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新たな調和(第2部 / 感情なき街)

第二都市の中央広場に着陸すると、四人は驚愕の光景を目の当たりにした。広場には数百人の市民が整然と並んでいたが、全員の目が虚ろで、表情が完全に失われていた。彼らは人形のように規則正しく歩き回り、機械的な動作で日常作業を行っている。

朝の陽射しが広場の石畳を温めているが、人々からは生命の温もりが全く感じられない。風は優しく吹いているのに、その風に反応する者は一人もいない。花壇には色とりどりの花が咲いているが、誰もそれを見ようとしない。

「ひどい…」エレオノーラが手で口を覆った。「これが完全浄化作戦の結果なのですね」

マリエルは愛のペッパーミルから香辛料を撒こうとしたが、人々は全く反応しない。記憶の香りも、魂の糧も、感情を完全に除去された彼らには届かないのだった。

「慶一郎様」セリュナが悲しげに呟いた。「これでは…料理の力も及ばないのではないでしょうか」

慶一郎は調和の炎を燃やそうとしたが、虹色の光は普段よりもはるかに弱々しく、周囲の人々には全く影響を与えない。感情を完全に消去された魂に、料理の愛は届かないのだった。

その時、街の管理施設から一人の男性が現れた。彼は第二都市の管理者らしく、白いコートを着ている。しかし、コルネリウスとは違って、彼の目には冷酷な合理性だけが宿っていた。

「来訪者の皆様」管理者は機械的な声で言った。「私はドクター・ペルフェクトゥス、第二都市完全管理責任者です。ここは既に完全浄化済み区域です。感情による非効率は完全に排除されました」

慶一郎が前に出た。「あんたがこの街の人たちから感情を奪ったのか?」

「奪ったのではありません」ドクター・ペルフェクトゥスは冷静に答えた。「解放したのです。彼らは今、苦痛、悲しみ、怒り、そして無駄な欲望から完全に自由です。見てください、完璧な効率性を」

確かに、市民たちの動きは無駄がなく、完璧に効率的だった。しかし、そこには人間らしさのかけらもなかった。

「でも、喜びも愛も失ってしまったじゃないか」慶一郎は憤りを込めて言った。

「喜びや愛は非効率的な感情です」ドクター・ペルフェクトゥスは答えた。「それらは判断を曇らせ、生産性を低下させます。我々は人類を、より高次の存在へと進化させているのです」

その時、エレオノーラが一歩前に出た。「あなたは間違っています。感情こそが人間を人間たらしめるものです。それを奪われた彼らは、もはや人間ではありません」

「天使の戯言ですね」ドクター・ペルフェクトゥスは冷笑した。「感情的な判断こそが、この世界を混乱に陥れてきました。我々の合理的アプローチこそが真の解決策です」

マリエルが愛のペッパーミルを握りしめた。「神は人間に感情を与えられました。それは神への冒涜です」

「宗教もまた、非効率的な迷信です」ドクター・ペルフェクトゥスは答えた。「科学的合理性のみが真実です」

セリュナが怒りに燃える瞳でドクター・ペルフェクトゥスを見つめた。「千年の時を生きた私が言います。あなたのやっていることは進化ではありません。退化です」

「古代龍の古臭い価値観など、現代には不要です」ドクター・ペルフェクトゥスは動じない。

その時、慶一郎に閃きが生まれた。「待てよ…完全に感情を消去したっていうなら、あんたにも感情はないはずだ。なのに、なぜ俺たちに対して反論する?なぜ自分の正当性を主張したがる?」

ドクター・ペルフェクトゥスの表情に、わずかな動揺が走った。

「それは…論理的な説明責任です」

「いや、違うな」慶一郎は確信を込めて言った。「あんた、まだ感情が残ってるじゃないか。プライドって感情が」

その指摘に、ドクター・ペルフェクトゥスの冷静な仮面が少し崩れた。

「私は…私は完璧な存在です。感情など…」

「完璧でありたいって願望も、立派な感情だぜ」慶一郎は続けた。「あんたは市民から感情を奪いながら、自分だけは感情を持ち続けてる。それって、とんでもない矛盾じゃないか?」

ドクター・ペルフェクトゥスは言葉に詰まった。彼の中で、長い間抑圧してきた感情が蠢き始めていた。

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