新たな調和(第4部 / 新しい絆の形)
夕方になり、第二都市は完全に生気を取り戻していた。街の至る所で、家族の再会や友人同士の抱擁が見られた。感情を取り戻した人々の笑顔と涙が、街を温かな光で包んでいる。
慶一郎たち四人は、街の小さな公園で休憩していた。夕日が木々の間から差し込み、芝生に斑模様の影を作っている。風は涼しく、花の香りを運んできて、肌に心地よい涼感を与えていた。
「今日は本当にお疲れ様でした」セリュナが他の三人に向かって言った。「皆様と力を合わせることができて、とても幸せでした」
エレオノーラが微笑んだ。「私も同じ気持ちです。セリュナさんの力があったからこそ、こんなに早く街に到着できました」
マリエルも頷いた。「セリュナさんの古代龍の風のおかげで、愛の香辛料を街全体に運ぶことができました」
慶一郎が三人の妻を見回した。「俺たち、いいチームになれそうだな」
その時、エレオノーラが少し照れながら言った。「それで…さっき話していた婚儀のことですが…」
「ああ、それなんだが」慶一郎が頭を掻いた。「実は俺、婚儀ってやつをちゃんとやったことがないんだ。エレオノーラとも、マリエルとも、なんとなく夫婦になっちまったからよ」
セリュナが驚いた表情を見せた。「そうだったのですか?」
「だからさ」慶一郎は提案した。「今度、四人でちゃんとした婚儀を上げないか?古代龍の伝統も、天使の儀式も、聖女の祝福も、全部含めた特別な婚儀をよ」
三人の女性の目が輝いた。
「素晴らしいアイデアですね」エレオノーラが手を叩いた。「天界の婚儀は七日七夜続く美しい儀式です」
「古代龍の婚儀では、四大元素の祝福を受けます」セリュナが説明した。「炎、風、水、土…そして魂の結合の儀式があります」
「聖女の婚儀では、愛の女神アガペリアからの特別な祝福があります」マリエルが愛のペッパーミルを握りしめた。「愛のペッパーミルも、婚儀の神器として使われるんです」
慶一郎が笑った。「それじゃあ、相当豪華な婚儀になりそうだな」
その時、エレオノーラが少し不安そうに言った。「でも…私たち、本当に四人で幸せになれるでしょうか?」
それは、彼女が心の奥で抱いていた不安だった。三人から四人になることで、これまでの関係性が変わってしまうのではないかという恐れがあった。
マリエルも同じような不安を感じていた。「私も…少し心配です。セリュナさんは千年も生きていらして、私たちとは経験も知恵も全然違います」
セリュナが悲しげな表情を見せた。「やはり…私は場違いなのでしょうか」
その時、慶一郎が立ち上がった。「ちょっと待てよ。確かに俺たちは皆、違う存在だ。エレオノーラは天使、マリエルは聖女、セリュナは古代龍、そして俺は普通の人間だ」
彼は三人を見回した。「でも、だからこそいいんじゃないか?皆違うからこそ、お互いに学び合える。お互いを補い合える」
慶一郎はセリュナの手を取った。「セリュナ、あんたの千年の知恵は俺たちには貴重だ。でも、俺たちの人間らしさも、あんたには新鮮なはずだ」
次にエレオノーラの手を取った。「エレオノーラ、あんたの天使の愛は純粋で美しい。でも、人間の複雑な感情も、あんたには勉強になるはずだ」
最後にマリエルの手を取った。「マリエル、あんたの聖女の慈愛は温かくて包容力がある。でも、古代龍の深い知恵や天使の超越的な愛も、あんたの信仰を深めてくれるはずだ」
そして、四人で手を繋いだ。「俺たちは皆違っているからこそ、一緒にいる意味があるんだ。お互いの足りない部分を補い合いながら、一緒に成長していけばいいじゃないか」
その時、夕日が四人を優しく照らした。オレンジ色の光が芝生に暖かな影を作り、風が髪を優しく撫でていく。花の香りが空気に混じり、鳥たちが木々の間で囀っている。
「そうですね」エレオノーラが微笑んだ。「私たち、きっと素晴らしい家族になれます」
「はい」マリエルも頷いた。「神様も、私たちの愛を祝福してくださるでしょう」
「私も…皆様と一緒に、新しい愛の形を作っていきたいです」セリュナが涙を浮かべながら言った。
慶一郎が四人の手を強く握った。「それじゃあ決まりだ。第三都市を救った後で、四人の婚儀を上げよう。この世界で一番美しい婚儀をよ」
その提案に、三人の女性が嬉しそうに頷いた。
「でも、その前に一つだけ」エレオノーラが茶目っ気たっぷりに言った。「婚儀の前に、私たち女性同士でもっと仲良くならなければいけませんね」
「そうですね」マリエルが同意した。「セリュナさん、今度一緒にお買い物でもしませんか?婚儀の衣装を選びに」
セリュナが驚いた。「お買い物…ですか?千年の間、そのような経験をしたことがありません」
「それなら、初めての体験ですね」エレオノーラが楽しそうに言った。「女性同士の友情も、愛の一つの形ですから」
慶一郎がその様子を見て、温かく笑った。「俺の三人の妻が仲良くしてくれるなんて、これ以上嬉しいことはないな」
その時、遠くから第三都市の方角に光が見えた。まだ完全浄化作戦が続いているのだろう。
「明日は第三都市ですね」セリュナが決意を込めて言った。
「ああ」慶一郎が頷いた。「でも今度は、俺たち四人の絆で戦う。きっと、今日よりもっと大きな力を発揮できるはずだ」
エレオノーラとマリエルも頷いた。
夜が深くなり、街に静寂が戻ってきた。しかし、それは感情抑制による無機質な静寂ではなく、愛に満ちた平和な静寂だった。
四人は手を繋いだまま、星空を見上げた。今日救った人々の幸せそうな声が、風に乗って聞こえてくる。そして明日は、さらに多くの人々を救うために、新しい絆で戦うのだった。
第二都市の夜空に、希望の星が美しく輝いている。四人の愛が一つになった時、その光はさらに強く、遠くまで届くのだった。




