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希望の種子(第2部 / 女神の降臨)

第三都市の空に、突然神々しい光が差し込んだ。それは普通の陽光ではなく、天界からの神聖な光だった。雲が割れ、そこから美しい女性の姿が現れた。

「あれは…」エレオノーラが驚きに目を見開いた。「愛の女神アガペリア様!」

愛の女神アガペリアが、ゆっくりと地上に降臨してきた。彼女の美しさは言葉では表現できないほどで、慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。そして、マリエルに向かって優しく手を差し伸べた。

「我が愛しき娘、マリエルよ」アガペリア女神の声は、天の調べのように美しかった。「あなたの愛への怒りは正しいものです。よくぞ愛を守ってくれました」

「女神様…」マリエルは感動に震えていた。

「そして」アガペリア女神は慶一郎を見つめた。「愛の料理人、篠原慶一郎よ。あなたの調和の力は、この世界を救う希望の光です」

慶一郎は慌てて頭を下げた。「女神様、恐縮です」

アガペリア女神は微笑んだ。「堅苦しくなさらずとも。あなたは我が娘たちを愛し、彼女たちに愛されている。それだけで十分です」

そして、女神はエレオノーラとセリュナにも向き直った。

「天使エレオノーラ、古代龍セリュナ。あなたたちの愛も美しく、純粋です。四人の愛が一つになった時、この世界に新たな希望が生まれるでしょう」

その時、ドクター・セレニティが割って入った。「神など…迷信です!科学的合理性こそが…」

しかし、アガペリア女神の一瞥で、ドクター・セレニティの言葉は止まった。

「セレニティよ」女神は悲しげに言った。「あなたもまた、愛を失った哀れな魂。あなたの本当の名前は…リリアン・セレニティ。愛する夫と子供を事故で失い、愛することの痛みから逃れるために感情を捨てた女性」

ドクター・セレニティ…リリアンは最初、頑なに抵抗しようとした。「そんな…私は完璧な存在…感情など…」

しかし、女神の慈愛の力が彼女の心の防壁に触れた瞬間、長い間封印していた記憶が少しずつ蘇り始めた。

「いえ…やめて…」リリアンは頭を振った。「思い出したくない…」

それでも記憶は止まらない。愛する夫ジェームズの笑顔、息子トミーの無邪気な笑い声、そして突然の事故…すべてを失った絶望的な痛み。

次第に心の防壁が崩れ、リリアンの目に涙が浮かび始めた。

「私の…夫…ジェームズ…息子…トミー…」

ついに彼女は床に崩れ落ち、声を上げて泣き始めた。

「愛することは、確かに痛みを伴います」アガペリア女神は優しく言った。「しかし、その痛みもまた、愛の一部なのです。痛みを避けるために愛を捨てることは、生きることを放棄することと同じです」

リリアンは床に崩れ落ち、声を上げて泣き始めた。

「ジェームズ…トミー…私は…私は何をしてしまったの…」

その時、マリエルが愛のペッパーミルからの特別な香辛料をリリアンに向けて撒いた。それは『愛の赦し』という最も神聖な香辛料で、罪悪感から魂を解放する力を持っていた。

「大丈夫です」マリエルは優しく言った。「愛は赦します。ジェームズさんとトミーさんも、あなたを赦してくれています」

リリアンの心に、夫と息子の声が聞こえてきた。

「リリアン、泣かないで」夫ジェームズの声。「君が幸せでいてくれることが、僕たちの願いだ」

「ママ、笑って」息子トミーの声。「ママが悲しいと、僕たちも悲しいよ」

「彼らは…私を愛してくれている…」リリアンは涙ながらに呟いた。

アガペリア女神は優しく頷いた。「愛は永遠です。死によって終わることはありません。あなたの愛を、今度は生きている人々に分けてあげなさい」

その瞬間、第三都市の最終感情抑制装置が完全に停止した。リリアンの心が愛を取り戻したことで、システム全体が機能停止に陥ったのだ。

石像のように固まっていた市民たちが、一斉に動き始めた。最初は戸惑いながらも、徐々に人間らしい表情を取り戻していく。

「お母さん!」「パパ!」「愛してる!」

街のあちこちで、家族の再会と愛の言葉が響き渡った。

公園のベンチで固まっていた老夫婦が再び動き出し、互いの名前を呼び合いながら抱き合った。「マリー…マリー…」「ジョン、あなたなのね…」涙を流しながら、五十年の結婚生活の記憶を確かめ合っている。

市場では子供が母親に駆け寄り、泣き笑いしながらしがみついている。「ママ、どこにいたの?怖かった…」「ごめんね、ごめんね…もう離さないから…」

街角では恋人同士が再会を喜び、友人たちが友情を確かめ合っている。料理人たちが店先で美味しそうな香りを立て始め、音楽家たちが楽器を手に取って美しいメロディーを奏でている。

アガペリア女神は満足そうに微笑んだ。「素晴らしい…愛が蘇りました」

そして、女神は四人に向き直った。

「さて、愛する者たちよ。あなたたちには新たな試練が待っています」

「新たな試練?」慶一郎が尋ねた。

女神の表情が少し曇った。「古き怒りが目覚めようとしています。原始王ヴォラックス…文明を憎み、愛を否定する古代龍族の王が、この世界の愛の高まりを察知して動き出すでしょう」

セリュナの表情が険しくなった。「ヴォラックス…まさか、あの伝説の…」

「はい」女神は頷いた。「しかし、恐れることはありません。四人の愛が一つになれば、必ず勝利できます」

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