『こんやくはき』である!!
ハッキリ言います、超くだらないです(;^ω^)
昔の漫画に影響され、勢いだけで書きました!!
とある王国の学園の卒業パーティー。
パーティーもそろそろ佳境という段階で第一王子は一人の男爵令嬢を侍らせ、背後には数名の臣下を従えて声を張り上げた。
「公爵令嬢スーザンよ、前に出よ!」
その声に会場に集まった卒業生を始めとした来賓客たちは“何事”という思いと共に“ついに始まってしまった”という思いがあった。
と言うのも第一王子は学生時代に婚約者であるはずの公爵令嬢をないがしろにして、現在も隣にいる男爵令嬢と色恋沙汰に興じていたのは卒業生全員が知るところだった。
しかし第一王子のそんな所業を公爵令嬢側は静観するのみで、本日だって婚約者である彼女をエスコートせずに件の男爵令嬢を連れている事すら焦る事も無く放置していたのだ。
「そのような大きな声を上げずとも聞こえておりますよ。ご命令に従い参上いたしました」
「ふん……相変わらず不遜な態度だな」
そして現れた彼女の目には動揺など一切なく、むしろ好戦的な色が見える事から常識的な貴族であればあるほど、これから壇上の王子を始めとした高位貴族の子息たちが大変な目に合う事が予想できた。
しかし……そんな中でこのパーティー会場に全くそぐわない迫力のある声色が静かに聞こえて来た。
「ぬう、まさか彼の伝説の決闘法『卆仰八帝・恨厄覇鬼』をこの目で見る事になろうとは」
しかしそんな修羅場が繰り広げられようとしたその時、来賓席にいた一人の剃髪の学生が真剣な表情で言った言葉が静まり返った会場に響き渡った。
そして同時にまるで示し合わせたかのように、オーケストラの皆さんがまるで“一世を風靡しそうな”BGMを奏で始める。
当然その言葉を耳にした者の大半は唖然とする。
婚約破棄と言うモノを決闘法と表現された事の意味が分からず、壇上の王子も男爵令嬢も告げられた公爵令嬢も王子の取り巻きの者たちも……。
そんな中、一人だけ隣にいたパーティーに全く似合わない帽子を被った髭面の学生が大げさなまでに驚いた顔になる。
「し、知っているのか雷で……サンダーボルト!」
「うむ……かの有名な著書『メイミン・ショーボウ』によると太古の昔、那楼帝国座魔啞一家の全盛期に男女間の痴情のもつれからの婚約破棄が数多く台頭し『握厄霊錠』『典勢洪陰』などあらゆる亜種、流派が生まれた。しかしあまりに多く飽和状態となりすぎた結果、座魔唖一家はとうとう神の怒りを買う事になり、恐ろしき呪い『天振阿北』を受ける事になり……帝国は徐々に衰退の一途を辿る事になった」
そして説明と共に、どこからともなく屈強な漢……もとい令嬢同士がピラミッドのような足場で対峙しつつ手を組みあって歯を食いしばる解説図が現れる。
それこそ最初から用意されていたかのように……。
「事態を重く見た時の皇帝は安易な座魔唖が起こらないよう、男女間の三角関係の清算をする為に始まったのが究極の決闘法『卆仰八帝・恨厄覇鬼』なのだ!」
「ぬう~そんな事が……して、その決闘の方法は?」
「うむ、おそらく今王子たちが立っている壇上から伸びる階段……あそこで始まるハズだ」
いつの間にか会場の誰もがその荒唐無稽な説明を聞き入っていたのだが、突然自分たちが立っている壇上の事を言われて、王子や男爵令嬢を含めた取り巻きどもも思わず足元を見てしまう。
「まず長き恨厄覇鬼の歴史に習い決着の方法は階段落ち、恨み骨髄、血で血を洗う女子二人が取っ組み合い先に階下に突き落とした方の勝利となる」
