僕をいつか、忘れゆく君へ 【本編ティーザー漫画付】
あー。おつかれ、さーん!
ようやく今日も終わったなぁ、きっっつい二刻やってんな。後ろでうようよ、応援してるだけの俺がこんだけ疲れてんのやもん。実際に戦ってる、お前の疲労困憊やいかに!
今日はちょっとだけ、老練隊長の判断が鈍かったような気がしぃひん? 何や、ふたご兄弟の“防御壁”も押され気味で不安定やった……。お前はその辺、ぎちっと補助に入らなあかんかったし。そうそう、となり第六十一隊の攻撃援助もあったから、余計にややこしかったな! うーん……やっぱし≪敵≫の間隔がずいぶん狭かったんが、主要因やよ。まー、この辺に対応して配置決めるんは上の指揮部やしー。現場に出てるこっちとしては、もうどうしようもないな。でもお前は、いつも通りでようやったよ!
ほんとに本当に、ようやっとるよ。お前は。
どうしてそこんとこに、俺は手ぇ貸してやれんかな、と。どうしょもないこと考えて、またまた後悔してまうくらい、お前はまじめにひたむきに、最善つくしとる。わかっとるよ、俺みとるもん。ずーっと。
だからな、 ……疲れとるんは仕方ないけど。そうゆう悲しい顔、しんといてんか……。
気の利いたぼけの一つも言われへんのが、つらくなってまうやん。俺まで一緒、かなしゅうなるんよ……。
仕事終わったんやし、戦線は明日まではるか彼方に関係なーし。もちょっと明るく、ほがらかに行かへ~ん?? え?
お前、いま…… 俺の名まえ、呼んだ……んかな? ああ……そっか。
後方支援がなんでか長いこと来んと、皆の調子が狂い始めたあの局面。俺ならあそこで、どう攻撃するかってこと? ふーむ。
むしろ攻撃理術はしいひんよ。それこそでっかい変人お兄に連続びりびり雷撃落としてもらってー、≪敵≫がぎゃふんと弱ったとこに、ずばっと青く風刃で切り込んで確実に仕留める、……ちゅうのが俺の理想の定石やけど。うちの老練隊長は、よっぽどのことがなければ連続攻撃はさせん人やしな。せやし……たぶん隊長とお前と、一緒になって三人でひたすら防御の援護にまわるかな? ほいで、≪敵≫どもが壁を押し疲れたところを狙って、効果的に一撃……てとこかいな。
うーん、にしても……。でっかい兄やんは今日もぶっちぎり元気やったな。皆がこんだけ調子悪い中で、あんだけぴんぴんしとるのは……天然変人やのー。ほんまに、一体どこから来てんねん。あの活力源……。老練隊長もあんまし慎重に石橋叩いてばっかでなく、あの天然資源をもっと有効活用したらええのんとちがうか? 枯渇する恐れとか、たぶんないで。
お、ほれほれ! そのでっかい変人がお前を呼んどるよ!
早よ、宿舎に帰りよし。砂まみれやもん、洗い落とせば身体も頭もさっぱり軽くなるよって、な。元気出し!
……沐浴したてで、そのくらーい顔……。んもー、どうゆうこっちゃねん。
ええ若いもんがぁ~、栄えあるティルムン軍の正規理術士、第六十三隊の副隊長はってるやつがぁ~、何ちゅう辛気臭い顔しとんのや! ……はっ。おでこ、ぴかつや。……
……ん?
ああ、そうかーい! お腹すいて死にそうなんかい! きゃはッ、道理や! っって死ぬなや! こら。今日の戦線配備は遅番やったんやし、夕ごはんはもう目の前やで! こらえるんや、あとちょっと!
ほれ、鐘が鳴っとる。でっかいお兄も隊長もふたご兄弟も、むくりと反応したで!
皆、いざ食堂へ出陣! いぶくろ出撃! ああっ、早歩きになってるぅ!? 戦線行く時より、こっちのがよっぽど足並み揃うとるな、第六十三隊?? それでええんや! 皆、自分の中の自然……すなわち本能に従え! 食欲のおもむくままに、思う存分食いつくしたれやー!
……あー。そうそう。そうゆう平和な顔してて欲しいねん。できればいっつも。おでこも平和。
ちなみに、何たべとるん?
