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新たな調和(第3部 / 矛盾というどうしようもないゴミ)

午前の陽射しが強くなり、広場の石畳が温かくなってきた。しかし、感情を失った市民たちは、その暖かさを感じることはない。彼らは太陽の存在すら認識せず、ただ機械的に歩き続けている。

慶一郎はドクター・ペルフェクトゥスに向かって、特別な料理を作り始めた。それは『真実の鏡』と名付けられた料理で、相手の隠された感情を映し出す力を持っていた。

調和の炎が燃え上がり、その虹色の光がドクター・ペルフェクトゥスを照らした瞬間、彼の表情に変化が起こった。長い間封印してきた記憶が蘇り始めたのだ。

「これは…何だ…」ドクター・ペルフェクトゥスは頭を押さえた。「私の中に…感情が…」

料理の香りが空気中に広がると、彼の過去の記憶が鮮明に蘇ってきた。

彼の本名はマルクス・ペルフェクトゥス。かつては温かな心を持つ医師だった。しかし、愛する妻を不治の病で失い、幼い息子も事故で亡くした時、彼は感情の痛みに耐えられなくなった。そして、感情こそが人間の弱さの根源だと信じるようになったのだった。

「妻…リリア…息子…ルーカス…」マルクスの目から涙がこぼれ落ちた。「私は…私は君たちを忘れるために…感情を捨てたのか…」

その時、セリュナが静かに近づいた。「マルクスさん。愛する人を失う痛みは、私にもよく分かります。千年の孤独の中で、私も多くの別れを経験しました」

「君に…何が分かる…」マルクスは震え声で言った。

「分かります」セリュナの声は慈愛に満ちていた。「でも、その痛みを避けるために感情を捨てることは、愛する人への冒涜ではないでしょうか」

エレオノーラも近づいた。「天界では、愛する人を失った魂が、その愛を他の人に分け与えることで救われると教えられています」

マリエルが愛のペッパーミルから特別な香辛料を撒いた。それは『愛の記憶』という神聖な香辛料で、失われた愛情の記憶を呼び覚ます力を持っていた。

「リリアさんとルーカスさんは、あなたが感情を捨てることを望んでいたのでしょうか?」マリエルが優しく尋ねた。

マルクスの心に、妻と息子の声が蘇ってきた。

「お父さん、泣かないで」息子ルーカスの声。「僕たちはお父さんが笑ってくれる方が嬉しいよ」

「あなた、私たちのことで苦しまないで」妻リリアの声。「私たちの愛を、他の人にも分けてあげて」

「彼らは…私に愛を持ち続けてほしいと言っている…」マルクスは両手で顔を覆った。「私は…何ということを…」

慶一郎が『癒しの料理』をマルクスに差し出した。「食ってみな。きっと、本当の答えが見つかるさ」

マルクスが料理を口にした瞬間、彼の心に温かな光が戻ってきた。それは長い間失っていた、人間らしい感情だった。

「私は…間違っていました」マルクスは涙を流しながら言った。「感情を奪うことで、私は人々から愛する人への想いも奪ってしまいました。それは…最も残酷なことです」

その時、不思議なことが起こった。マルクスの感情が戻ったことで、感情抑制装置の中央制御システムに変化が生じたのだ。

「装置が…停止している…」マルクスは驚いた。「感情を失った私の意識が装置の中枢と繋がっていました。私の感情が戻ったことで、システムとのリンクが途切れ、制御が解除されたようです」

実際、広場にいた市民たちの目に、少しずつ感情の光が戻り始めていた。装置を管理していた彼の心が変わったことで、システム全体が不安定になり、感情抑制が解除され始めたのだった。

「お母さん…私、どこにいたの?」一人の少女が母親を探す声。

「僕の家族は…どこ?」青年が不安げに呟く声。

「愛する人…私の愛する人はどこにいるの?」中年女性が涙ながらに叫ぶ声。

感情を取り戻した市民たちは、失われた時間への戸惑いと、愛する人への想いで心を震わせていた。

その時、セリュナが慶一郎の隣に立った。「慶一郎様、私たちも…」

「ああ」慶一郎は頷いた。「みんなで力を合わせて、この街に愛を取り戻そうじゃないか」

四人は手を取り合った。そして、それぞれの力を合わせて、街全体に愛の料理を作り始めた。

エレオノーラは天使の光で材料を清め、マリエルは愛の香辛料で味を調え、セリュナは古代龍の風で香りを運び、慶一郎は調和の炎で全てを一つにまとめた。

その料理の香りが街全体に広がると、感情を取り戻した市民たちの心に温かな愛が戻ってきた。家族への愛、友人への愛、そして生きることへの愛が。

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