希望の種子(第1部 / 第三都市の静寂)
朝霧が立ち込める中、第三都市の上空をセリュナが優雅に舞っていた。彼女の銀色の鱗は朝露に濡れて、真珠のような光沢を放ちながら、霧の中を幻想的に舞い踊っている。翼の一振りで生まれる風は、霧を渦巻かせながら清々しい冷気を運んでくる。
慶一郎はセリュナの背中で、眼下に広がる第三都市を見下ろしていた。この都市は第二都市よりもさらに深刻な状況にあった。街全体が死のような静寂に包まれ、建物の窓からは青白い光すらも消えている。まるで時が止まったかのような、不気味な静止状態だった。
「これは…ひどすぎるな」慶一郎が呟いた。
エレオノーラが天使の翼を広げながら、セリュナの横を飛んでいたが、突然思いがけない提案をした。
「慶一郎様、私…少し違うアプローチを試してみたいのです」エレオノーラの瞳には、いつもの慈愛に加えて、強い決意の光が宿っていた。「天界の奥義『浄化の光輪』を使わせていただけませんか?」
慶一郎は驚いた。「浄化の光輪?それって大丈夫なのか?」
「はい。ただし…」エレオノーラは少し恥ずかしそうに言った。「この奥義を使うと、私の天使の装束が…少し変化してしまいます。より神聖な形になるのですが、かなり露出度が高くなってしまうのです」
マリエルがクスクスと笑った。「エレオノーラさん、それって要するに天使の戦闘服になるってことですね?」
「そ、そうです…」エレオノーラは頬を染めた。「慶一郎様、他の男性に見られるのは困りますが…あなたでしたら…」
慶一郎が苦笑いした。「エレオノーラ、あんたが必要だと思うなら、やってくれよ。俺は気にしないさ」
その時、セリュナが急降下を始めた。「皆様、街の中央広場に着陸いたします」
四人が第三都市の中央広場に降り立つと、そこには衝撃的な光景が広がっていた。数千人の市民が完全に動きを止めて、まるで石像のように固まっているのだ。彼らは立ったまま、座ったまま、あるいは何かの作業をしていた姿勢のまま、完全に静止していた。
「これは…感情除去を通り越して、意識そのものを停止させてるのか?」慶一郎は愕然とした。
その時、街の管理施設から一人の女性が現れた。彼女は白いコートを着た美しい女性だったが、その目には人間らしさが全く感じられない。
「来訪者の皆様」女性は機械的な声で言った。「私はドクター・セレニティ、第三都市最終完全管理責任者です。ここは人類進化の最終段階実験場です。不要な意識活動は完全に停止されました」
慶一郎が前に出た。「あんた、この人たちを生きたまま止めちまったのか?」
「生きています」ドクター・セレニティは冷静に答えた。「ただし、非効率的な思考、感情、欲望は完全に除去されました。彼らは今、最も効率的な状態にあります」
その時、マリエルが突然前に出た。「待ってください!」彼女の声には、いつもの優しさとは異なる、強い怒りが込められていた。
「マリエル?」慶一郎が驚いた。
「私…我慢できません!」マリエルは愛のペッパーミルを握りしめた。「神は人間に自由意志をお与えになりました。それを奪うなんて、許せません!」
そして、マリエルは愛のペッパーミルを高く掲げた。すると、神器から金色の光が放たれ、彼女の聖女の装束が変化を始めた。純白のローブが、より神々しい金と白の法衣に変わり、頭上には愛の女神アガペリアの加護を示す光の輪が現れた。
「これは…」ドクター・セレニティが初めて動揺を見せた。
「愛の女神の怒りです!」マリエルは神聖な威厳を帯びて宣言した。「『神聖怒髪天』…愛を踏みにじる者への天罰です!」
愛のペッパーミルから、かつてないほど強力な香辛料の嵐が巻き起こった。それは怒りの赤、悲しみの青、喜びの黄色、愛の金色…あらゆる感情の色彩を帯びた神聖な嵐だった。
「マリエル、すげぇじゃないか!」慶一郎が感嘆した。
エレオノーラも負けじと天使の奥義を発動した。「『浄化の光輪』!」
彼女の装束が光の粒子となって舞い散り、より神聖かつ戦闘的な天使の法衣に変化した。純白の装束は神々しく輝き、彼女の神聖な美しさを一層際立たせている。背中の翼も巨大化し、七色の光を放っていた。
「エレオノーラ…美しいな」慶一郎が見とれた。
「あ、ありがとうございます…」エレオノーラは照れながらも、強力な浄化の光を放った。
セリュナも負けてはいられないとばかりに、古代龍の真の力を解放した。「私も参ります!『古代龍秘奥義・時空風華』!」
彼女の人間形態から、一瞬で巨大な古代龍の姿に変化した。しかし、今度の変化は今まで以上に美しく、鱗の一枚一枚が星の光のように輝いている。そして、翼から放たれる風は、時空を超えた古代の記憶を運んでくる。
「セリュナさん、かっこいい!」マリエルが目を輝かせた。
三人の妻たちの力が合わさった時、奇跡が起こった。
マリエルの愛の嵐、エレオノーラの浄化の光、セリュナの時空の風が一つになり、街全体を包み込んだのだ。すると、石像のように固まっていた市民たちの意識が、少しずつ戻り始めた。
「これは…なんということ…」ドクター・セレニティは愕然とした。「三つの神聖な力が…我々の最終兵器を無効化している…」
慶一郎はその光景を見て、調和の炎を燃やした。しかし、今度の炎は今まで以上に巨大で美しく、妻たちの力と共鳴して虹色に輝いている。
「俺の料理も負けてられないな!」慶一郎は笑った。「『四重調和料理・愛の復活祭』だ!」
四人の力が完全に一つになった時、第三都市に真の奇跡が起こった。




