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偽善の招待(第1部 / 美しき銀髪の来訪者)

朝の陽光が新生セメイオン共和国の首都を照らす中、街の中央広場には異様な光景が広がっていた。

五百名という大規模な使節団が、完璧に整列している。彼らの服装は一様に白を基調とした清潔な衣装で、表情は穏やかだが、どこか人工的な均一さを感じさせた。

「まるで人形のようですね」

慶一郎の隣に立つエレオノーラが、天使特有の洞察力で呟く。使節団の一人一人を見つめる彼女の瞳には、困惑の色が浮かんでいた。

「感情の波動が...非常に薄いのです。まるで心の奥底を何かで覆い隠しているかのように」

慶一郎は調和の炎を静かに燃やし、魂素粒子を通じて使節団を観察した。確かにエレオノーラの言う通り、彼らから発せられる情報には、人間らしい複雑さや温かみが欠けている。

「慶一郎様」

マリエルが愛のペッパーミルに手を触れながら、心配そうに呟く。

「アガペリア様からの警告を感じます。『表面の美しさに惑わされてはならない』と...」

その時、使節団の最前列から一人の男性が歩み出た。年齢は五十代ほどだろうか。整った顔立ちに穏やかな微笑みを浮かべているが、その瞳の奥には冷たい光が宿っている。

「多元調和連合機構の皆様、初めてお目にかかります」

男性の声は心地よく響くが、どこか計算された印象を与える。

「私はユートピア連邦大慈善家、リベリウス・パーフェクトゥスと申します。この度は、貴組織の素晴らしい成果を拝見させていただくため、遥々参りました」

慶一郎が前に出ようとした時、広場の端から一人の女性が現れた。

銀色の髪が朝日に輝く美しい女性だった。上品な青い衣装に身を包み、その立ち居振る舞いには古き良き時代の貴族のような気品が漂っている。しかし、慶一郎にはその女性の正体がすぐに分かった。

「セリュナ...」

エレオノーラとマリエルも、ほぼ同時にエンシェントドラゴンの正体に気づく。しかし、セリュナは三人に微かに目配せしただけで、そのまま使節団に向かって歩いていく。

「まあ、なんと立派な行列でいらっしゃること」

セリュナの声が広場に響く。その声には、古代龍族特有の威厳と、同時に皮肉めいた響きが込められていた。

「私は長き年月をこの世界で過ごしてまいりましたが、これほど『統一された』美しさを拝見するのは初めてですわ」

リベリウスの表情が微かに変化する。計算された微笑みの下に、警戒心が芽生えているのが見て取れた。

「お美しい方ですね。お名前をお聞かせいただけますでしょうか?」

「セリュナと申します」

銀髪の女性は優雅に一礼する。

「黄金龍都にて、人と龍の調和について学んでおります者です。あなた方の『完璧な社会』というものに、深い興味を抱いておりまして」

セリュナの言葉に、慶一郎は内心で驚く。彼女がユートピア連邦に対して、何らかの意図を持っていることは明らかだった。

「ご興味をお持ちいただき、光栄です」リベリウスが答える。「我々ユートピア連邦は、すべての人類が平等に幸福を享受できる社会を実現しております」

「まあ、素晴らしい」セリュナの微笑みが深まる。「平等な幸福とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか?」

「合理的に最適化された栄養食による健康維持、効率的な労働分担による生産性向上、そして何より──」リベリウスの声に誇らしげな響きが加わる。「個人の迷いや苦悩を取り除くことによる、真の心の平安です」

セリュナの銀色の瞳が、一瞬鋭く光る。

「個人の迷いや苦悩を取り除く...」彼女が呟く声は、表面上は感嘆しているように聞こえるが、慶一郎には別の意図があることが分かった。「それは具体的には、どのような方法で実現されるのですか?」

「完璧栄養食の摂取により、感情の波動を安定化させ、不要な欲求や迷いを排除するのです」リベリウスが説明する。「例えば、料理への過度な執着、味覚による快楽の追求、食文化への無駄な拘り──それらすべてを合理的に最適化することで、人々は真の幸福を得られるのです」

慶一郎の心に怒りが湧き上がる。料理人として、そして調和の炎を操る者として、その発言は許し難いものだった。

しかし、セリュナは相変わらず優雅な微笑みを浮かべている。

「なんと画期的な発想でしょう」

セリュナの声には、賞賛の響きが込められていた。しかし、慶一郎には彼女の真意が痛いほど分かる。

「私は古き時代より人間を観察してまいりましたが、喜びも悲しみも、迷いも苦悩も、すべてが人間の美しさだと考えておりました。しかし、あなた方のお考えでは、それらは不要なものなのですね」

「その通りです」リベリウスが力強く頷く。「感情の起伏、個人の趣味嗜好、文化的多様性──それらは非効率と争いの根源です。我々はそれらを排除することで、真の平和を実現したのです」

セリュナが軽やかに手を打つ。

「素晴らしい!それはまるで、庭園の花をすべて同じ高さに刈り揃え、同じ色に塗り替えるようなものですね。確かに整然として美しいことでしょう」

リベリウスの表情が微かに曇る。セリュナの言葉に込められた皮肉に、ようやく気づき始めたのだ。

「しかし」セリュナが続ける。「その庭園に、果たして生命の息吹は感じられるのでしょうか?」

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