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慈善の崩壊(第4部 / 新たな絆)

夕日が西の空に沈み始め、広場全体がオレンジ色の温かな光に包まれていた。セリュナの告白と慶一郎の受け入れを受けて、空気中には新しい調和が生まれていた。調和の炎も、これまでにない美しい虹色の光を放ち、その光は広場の隅々まで届いて、人々の心を温かく照らしていた。

エレオノーラとマリエルが二人のもとに歩み寄ってきた。エレオノーラの表情には、最初の一瞬だけ見せた複雑な感情は消え、純粋な喜びと歓迎の気持ちが表れていた。

「セリュナさん」エレオノーラは優しく手を差し伸べ、セリュナの手を取った。「ようこそ、セリュナさん。私たちは家族です。これから一緒に愛を育んでいきましょう」

「はい」マリエルも微笑みを絶やさずに頷いた。「セリュナさんの存在で、私たちの絆はさらに深まると思います。あなたと愛を分かち合えることを心から嬉しく思います」

二人の温かな言葉を受け、セリュナの瞳には再び感謝と喜びの涙が浮かんだ。

セリュナは二人に向かって、深く頭を下げた。「エレオノーラ様、マリエル様…このような形で家族の一員となることをお許しいただき、心より感謝しております」

その時、コルネリウスが三人のもとに近づいてきた。彼の表情は、記憶を取り戻してから大きく変わっていた。七年間失っていた父親としての温かさが戻り、同時に深い反省の念も宿っていた。

「篠原さん、皆さん」コルネリウスは深く頭を下げた。「私は…取り返しのつかないことをしてしまいました。私の進めてきた慈善政策…それは偽善でした」

慶一郎は優しく首を振った。「過去は変えられねえけど、未来は変えることができるさ。コルネリウスさんの本当の心を、エリスちゃんも喜んでくれると思うぜ」

コルネリウスの目に、再び涙が浮かんだ。「私は…これから、娘が望んでいた人生を歩みたいと思います。人々を幸せにする、愛に満ちた人生を。そして…この間違った慈善の体制を終わらせなければなりません」

彼は立ち上がり、広場の人々を見回した。

「篠原さん、私は第二、第三都市へ行きます」コルネリウスの表情は固く決意を帯びていた。「私がまいた種は私が責任をもって刈り取らなければなりません。感情を取り戻す手伝いを、この手で必ず成し遂げてみせます」

彼の声には、かつての冷たさは一切なく、父親として、人間としての温かさと強い責任感が満ち溢れていた。

その決意を受けて、慶一郎は最後の特別な料理を作り始めた。それは『新しい始まりの宴』と名付けられた、祝福の料理だった。

「これは、俺たちの新しい絆を祝う料理だ」慶一郎は四人に向かって言った。「それぞれの特色を活かしながら、一つの調和を作り出す料理さ」

料理が完成すると、四人は円になって座った。夕日の光が四人を照らし、その温かな光の中で、新しい家族の最初の食事が始まった。

最初にエレオノーラが天使のスープを味わった。「とても優しい味ですね。まるで天界の祝福のような…」

次にマリエルが愛のシチューを口にした。「温かな愛が心に染み渡ります。神への感謝の気持ちで満たされます」

セリュナは銀色のリゾットを味わった。「これは…千年の孤独が癒される味です。長い年月を経た喜びが蘇ってきます」

最後に四人全員で虹色のパスタを食べた瞬間、不思議なことが起こった。

四人の心が一つになったのだ。

それぞれの異なる背景、異なる能力、異なる経験が、調和の炎によって美しく結び合わされた。対立ではなく、補完し合う関係として。

エレオノーラの天使としての愛、マリエルの聖女としての慈悲、セリュナの古代龍としての知恵、そして慶一郎の人間としての調和の心。四つの要素が美しく組み合わさって、新しい力を生み出していた。

「これが…真の調和なのですね」セリュナは感動に満ちた声で言った。「個性を失うことなく、一つになること」

コルネリウスは、その光景を見ながら涙を流していた。「これこそが、エリスが私に示してほしかった愛の形なのですね」

広場にいる市民たちも、四人の調和を見守っていた。感情抑制から解放された人々の瞳には、希望の光が宿っている。

その時、空から美しい光が降り注いだ。それは天界からの祝福だった。大天使ミカエルをはじめとする天使たちが、エレオノーラの新しい家族を祝福していたのだ。

同時に、アガペリア女神からの祝福も降り注いだ。愛と胡椒の女神は、マリエルの幸せを心から喜んでいた。

さらに、古代龍族の長老たちからの祝福も感じられた。セリュナが千年の孤独を終えて、真の愛を見つけたことを、彼らも喜んでいた。

そして最後に、「神の目」からの承認が伝わってきた。四人の調和が、この世界の新たな進化段階を示していることを、最高位の神格も認めていた。

夜が完全に訪れた頃、広場には穏やかな静寂が戻っていた。しかし、それは感情抑制による無機質な静寂ではなく、愛に満ちた温かな静寂だった。

その時、レネミアが急いで広場に駆け込んできた。

「慶一郎様!」レネミアの声には緊張が込められていた。「ユートピア連邦からの緊急通信です。第二、第三都市で完全浄化作戦が開始されました!」

四人の表情が一瞬で引き締まった。

「どういうことだ?」慶一郎が立ち上がった。

「第二都市では既に三百人が強制的な感情除去手術を受けさせられ、第三都市でも記憶消去装置の出力が最大まで上げられています」レネミアは息を切らしながら説明した。「このままでは、明日の朝までに両都市の住民全員が…完全に感情を失ってしまいます」

コルネリウスは顔色を青くした。「そんな…私の行動が原因で…」

「いえ」慶一郎は強い決意を込めて言った。「俺たちがここで成功したからこそ、あいつらは焦ってるんだ。つまり、俺たちの力が本物だってことの証明でもあるのさ」

セリュナが立ち上がった。「慶一郎様、私の力をお使いください。古代龍の風で、他の都市へと急行いたしましょう」

エレオノーラとマリエルも頷いた。

「今度は、四人で力を合わせましょう」エレオノーラが天使の翼を広げた。

「愛の力で、必ず皆を救いましょう」マリエルが愛のペッパーミルを握りしめた。

慶一郎は四人の妻を見回し、力強く頷いた。「ああ。俺たちの新しい絆で、この世界を救おうじゃないか」

調和の炎が再び大きく燃え上がり、その光は夜空を照らして、希望の象徴として輝いていた。

第一都市の夜空に、調和の炎が美しく燃え続けている。新たな試練が待ち受けているが、四人の愛の絆があれば、どんな困難も乗り越えられるはずだった。

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