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虚無の襲来(第3部 / 記憶の欠片)

街が混乱に陥る中、慶一郎たちは緊急避難所として、調和の炎の影響が強く残る第三都市の中央神殿に身を寄せていた。神殿の周囲には、昨日の婚儀で使われた調和の炎の残り香が漂っており、それがアルヴィオンの虚無場に対する防護壁の役割を果たしていた。

神殿の中は薄暗く、ステンドグラスから差し込む光が床に美しい模様を作っている。しかし、外からは建物が消失していく不気味な音が聞こえてくる。それは破壊音ではなく、存在そのものが消える時の静寂…まるで音すらも無に帰している証拠だった。

セリュナは祭壇の前に座り込み、両手で頭を抱えていた。アルヴィオンの正体を確信した今、彼女の心は深い混乱に陥っていた。

「セリュナさん」エレオノーラが優しく近づいた。「大丈夫ですか?」

「私…私はなんということを…」セリュナの声は震えていた。「あの方は…本当に私の父上なのです」

マリエルも心配そうに座り込んだ。「セリュナさん、詳しく教えていただけませんか?」

セリュナは深く息を吸い込み、長い間封印していた記憶を語り始めた。

「私は…実は孤児ではありません」セリュナの声は遠い記憶を辿るように、静かで深かった。「幼い頃、私には両親がいました。母は美しく優しい古代龍で、父は…父は古代龍族の王でした」

仲間たちが静かに聞き入っている。

「父上は、アルヴィオンという名前でした。古代龍族の中でも最も高貴で、最も慈悲深い王として知られていました」セリュナの目に涙が浮かんだ。「人間との共存を心から願い、平和のために尽力していました」

慶一郎が静かに尋ねた。「何があったんだ?」

「私が幼い頃…母上が人間の陰謀で殺されました」セリュナの声がかすれた。「父上は人間を信じて、古代龍族の秘密を明かしたのです。しかし、一部の人間たちが、その力を悪用しようと企みました」

ザイラスが調査資料を確認した。「その時代の記録では、『龍王暗殺未遂事件』というものがありますね」

「はい…母上は父上を庇って命を落としました」セリュナは涙を流しながら続けた。「その時、父上の心は完全に砕けてしまいました。愛する人を信じたがゆえに失った絶望が、父上を変えてしまったのです」

ナリが科学的な観点から分析した。「その絶望が、虚無の力の源泉となったということですね」

「その後、父上は姿を消しました」セリュナが最後の記憶を語った。「私はまだ幼く、古代龍族の長老たちに育てられました。父上のことは『行方不明』として処理され、私にもあまり詳しくは教えられませんでした」

「でも、心のどこかで覚えていたのね」マリエルが優しく言った。

「はい…昨夜、あの声を聞いた瞬間、幼い頃に聞いた子守歌を思い出しました」セリュナは幼い頃の記憶を辿った。「『愛は美しいが、愛は脆い。だからこそ、大切にしなければならない』と、父上がよく言っていました」

その時、外から新たな破壊音が聞こえてきた。アルヴィオンの攻撃が激しくなっているようだ。

「セリュナ」慶一郎が彼女の肩に手を置いた。「辛いだろうが、あんたの父親を止める方法を考えなければならない」

「でも…どうすれば…」セリュナは絶望的な表情を見せた。「父上の力は、私たちの想像を超えています」

レネミアが外交官らしい冷静さで提案した。「まず、アルヴィオン様との対話を試みてはいかがでしょうか?セリュナさんが娘であることを活かして」

「危険すぎます」カレンが反対した。「相手は存在消去の力を持っています」

「でも、セリュナさんを消そうとはしなかった」サフィが希望的な観察をした。「まだ父親としての愛情が残っているのかもしれません」

その時、ヴォラックスが重要な情報を提供した。「アルヴィオンの虚無の力には、一つだけ弱点があると古代の記録にある」

「どのような弱点ですか?」エレオノーラが尋ねた。

「真の愛による記憶の再生だ」ヴォラックスが説明した。「虚無の力は絶望から生まれる。しかし、失った愛の記憶が完全に蘇れば、虚無は愛に変わる可能性がある」

慶一郎の目が輝いた。「それなら、俺の調和の炎で…」

「ただし」ヴォラックスが警告した。「その記憶の再生には、最も大切な人の愛が必要だ。つまり…」

全員の視線がセリュナに集まった。

「私が…父上の記憶を蘇らせなければならないのですね」セリュナは覚悟を決めたように立ち上がった。

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