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スズの兵隊  作者: みゅ
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パラテクト

 あの日の事は今でも夢に見る


 8歳の頃

 パラメタルに寄生された私は、政府の指示に従う両親によって施設に連れて行かれた


 何も心配する事は無いと言われていなのに、それは直ぐに嘘だと分かった


 「娘さんは既にパラメタルに自我を侵食されています。残念ながら、あの中にはもう娘さんは居ません」


 「ああ…」

 「そんな…」


 (…え?)


 私は此処に居るのに


 「順化が進めば、今後間違いなく暴走します。娘さんからパラメタルの自我を削除いたしますので、こちらの書類にサインを」


 両親さえも、それを信じようとはしなかった


 必死に声をあげようとしても、麻酔で言う事を聞かない体ではだめだった


 へっとギアが取り付けられる冷たい感触

 恐怖でこわばる私の目を見て、嘲笑する職員達


 (いやだ…きえたくない…しにたくないよ…パパ…ママ…助けて…!)


 届かない声


 装置に電源が入る、あの音は今でも覚えている


 (いやぁ…頭の中ぐちゃぐちゃする…きもちわるいぃ…)


 だんだんと、自分と言う存在が消えていくのを感じた


 (…でも…)


 私はこの世界には迷惑なのかもしれない

 きっとこれが正しいことなんだ


 半分ほどが削除された辺り、焦点の合わなくなった目で、そう考えるようになった


 バチバチと言う頭痛が走り、私は施術が完了したことを理解した


 何も考えられない

 頭の中が空っぽになったかのような

 ぼんやりと外界からの刺激をただ感じるだけのあの感覚

 自分がまるで無機物にでもなったかのようなあの感覚


 死ぬよりもひどい目に逢う物かと思っていたので、安心した気がするのを覚えている


 あれが始まるまでは


 「おい見ろよ!本当に動かねえぞ!」

 「でも生きてるんだよな…?」


 ベルトのカチャカチャと言う音


 「おいおい待て何する気だ?」

 「何ってそりゃお前。こいつはもう人間じゃねーんだぜ?」


 その日、此処には正義なんて無いって知った


 「ぎゃははははは!おい見ろよこいつ泣いてるぞ!」

 「すげー。体もちゃんと反応してる。最高だぜこりゃ」

 「おい見ろ。所長からメールだ。"俺も混ぜろ"だってさ!」


 パラテクトは人ではない

 ここで人でなくなるんだと知った


 第一次順応が発現する日まではずっとそんな生活だった

 喉に差されたチューブで不味い栄養液をとり、後はひたすら玩具にされた

 痛めつけられたり嬲られたりした


 抵抗する事も叫ぶこともできなかったから、ただ泣いていたのを覚えている


 12歳の頃

 漸く第一次順応が発現した


 こうなれば後は脳みそと脊髄を摘出されて機械に搭載されるのを待つだけだ

 心から死を望んでいたのを覚えている


 施設の重い扉が破壊された時は、何が起こったのか理解できなかった


 銀色の短髪

 先端がバズーカになった大きな尻尾

 後姿から見える微かな無精髭


 「………」


 最強のパラテクト、"コックローチ"を見たのは、それが最初で最後だった


 その後色々あって流れ着いた先は、貧民街と呼ばれるスラム地区

 そこで15歳のころまで、私みたいな子供を引き取って養う民間の慈善団体に育てられた

 人格もそこで再形成された


 犯罪組織鋼狼の襲撃を受けて団体が壊滅してからはストリートチルドレンを2年やって現在に至る


 お姉ちゃんは私よりも3年遅れて寄生されたらしい

 両親に言う前に家出して貧民街に逃げたとか


 寄生されたと聞いた時はとても不安だったけど、酷い目には逢わなかったらしいので良かった


 お姉ちゃん曰く、私の性格はかなり変わったらしい

 昔は優しかったのに、今は冷たく無感情でどこか自暴自棄。まるでドゥーマーみたいだと


 私自身に自覚は無かったが、まあそうなって当然だろうとも思った



◇◇◇



 「ふぅ…」


 暗い部屋の中

 疲れた私は、デスクトップパソコンから視線を逸らす


 このサイトはきっと、政府直轄の"富裕街"には届かないだろう

 何の意味があるかは正直分からない


 でもこの世の中何がどう作用するかは分からない


 すずの兵隊の宣伝も兼ねて、私は今日初めて、オンライン上で自分がパラテクトである事を明かした


 椅子をこぎ、変な色のエナジードリンク缶をあおる

 きっと引きこもり気質があったのだろう。この潜伏生活は左程苦にはなっていない



◇◇◇



 「ふ~んふんふ~ん♪」


 司法局の装備が高値で売れたわぁ~

 今夜はごちそうねぇ~


 あらぁ?何かしら?

 人が…広場でオークションにかけられている?


 「こちら!遥か南より渡来したかの有名なブードゥ人!しかもパラテクトな上に処女!虫歯も無し!さあさあこれ以上の上玉はなかなかいないよ!」


 「50万!」

 「70万!」


 ふぅ~ん?


 興味が湧いたので行ってみることにした


 出品されていたのは女の子

 褐色の肌に黒い髪。黒い瞳。痩せていけれど、あらかわいい

 今はぼろぼろの麻布の服だけど、カワイイ服を着せてあげたらきっともっとかわいくなるわ


 「300万!」


 …あらぁ…思わず売上金を全部投げちゃったわぁ…


 結局私は、その子を落札してしまった


 「困ったわねぇ。うちもあんまり余裕ないし~…あらそうだわ!鋼狼から奪ったドラッグがまだ手付かずだった筈~」

 「あ…の…」

 「ん?」

 「…ありがとう…ございます…」

 「どうして感謝するの?」

 「…え?」

 「私は~貴女を買ったのよぉ~?」

 「あ…そう…ですね…その…力仕事は苦手ですが…」

 「そうねぇ…じゃあ、一緒に犯罪者にならない?」

 「…はい…かしこまりました…」


 そ。私達は犯罪者

 ヒーローでも何でもない

 ゴールはパラテクトではなく、人として裁かれる事


 私は新しく購入した女の子の頭をぽんぽんと撫でると、その枝の様な手をひいて帰路についた

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