愛を信じる者(第2部 / 新たな調和)
儀式の最中、慶一郎は重要な決断を迫られていた。
「慶一郎よ」アルヴィオンが厳かに言った。「最後の仕上げに、あなたの調和の炎の全てが必要だ」
「全てって?」慶一郎が尋ねた。
「あなたの調和の炎を、世界の修復に完全に使い切るのです」アルヴィオンが説明した。「しかし、そうすると…」
「俺の料理の力が弱くなるってことか?」慶一郎が察した。
「その可能性があります」ナリが科学的な分析をした。「調和の炎の量子場を世界規模で展開すれば、慶一郎様の個人的な能力に影響が出るかもしれません」
エレオノーラが心配そうに言った。「慶一郎様、無理をなさらないでください」
「そうです」マリエルも反対した。「あなたの料理の力は、私たちにとって大切なものです」
しかし、慶一郎は迷わず答えた。「やるさ。世界中の人々の幸せのためなら、俺の力なんてどうでもいい」
「慶一郎様…」セリュナが感動に震えた。
「でも、約束してくれ」慶一郎が妻たちを見回した。「もし俺の料理の力が弱くなっても、あんたたちは俺を愛し続けてくれるか?」
「当たり前です」三人が声を揃えて答えた。
「あなたの料理が美味しいから愛しているのではありません」エレオノーラが涙を流した。「あなただから愛しているのです」
「神様への信仰と同じです」マリエルが愛のペッパーミルを握りしめた。「条件つきの愛ではありません」
「千年間、あなたを待っていたのは、調和の炎があるからではありません」セリュナが確信を込めて言った。「あなたの優しい心があるからです」
その言葉に勇気づけられて、慶一郎は調和の炎を最大限に燃やした。
「それじゃあ、やってやるぜ!世界中のみんなを幸せにしてやる!」
慶一郎が調和の炎の全てを解放した瞬間、奇跡が起こった。
世界中の消失したもの、失われた記憶、切れた絆、すべてが完全に復元された。それだけではなく、人々の愛の力も以前よりも強くなっていた。
第一都市では、感情を失っていた人々が涙を流しながら抱き合っている。第二都市では、記憶を操作されていた人々が真実の愛を思い出している。そして、世界中のあらゆる場所で、愛の奇跡が起こっていた。
しかし、最も大きな奇跡は、慶一郎自身に起こった。
調和の炎を全て使い切ったはずなのに、彼の心に新しい力が宿っていた。それは『愛の調和の炎』と呼ぶべき、これまでよりもさらに強力で美しい力だった。
「これは…」慶一郎が自分の手のひらを見つめた。
「愛を与えることで、より大きな愛を受け取ったのです」アルヴィオンが説明した。「これが愛の真の法則です」
アガペリア女神の声が空から響いた。
『よくやりました、愛する者たちよ。あなたたちの愛が、世界を救いました』
女神が再び地上に降臨し、四人を祝福した。
「慶一郎よ、あなたの新しい力は『真の調和の炎』です。これまでの調和の炎を超えた、愛そのものの力です」
「真の調和の炎…」慶一郎が新しい力を感じていた。
「エレオノーラ、あなたも『愛の天使』として覚醒しました」女神がエレオノーラの翼に触れた。すると、翼が虹色の美しい光を放ち始めた。
「マリエル、あなたは『愛の聖女』として完成しました」愛のペッパーミルが金色に輝き、神聖な力を増していた。
「セリュナ、あなたは『愛の古代龍』として新たな境地に達しました」セリュナの鱗が虹色に輝き、美しさを増していた。
「そして、アルヴィオン」女神が最後に言った。「あなたは『愛の王』として復活しました。虚無の王ではなく、愛の王として」
四人の力が完全に一つになった時、世界は新しい時代を迎えた。愛と調和に満ちた、本当の意味での平和な時代が始まったのだった。
夜空に満天の星が輝く中、すべての戦いが終わった。愛が虚無に勝利し、世界に真の調和がもたらされた記念すべき夜だった。




