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失われゆく絆(第2部 / 彷徨う調和)

対策本部でも、恐ろしい現象が起こり始めていた。仲間たちが互いを見つめ合って、困惑の表情を浮かべ始めたのだ。

まず最初に変化が現れたのは、後方支援チームだった。

「あの…あなたは誰でしたっけ?」サフィがカレンに向かって首をかしげた。いつもの明るい笑顔が、今は混乱と不安に歪んでいる。

「私も…なんでここにいるんでしょう?剣を持っているということは、戦士なのでしょうが…」カレンが自分の武器を不思議そうに見つめた。長年の相棒である愛剣が、今は見知らぬ道具のように感じられる。

続いて、他のメンバーにも影響が広がった。

「私…なんで料理用具を持ってるんでしょう?」リーザが記憶を辿ろうとして、額に手を当てた。「料理人…だったのでしょうか?でも、何のために…」

「レネミア…その名前に聞き覚えがあるような…でも思い出せない」レネミアが自分の名前すら曖昧になっていた。王女としての記憶、慶一郎との出会い、すべてが霞のように消えていく。

虚無の光線が対策本部にも影響を与えていたのだ。長年の友情、信頼関係、共に戦った記憶…すべてが薄れ始めていた。

「みんな、しっかりしろ!」慶一郎が叫んだ。

しかし、慶一郎自身も異変を感じていた。調和の炎を燃やそうとするが、いつものように力強く燃え上がらない。まるで炎の燃料となる「愛の記憶」が薄れているかのようだった。手のひらに宿るはずの虹色の炎が、今はかすかに揺らめく小さな火種でしかない。

「慶一郎様」エレオノーラが心配そうに近づいた。天使としての記憶は残っているが、慶一郎との関係が曖昧になってきている。「調和の炎が…いつもの美しい輝きが…」

「ああ…うまく燃やせない」慶一郎が困惑した。「まるで、みんなとの絆の記憶が霞んでいくみたいだ」

そして、最も恐ろしいことが起こった。セリュナが苦しそうに頭を抱えたのだ。

「私…私は誰?」セリュナが混乱した声で呟いた。「なぜここに?なぜ人間の姿をしているの?」

「セリュナ!」慶一郎が駆け寄った。

しかし、セリュナは慶一郎を見ても、認識できずにいた。昨夜の『魂の結合』で深く刻まれたはずの愛の記憶が、虚無の力によって薄れ始めている。「あなたは…誰ですか?なぜ私の名前を知っているのですか?」

虚無の力は、ついにセリュナと慶一郎の間の絆をも攻撃し始めていた。昨夜結ばれたばかりの『魂の結合』の記憶が、薄れ始めているのだ。

「俺だ、慶一郎だ。あんたの夫だ」慶一郎が必死に呼びかけた。彼の声には、普段のべらんめえ調を超えた、魂からの叫びが込められていた。

「夫…?」セリュナが首をかしげた。「そんな記憶は…でも、なぜか心の奥が温かくなるような…」

マリエルとエレオノーラも、深刻な混乱に陥っていた。

「私…なぜ愛のペッパーミルを持っているのでしょう?」マリエルが神聖な香辛料の容器を見つめている。「これは何のために…神様に関係があるような気がするのですが…」

「私は天使…でも、なぜ地上にいるのか思い出せません」エレオノーラも天使の翼を見つめて困惑している。「慶一郎様…その名前になぜか心が震えるのですが…」

『見るがよい』アルヴィオンの声が嘲笑的に響いた。『これが愛とやらの正体だ。記憶から消去されれば、愛など跡形もなく消える。所詮は脳内の化学反応、記憶の中の幻想に過ぎぬ』

記憶を失いつつある仲間たちの様子を見て、慶一郎の心に絶望が忍び寄った。調和の炎も弱々しく揺らめくばかりで、いつものような希望の光を放てない。

慶一郎だけが、かろうじて記憶を保持していたが、それも時間の問題だった。調和の炎の力で自分の記憶を守っているが、燃料となる愛の記憶が失われれば、炎も消えてしまう。

「くそ…このままじゃ…」慶一郎が歯ぎしりした。

その時、一人だけ記憶を完全に保持している人物がいた。ヴォラックスだった。

「慶一郎よ」ヴォラックスが近づいてきた。古代龍としての威厳ある口調に、深い憂慮が込められている。「私だけは記憶を保持している。古代龍の魂の強固さゆえだ」

「ヴォラックス…助けてくれ」慶一郎が心からの救いを求めて頼み込んだ。

「聞け、慶一郎。アルヴィオンの虚無の力は強大だが、一つだけ弱点がある」ヴォラックスが古代の知恵を明かした。「真の愛の記憶は、魂の最深部に刻まれている。表面的な記憶が消えても、魂の核の記憶は残る」

「魂の核?」

「セリュナとの『魂の結合』を思い出せ。あの時、お前たちの魂は完全に一つになった。その記憶は、虚無の力でも簡単には消せない」ヴォラックスが希望の道筋を示した。

慶一郎が目を閉じ、昨夜の『魂の結合』の記憶を必死に辿った。月光に照らされたセリュナの美しい肌、絹のような髪の感触、魂が溶け合った瞬間の至福感…そして、千年の孤独を癒した愛の温もり。

「そうだ…思い出した」慶一郎の調和の炎が、わずかに力を取り戻した。虹色の輝きが手のひらに宿り、周囲の虚無の影響を押し返し始める。

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