「ほう……そいつは何とも血沸き肉躍る。婚約と言っても未だ王政のこの国にとって婚約破棄は女性の一大事……たとえ相手を突き落としてでも手に入れたい者を手に入れようとする気概は見事だな!」
いやいやいやいや……連中が盛り上がるのに反して青くなった男爵令嬢も公爵令嬢も、この時ばかりはユニゾンして首を左右に振っていた。
「更に落ちた先には大抵何らかの仕掛けを用意していて、定番は鉄の針、肉食のピラニアを放った水槽、硫酸を満たした池などがあるな」
「なるほど……敗者には確実な死。女性と侮るなど出来ん……このような決闘を選ぶなど生半可な男子よりも遥かに漢ではないか!」
ギョッとした来賓客は一斉に話題の中心たる令嬢たちに“え!? マジでやるの!?”という視線を寄越すものだから、令嬢たちは手がちぎれんばかりに振って『ないないない』と否定する。
「当然宣言をした男も例外ではない。太古の契約『震事痛乃哀』により加担した女子が敗北した時には迷わず後を追う……無論肉食魚蠢く池であろうと全身が焼け爛れ溶ける硫酸の中であろうとも……」
「むう、貴族の婚約と言えば政略であり国王からの命令。反旗を翻すにはそれ相応の覚悟が必要という事か……王国の気概と男気、なかなかの益荒男だな!」
そしてある意味で尊敬のまなざしを二人の濃い男に向けられた王子は冷や汗を全身から流して“こっちをみるな!”という表情になった。
「いずれにしろ、王子が宣言した瞬間『卆仰八帝・恨厄覇鬼』は成立し、決闘は避けられないものとなる。少なくともどちらかが確実に命を落とす事になるであろう……」
「なるほどな……一見パーティーの珍事件に見えても貴族階級の魑魅魍魎住まうこの場においては全てが常在戦場、言葉一つ取っても命がけという事か」
「当然だが王族たる男がここまでの覚悟を見せるのだ。事態を放置していた王国とて責を負うことになる。一説では事態を起こした父たる国王が切腹を……」
と……そこまで剃髪の男サンダーボルトが語ると、さっきは勢いよく自身の婚約者を呼び出した王子が、侍らせていた男爵令嬢を置き去りに壇上から下まで下って一礼した。
「……先ほどは不躾な呼び出し、大変失礼した。少々ご相談申し上げたいので別室へ来ていただけるだろうか?」
「……承知いたしました」
「み、皆の者! 先ほどは失礼した。我々はこれから内密の話がある故、引き続きパーティーを楽しんでくれたまえ!!」
と、先ほど見せた高圧的な態度とは打って変わった低姿勢を見せたかと思えば、隣の男爵令嬢や取り巻きの臣下を引き連れて、そそくさと会場を後にする王子。
そして振り上げようとしていた拳の行方を見失ったように戸惑う公爵令嬢を複雑そうな顔で連中の後を付いていく。
彼らが会場からいなくなり、しばらくすると再び優雅なBGMが流れ始めて……再びパーティーらしい喧騒が戻り始める。
「お、おいサンダーボルトよ……お前の言う決闘が始まらないのだが?」
「む? おかしい……この国では違うのだろうか?」
首を捻り自身の見解が外れた事に戸惑っている剃髪の男であったが、周囲の卒業生たちは一様に同じ事を考えるのであった。
『いや、そもそもどの国の常識だ!?』……と。
「いや……もしやこれは神話で語られる異次元的手法、神の怒りを更に買ってしまう禁断の儀式『胆変叉儀』の前兆では!?」
「な、なんなのだ雷で……いやサンダーボルト、その不穏な響きは!?」
再び何やら劇画調な顔で言い出すサンダーボルト氏に、会場中の来賓客たちの心は一つになっていた。
井伊火玄尼死南砕
お目汚し大変失礼いたしました(;^ω^)
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