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スズの兵隊  作者: みゅ
3/3

私の生きがい

 「買っちゃった☆」


 朝起きたらスズの兵隊が一人増えていた


 「買っちゃったって…銭ゲバお前…」


 流石のホーネットもこれはひくだろう

 ホーネットと言うのは、小柄金髪ツインテ―ルの事だ


 「ん。仲間が増えるのは良い事よ」


 私はお姉ちゃんが買ってきたその子に近付き、目線までしゃがむ


 「私はエクリプス。貴女の名前は」

 「え…その…えっと…ミロスラーヴァ…」

 「ミロスラーヴァ、ね」


 ミロスラーヴァの頭を撫でる

 因みに私の本名がパラフィカであることはおねーちゃんと再会してから知った

 今更名乗る名前を変えるのも何だか気持ち悪いので、いつか誰かがそう付けた、エクリプスの通り名を今でも使っている


 「じゃあそうだね。子供用の服とかがいるかしら。私ちょっと買ってくるね」


 「は!?おいピザカッター逃げる気か!?」

 「いってらっしゃ~い」



◇◇◇



 ブラックマーケット

 貧民街の物流の中心地だ

 時折政府の人間が監視に来るが、此処のボスが相当凄いらしくて迂闊には手を出してこないらしい

 大方鋼狼関連だろうけれどね


 「それとそれ、あとこれも」

 「お前さんには小さくねえか?まさか、その年でもう子供を…」

 「違うよ。お姉ちゃんの。」

 「ああスコーピオンの。なら納得だな」


 事実が歪曲した気がするけど気にしない


 それから私は、エナドリやら大量の保存食やらを買い込んで帰路につこうとした


 「…ん?」


 目を惹いたのはジャンク屋

 パラセクトの整備の際に出てきた屑パーツとかが売っているのだが…


 「お、気付いたか。」

 「これって…コア?誰か死んだの?」

 「いや、分化した奴らしい。金に困って売り払ったんだと」

 「いくら?」


 結局、おとといの襲撃で得た利益をほとんど使い果たしてしまった

 だけど、良い買い物だったと思う

 少しズルだけど、これで第三次順応に進める


 家には帰らず、私は買い付けた多数のスクラップと共にその辺の廃墟に引きこもり組み立てを始めた

 コアを中心にフレームをくみ上げ、完成した機械を、はだけさせた鳩尾に近付ける


 気に入ってくれるかな


 円盤が二枚現れた

 オブジェを円盤に乗せてやると、二枚は其れを挟み込むようにして吸収した

 どうやら私のパラメタルのお眼鏡に叶ったらしい


 「…ん」


 体の隅々までパラメタルが行き渡るのを感じる

 この年で第三順化に進むのは珍しい。どうやらツキが回ってきたみたいだ


 第三次順応は別名覚醒とも呼ばれていて、パラメタルを武装として装備し一体となる事で力を発揮する…んだけど

 武装をを見てみたがなにこれビキニアーマーじゃん

 なしなしこんなの。緊急時以外は使わない事にした


 ああそうだ、早く帰らなきゃ


 廃墟から這い出た私は元の道に戻ろうとして、

 全身パラメタルの機械の恐竜と鉢合わせた


 ビースト?一体どうしてこんな街中に


 "ギャアアアオオオオ!"


 ビーストの大剣の様な尻尾が私の真上から降りかかってくる

 考えている暇は無い


 「【カマイタチ】」


 私の周囲に刃円盤で尻尾を受け止める

 これが私の第一次順応、カマイタチ。自在に操縦可能な浮遊する刃の円盤だ


 "ガキィン!"


 「お…もい…!…でも…!」


 円盤に風が帯び、範囲と鋭利さが格段に上がる

 第二次順応、属性発生。私は風属性に好かれた


 "キュイイイィィィィィン!"


 回転が増していき、次第に尻尾に亀裂が入り始める


 "グオオオオォォォ!"


 ビーストは力を込める

 が、残念ながらそれは逆効果だ


 より深く風の刃が食い込み、そして


 ビーストの鋼鉄の尻尾は見事に輪切りになった


 "ギャアアオオオ!?"


