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虚無の襲来(第4部 / 娘の決意)

夕暮れが近づく頃、アルヴィオンの攻撃は一時的に止んでいた。第三都市の約半分が消失し、残された部分も虚無の気配に満ちている。街の人々は調和の炎の影響がある安全な場所に避難していたが、状況は絶望的だった。

神殿の屋上で、慶一郎たちは最後の作戦会議を開いていた。夕日が西の空を赤く染め、その美しさが現在の危機的状況と対照的だった。風は涼しく、花の香りを運んでくるが、その中に混じる虚無の匂いが不安を掻き立てる。

「作戦を確認する」慶一郎が仲間たちを見回した。「セリュナがアルヴィオンと対話し、俺が調和の炎で失われた愛の記憶を再生する」

「私たちは支援に回ります」エレオノーラが天使の翼を広げた。「天使の光で、虚無の力から皆さんを守ります」

「私も愛のペッパーミルで、記憶の再生を助けます」マリエルが神聖な決意を示した。

レネミアが外交官として最後の確認をした。「各都市の避難は完了しています。後は、この作戦の成功にかかっています」

カレンが剣を抜いて誓った。「何があっても、セリュナさんをお守りします」

サフィが明るく励ました。「きっと大丈夫です。愛の力が勝ちます」

ナリが科学的な支援を約束した。「調和の炎の量子場を最大限に増幅する装置を準備しました」

ザイラス、リーザ、アベル、ガルスも、それぞれの専門分野で全力支援を約束した。

「みんな、ありがとう」セリュナが深く頭を下げた。「千年の孤独を経験した私が、こんなにも多くの仲間に支えられるなんて…」

その時、空に再び暗雲が現れた。アルヴィオンが帰ってきたのだ。

『我が娘よ…まだそこにいるのか』

アルヴィオンの声が響く。今度は昨夜よりも悲しみが混じっているように聞こえた。

セリュナが空に向かって叫んだ。「お父様!私です、セリュナです!」

暗雲が一瞬揺らめいた。

『セリュナ…我が愛しき娘よ…』

アルヴィオンの声に、わずかに父親らしい温かさが戻った。

『だが、もう遅い。愛は裏切りしか生まない。お前も、いずれは人間に裏切られる』

「違います!」セリュナが必死に叫んだ。「慶一郎様は、私を本当に愛してくださっています。エレオノーラ様も、マリエル様も、みんな私を家族として受け入れてくれました」

『一時的な感情に過ぎぬ…』

「違います」今度は慶一郎が前に出た。「俺はセリュナを、永遠に愛し続ける。あんたの娘だからじゃない。セリュナ自身を愛してるんだ」

慶一郎が調和の炎を燃やした。今度の炎は、これまで以上に美しく、虹色に輝いている。

「アルヴィオン…あんたの気持ちは分かる。愛する人を失う痛みがどれほどのものか」慶一郎の声は深い共感に満ちていた。「でも、その痛みから逃げて虚無に逃げ込んでも、失ったものは戻らない」

アルヴィオンの暗雲が激しく揺れ動いた。

『黙れ…黙れ…』

「お父様」セリュナが涙を流しながら続けた。「お母様は、お父様に虚無になってほしいと望んでいたのですか?」

その言葉に、アルヴィオンの動きが止まった。

暗雲の中から、巨大な龍の姿が現れた。しかし、それは美しい古代龍の姿ではなく、虚無に侵食された漆黒の存在だった。それでも、その瞳の奥に、かつての父親の面影がわずかに残っていた。

『エリシア…愛する妻よ…』

アルヴィオンが初めて、愛する妻の名前を口にした。

「お母様の名前は、エリシア様だったのですね」セリュナが微笑んだ。「お父様から聞いたのは初めてです」

『エリシアは…私に何と言った…』

アルヴィオンの記憶が蘇り始めていた。

セリュナが幼い頃の記憶を語った。「お母様は最期に、『愛を忘れないで。セリュナを愛して』と言ったのではありませんか?」

アルヴィオンの巨大な体が震えた。そして、長い間封印していた記憶が、愛する娘の声によって蘇り始めた。

夜空に星が現れ始めた頃、父と娘の真の対話が始まろうとしていた。

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