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真実の距離

リナが突然学園から姿を消した日から、すでに数ヶ月が経とうとしていた。魔法学園の生徒たちはそのことについて最初こそ騒いだものの、次第にリナの話題は風化し、誰もが彼女の存在を忘れ去ったかのようだった。しかし、アリスだけは違った。彼女は毎晩、図書館に足を運び、リナの残した手掛かりを追い求めていた。


リナがいなくなった理由は誰も知らなかった。公式には「休学」という扱いだったが、リナが一言の別れも告げずに姿を消したことがアリスの胸に引っかかっていた。リナのことを一番近くで知っていたはずのアリスですら、彼女がいなくなった日のことを思い出すと、その不可解さに頭を悩ませるばかりだった。


夜な夜な図書館の奥深く、古い魔法書や植物に関する記録を調べる日々が続く。図書館の薄暗いランプの光が、アリスの集中力を鋭く研ぎ澄ませていた。彼女が特に注目していたのは、リナが研究していた「夜光花」に関する文献だった。この花は月明かりの下でのみ咲き、伝説では「失われた記憶を呼び戻す力」を持つと言われている。


「なぜリナは夜光花にそんなにこだわっていたのだろう?」アリスは自問自答する。二人が共に研究していたとき、リナは夜光花の伝説に強い興味を示していたが、それ以上のことは語らなかった。リナは自分の過去に触れることがほとんどなかったが、アリスは彼女の瞳に時折浮かぶ影を見逃してはいなかった。


図書館での調査を続ける中、アリスはふとある古い書物に目を留めた。それは、「月光の秘技」と題された本で、夜光花に関する儀式や、その育成方法について記されている章があった。アリスは興味深くそのページをめくりながら、リナがこれを参考にしていたのではないかと直感した。


「満月の夜に夜光花を咲かせる儀式…。この条件が揃えば、リナが何を求めていたのかが分かるかもしれない。」


アリスは本を持ち帰り、研究をさらに進めることを決心した。彼女は一人でリナの謎を解き明かす覚悟を固めていたが、その過程で学園の友人たちから少しずつ距離を置くようになった。昼間の授業中も、アリスはリナのことばかり考えていた。以前は仲間たちと一緒に笑い合っていたが、今は誰にも心を開くことができなかった。


「アリス、大丈夫?最近、あんまり話さないよね。」同じクラスのミラがある日、気遣うように声をかけた。


「ごめん、ちょっと調べものがあって。」アリスはそう言って、笑顔を作ったものの、ミラの目をしっかりと見ることはできなかった。ミラはそれ以上深くは問いたださなかったが、その視線にほんの少しの不安が滲んでいるのを感じた。


夜になると、アリスは再び図書館に戻り、調べものを続けた。彼女はリナが使っていた机に座り、そこにまだ残っているかもしれない手がかりを探していた。リナの書きかけのメモや、未整理の本がいくつも積み重なっていたが、決定的な情報はなかなか見つからなかった。


そんなある夜、アリスはとうとうリナの残したメモの中から、意味深な一文を見つけた。「花が咲く場所は、月の光が届かぬ影の庭で。」それはまるで謎掛けのような文だったが、アリスはその意味をすぐに理解した。学園の外れにある古い庭園――その場所こそ、リナが夜光花を咲かせようとした場所に違いない。


「そこに行けば、リナが何をしていたのかが分かるかもしれない。」アリスはそう思い立ち、次の満月の夜に向けて準備を整えることにした。彼女は古い魔法書を再び調べ直し、儀式に必要な道具や条件を確認した。アリスの心には期待と不安が入り混じっていた。リナの失踪の謎を解き明かせるのか、それともさらなる闇に足を踏み入れてしまうのか。


そして、満月の夜が訪れる。アリスはひとり静かに学園を抜け出し、リナの足跡を追って古い庭園へと向かった。そこは誰も寄りつかない荒れ果てた場所で、木々が生い茂り、月明かりがほとんど届かない暗闇が広がっていた。アリスはリナの残したメモに従い、夜光花を咲かせるための儀式を慎重に進めていった。


月光が木々の隙間から微かに差し込む瞬間、アリスは小さな光の揺らめきを目にした。彼女は胸が高鳴るのを感じながら、その光に近づいていった。


「リナ…これが、あなたが追い求めていたものなの?」アリスは夜光花の咲く姿を見つめながら、リナが消えた真実に一歩近づいたような気がした。


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