 ビーストはよろけるが、倒れる間際にその口から雷を帯びたビスを射出する

 純朴な属性攻撃ならまずかったが、これなら問題なかった


 "キィン!キィン!"


 円盤が踊り、ビスを両断する


 立ち上がろうとするビースト

 でも


 「そろそろ終わりにしよう」


 私が手を掲げると、6枚のカマイタチが集結し、円を描くように回転を始める

 回転の加速と共に帯びる風も強まっていき、最終的には一つの大きな風の円盤がそこに現れた


 「テンペストチャクラム」


 "ギュイイイイイイイイィィィィ!"


 巨大な風刃は高速で飛来していき、ビーストを真っ二つに両断した


 "アア…アアアオオオ…"

 "バチチチチ…ドオオオオォォ…"


 黒い液体をまき散らす軽い爆発を最後に、ビーストはそのまま動かなくなった


 ビースト

 パラメタルに完全に乗っ取られた生物。普通は知能の低い動植物に起こりえる現象なのだが、稀に人でも発症する。政府がパラテクト駆除に乗り出すときの決まり文句にもこれがよく使われている


 さてと、私が倒したんだから私が漁っていいよね


 ビーストの身体はパラメタルの塊だ

 私達も髪を切ったり爪を手入れしたりする感覚で、時折成長しすぎたパーツを取り外して売っているけれど、ビースト丸々一体分の売り上げには遠く及ばない


 外装フレームに、内部のワイヤーや小機械、コアを取り外し、予備のエコバックに突っ込んでいく


 「…ん?」


 殆どは天然物だった

 だが一部、政府がよくやるパラメタルの使い方が為されてた


 「…ッチ」


 こすい嫌がらせだ

 さしずめ、実験で生み出したはいい物の制御が効かなくなったビーストをここに捨てているのだろう


 コア部分にあった蜥蜴の骸を埋葬すると、私はその場を後にした



◇◇◇



 「見てたぜ!レックスワンパンしてたよな!すげーじゃんあんた!」

 「やっぱあんただったかエクリプト!キレイに両断されたレックスを見た時、あんたなんじゃないかと思ったぜ!」

 「キャー!エクリプス様ー!」


 「ど…どうも…」


 人と関わるのはそうでも無いが、おしゃべりは苦手だ

 具体的には、この低い声がコンプレックス

 お姉ちゃんみたいな、女の子らしい可愛い声には何度羨んだことか


 不意に、鏡に自分の姿が映る

 黒くて大きなフードが付いたパーカー。とても頑丈。チャックは壊れているがそれ以外は擦れ一つできた試しも無い

 スポーツブラ。これも富裕街産だろう。同じく全然だめにならない。本当はシャツの一枚でも着た方が良いのだけれど、この辺りのは直ぐ駄目になってしまうし肌触りも好きではない

 天然物のダメージが入ったジーンズにスニーカー。これもきっと富裕街から来た物だろう


 つまるところ今の私は、見た目度外視で取り合えず在る物を着ているだけのMMOゲーム無課金勢の様な状態だった


 おしゃれに興味が無いと言えばうそになるけど、こんな場所だし贅沢も言ってられない


 「………」


 ガラスに写った自分を見ていると、なんだかイライラしてきた

 どうして理想の姿とこんなにもかけ離れているんだろう

 どうしてこうも上手く行かないのだろう


 ダメだ、このままじゃまたあれをやってしまう


 私は人込みから半ば逃げるようにその場から立ち去り、駆け込むようにある場所へと向かった


 「いらっしゃい」


 老人が一人で経営する酒屋


 「あれを頂戴」

 「またかい。いくらパラテクトでも体壊すよ」

 「良いの。とびきり強いのを頂戴」


 老人は棚から一升瓶を取り出した

 これの名前はジーン

 酒屋に置いてはいるもののアルコールは入っていない。滋養強壮薬だ


 普通は小さじ一杯とかを服用するんだけど、私はそれをラッパ飲みした


 ああ。意識が朦朧とする

 この感覚の為に毎日を生きている気がする

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