おおう! でっかい肉団子にー、味付きひよこ豆に、揚げ茄子かー。定番にして鉄板でないかい。学校の食堂でもしょっちゅう出たな~……。なつかしいな! あの頃から、お前はひよこ豆がめっちゃ好物やったろ? 俺もやけど。
……
……ちがった、な。はじめ俺はあんまし、好きでなかった。お母ちゃんが家でよう作ってたけど、正直もそつき具合が苦手やった。けどお前がな、……学食であんまりうまそに、幸せそうに食べてんの見て……俺もつられて、食べてるうちに何となく好きになってん。
あはっっ。もう二度と、一緒に食べられへんのが……残念やなー……。
♪♪ ねんねん 寝にゆく いなか道ぃ~~
……ほー! あんなに星がいっぱい。最近はなんだか、暗くなるんがちょい早いな?
あれがつやつやみどり星、しらしら乳星、だいだいみかん星~、俺が指すんは聖なる大みつば座や! どや! ……あと知らんし!! ちゅうか、こんだけ数多いとどれがどれやら……。
俺の東のご先祖さまも、そのうちどれかとして、ちかちかしとるんかなぁ? 俺もいつか、あそこ夜空へ行くんやろうか……?
うーん、絵にはなるかもしれんけど……。あんまし、ときめかんなー。
……お前はほんとに、頭の上を見ん人やし……。星とか月とか、正直どうでもええのんやろ?
しかも、ずーっと上に行ってしもうたら……お前のつむじくらいしか見えへんやん。おでこもよう見えん、それはあかん! 絶対にあかん! めっぽう遠いし、たぶんお前の声も聞けんくなってしまうぞ!?
それはちょっと……かなり……すんごい嫌やな? やっぱ俺はうだつ上がらんくても、お前のまわりにもよもよ居れたほうが、だいぶんええな~!
たまーにちょこっと思い出して、お前が俺の名まえ呼んでくれたったら。今日みたいにな。ほんとに俺は、そんだけでいい。
俺がどんだけお前の名まえ呼んでも、届かへんのはわかってるよ。
と言うかそもそもがな、俺がお前のこと、……そうやって想い入れて名まえ呼ぶんは、あかんことやってんもん。この国では、男の子が男の子を想うてはあかんのです。病気とみなされ罪になってまうのです。……いや待てよ? 今気づいたが……病気ちゅう認識は、どうにもはっきり間違っとるよな? 死んで身体なくしたもんが、どないして病気になれるんや?? 今の俺がええ証拠やん?
……えーと。……だからな、お前はいつか素敵な人をめっけて、……その女の人の名まえを呼んだったらええねん。
除隊して、そういう疲れた顔ばっかりせんようになって。普通の生活のあるあの町に戻って、≪敵≫やら戦線やらのことをすっぱり忘れて……、 俺のことも、忘れて。
ほいで自分の幸せに出会って、いっぱい笑って、こども生まれてにぎやかしく暮らしてほしいねんか……。
そういう未来を一緒に歩いてこ、て人と出会うまでで、ええ。
お前がその人の名前よぶ、その瞬間まででええから……。
お前のそばに、居させてんか。お前の名まえ、呼ばせてんか。
ごめんな。ほんとに。
身体なくしてもうたのに、……お前のこと、まだまだ、まだまだ好きやねんか。
想いばっかりがどうにも消えんくて……だから俺ってばこんな風に漂ってるんかな? どうなってんのやろうね……。自分でもさっぱりわからへん。つかみどころあらへんで? 文字どおり。もやもやのふやふやでー、ぎゅうともちゅうともできやせん。
ふう……。
ま、えっか……。とりあえず俺、お前のそばに居られるんやしなー! 十分しあわせな、いま現在~!
あ、今夜は本読むんかな?
おおう、『常緑の森』を最初っから読み直すんか!
ええな、そうしよ! 俺も読む読む。お前の隣、寝台となりに座って、よむ。
え~~と、そこー……ちょっと指……どかしてもらってええですか~? 文末が読めんし!
うん、おおきにありがと。読めた。
……って、あれ?
いまちょっとだけ、声……届いたんかいな?
モモイ??
【完】