魂素の海へ(第2部 / エリシアの願い)
愛の源泉から立ち上がったエリシアの魂は、生前と同じように美しく、慈愛に満ちていた。銀色の髪が水のように流れ、瞳には深い愛情が宿っている。
『アルヴィオン…愛する夫よ』
エリシアの声が魂素の海に響いた瞬間、アルヴィオンの虚無の渦が静まった。
『エリシア…まさか…お前なのか…』
『ええ、あなたを愛し続けている私です』エリシアが微笑んだ。『そして、セリュナ…我が愛しき娘』
「お母様…」セリュナが感動に震えた。
『アルヴィオン、あなたは私の最期の言葉を覚えていますか?』
『愛を忘れないで…セリュナを愛して…』アルヴィオンが苦しげに答えた。
『はい。でも、それだけではありません』エリシアが優しく続けた。『私は最期に、こうも言いました。「愛することをやめないで。人間を憎まないで。愛こそが世界を救うのだから」と』
アルヴィオンの虚無の渦から、深い嘆きの声が響いた。
『だが、愛は痛みしか生まない…お前を失った痛みに、もう耐えられない…』
『痛みも愛の一部です』エリシアが静かに答えた。『でも、愛は痛みだけではありません。見てください、セリュナの幸せを』
魂素の海に、セリュナの幸せな記憶が映し出された。慶一郎との出会い、エレオノーラとマリエルとの友情、仲間たちとの絆、そして『魂の結合』の美しい瞬間。
『セリュナは、あなたと私の愛を受け継いで、新しい愛を見つけました』エリシアが誇らしそうに言った。『これが、愛の本当の力です』
慶一郎が調和の炎を燃やしながら、特別な料理を作り始めた。それは『家族の絆を蘇らせる料理』で、失われた愛の記憶を完全に復活させる力を持っていた。
料理の香りが魂素の海に広がると、アルヴィオン、エリシア、セリュナの家族三人の美しい記憶が次々と蘇った。
愛を誓った日、セリュナが生まれた日、家族で過ごした幸せな時間…すべてが愛の光となって、虚無の闇を押し返していく。
『この香りは…我々の家族の…』アルヴィオンの声が震えた。
「お父様」セリュナが涙ながらに呼びかけた。「帰ってきてください。私の、お母様の、愛するお父様として」
その時、アルヴィオンの虚無の渦の中心で、小さな金色の光が生まれた。それは愛の記憶の種で、虚無を内側から浄化し始めていた。
魂素の海で愛の記憶を取り戻したアルヴィオンの変化は、現実世界にも影響を与え始めた。第三都市の上空で、漆黒の龍だった彼の体に、美しい深緑色の鱗が戻り始めていた。
地上では、仲間たちがその変化を見守っていた。
「アルヴィオンの力が変わってきています」ナリが計測器を見ながら報告した。「虚無場の強度が急激に減衰しています」
「世界各地からも報告が入っています」ザイラスが通信魔法石を握りしめた。「失われた記憶が少しずつ戻り始めています」
レネミアも外交網からの情報を伝えた。「第四都市では、消失していた『永遠の図書館』の本が一冊ずつ戻り始めています」
魂素の海では、四人の力によってアルヴィオンの浄化が進んでいた。
『私は…何ということをしてしまったのだ』アルヴィオンが自分の行いを悔いた。『愛を否定し、絆を破壊し…』
「でも、まだ遅くありません」慶一郎が励ました。「愛の力で、すべてを元に戻すことができます」
エリシアが夫と娘を優しく見つめた。『アルヴィオン、セリュナ…あなたたちの愛が、世界を救うのです』
エレオノーラとマリエルも、天使と聖女の力で浄化を支援した。
「天界の光で、虚無を浄化します」エレオノーラの翼が純白の光を放った。
「愛の女神様の祝福を」マリエルの愛のペッパーミルが神聖な香りを放った。
四人の力が一つになった時、魂素の海に奇跡が起こった。愛の源泉から巨大な光の柱が立ち上がり、海全体を浄化し始めたのだ。
虚無の黒い渦が愛の光に押し戻され、海は再び美しい金色と虹色の輝きを取り戻していく。
『ありがとう…セリュナ、慶一郎、エレオノーラ、マリエル…』アルヴィオンの声に、深い感謝が込められていた。『私を、愛に帰らせてくれて』
エリシアが最後の言葉を残して、光となって消えていった。
『愛することを忘れずに…そして、幸せになって』
魂素の海の浄化が完了した時、四人の意識は現実世界に戻ってきた。そして地上では、完全に浄化されたアルヴィオンが、美しい深緑色の古代龍として蘇っていた。




