎も理解した。「そうか…俺の価値は、力じゃなくて、愛することと愛されることにあるんだな」
虚無の慶一郎が少しずつ光に包まれていく。「俺は…お前の不安だった。でも、もう必要ないな」
「ああ」慶一郎が微笑んだ。「あんたも俺の一部だ。一緒に愛の道を歩もう」
虚無の慶一郎が光となって慶一郎の中に戻っていく。そして、調和の炎が新たな輝きを持って復活した。今度の炎は、虚無を受け入れて愛に変えた、真の意味での『完全調和の炎』だった。
試練を乗り越えた慶一郎は、感謝の気持ちを込めて特別な料理を作ることにした。それは『愛を信じる者のための祝宴料理』と名付けられた、これまでで最高の料理だった。
神殿の庭で、慶一郎が完全調和の炎を使って料理を始めた。炎は虹色を超えた美しさで、まるで宇宙の全ての色を含んでいるかのように輝いている。
メイン料理は『四つの愛の調和』。エレオノーラの天使らしい純粋さを表現した白い魚、マリエルの聖女らしい慈愛を表現した金色の野菜、セリュナの古代龍らしい気品を表現した銀色のハーブ、そして慶一郎自身の愛を表現した虹色のソースが完璧に調和している。
副菜には『記憶の宝石箱』。これまでの冒険で出会った全ての人々への感謝を込めた、小さな宝石のような料理の数々。
デザートは『永遠の愛の結晶』。四人の愛が永遠に続くことを表現した、美しく輝く水晶のような甘味。
料理の香りが神殿に広がると、ハルモニウスが感嘆した。
「素晴らしい。これこそが真の調和の料理です」
アルヴィオンも現れて、料理を味わった。
「この味は…愛そのものですね」アルヴィオンが涙を流した。「エリシアと過ごした幸せな日々を思い出します」
仲間たちも次々と現れ、最高の料理を味わった。
「最高だぜ、慶一郎」ヴォラックスが古代龍らしい豪快さで言った。
「これで、すべての戦いが終わりましたね」レネミアが安堵の表情を浮かべた。
「ええ、本当の平和が始まります」カレンが剣を鞘に納めた。
夕日が神殿を金色に染める中、最高の料理を囲んで、最高の仲間たちと過ごす最高の時間だった。
すべての虚無が愛に変わり、世界に真の調和がもたらされた瞬間だった。




