四人の誓い(第3部 / 影の予兆)
夕方になり、婚儀の祝宴が始まった。会場は第三都市の最大の広場で、数千人の人々が集まっていた。慶一郎が特別に作った『新妻歓迎の料理』が並んでいる。
メインディッシュは『古代龍の祝福』と名付けられた特別な魚料理だった。調和の炎で丁寧に焼き上げられた魚は、セリュナの故郷の海を思わせる深い味わいで、食べる者の心に千年の歴史を感じさせる不思議な料理だった。
「セリュナさん、おめでとうございます」参列者の一人が祝福の言葉をかけた。
「ありがとうございます」セリュナは人間の姿で、優雅にお辞儀をした。「皆様に祝福していただき、本当に幸せです」
祝宴は和やかに進んでいたが、その時、遠くの山々から奇妙な現象が起こり始めた。
夕日が沈むべき西の空に、不自然な暗雲が立ち込めてきたのだ。その雲は普通の雨雲ではなく、まるで意志を持っているかのように、蠢いている。
「あの雲は…」ヴォラックスが眉をひそめた。「自然現象ではない。この邪悪な気配は…まさか」
セリュナも空を見上げた。「確かに…何か強大な悪意を感じます」
エレオノーラが天使の直感で警告した。「慶一郎様、あれは…天界でも見たことのない暗い力です」
マリエルも愛のペッパーミルを握りしめた。「神聖な力に対する強い敵意を感じます」
その時、暗雲の中から不気味な声が響いてきた。
『愛だと?調和だと?笑止千万…』
その声は、ヴォラックスの咆哮とは全く異なる、より古く、より邪悪な響きを持っていた。
『我こそは虚無王ネクロファーグ…あらゆる愛を喰らい、すべての調和を破壊する者なり』
ヴォラックスの顔が青ざめた。「ネクロファーグ…古代の記録にだけ残る、存在消去の魔王…まさか、お前がまだこの世界に…」
『ヴォラックスよ、愚かな龍め。人間如きに心を奪われ、我らが古代の誇りを捨てたか』
ヴォラックスが立ち上がった。「ネクロファーグ…まさか、お前がまだ生きていたとは」
『生きている?愚問よ。我は死でも生でもない。虚無そのものだ』
ネクロファーグの口から、黒い炎が吐かれた。それは調和の炎とは正反対の、あらゆるものを無に帰す破壊の炎だった。
「みんな、避難だ!」慶一郎が叫んだ。
しかし、ネクロファーグの力は想像を超えていた。黒い炎が触れた建物は、単に燃えるのではなく、存在そのものが消失していく。まるで最初からそこに何もなかったかのように。
「これは…存在消去の力か」セリュナが青ざめた。「古代の禁術です」
『今日はただの挨拶だ』ネクロファーグが嘲笑した。『次に現れる時は、この世界のすべての愛を喰らい尽くしてくれる。せいぜい、束の間の幸せを楽しむがよい』
そして、ネクロファーグは暗雲と共に消え去った。後には、一部が消失した建物と、恐怖に震える人々だけが残された。
「新たな敵か…」慶一郎が歯ぎしりした。
「でも」セリュナが慶一郎の手を握った。「私たちには愛があります。必ず、あの邪悪な力に勝てます」
エレオノーラとマリエルも頷いた。「はい、私たちの愛の力で、必ず世界を守りましょう」




