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かぶみ創世記~出生編~

作者: 弥生。

 昔々、あるところにお爺さんとお婆さんが暮らしていました。

 今日もお爺さんは山にシヴァ狩りに、お婆さんは川に洗濯をしに向かいました。


「グオオオォォォォ!!」


 その咆哮は大地を揺るがし、山に住む生き物たちは一目散にその場を逃げ去っていく。

 そんな中、一人の老爺が身の丈ほどある鉈を担いで咆哮を上げる者に向かってゆっくりと歩み進んでいく。


「来たな、人間よ……亡き者にしてくれるわ!!」

「ふぉっふぉっふぉ、それはこちらの台詞じゃわい。お主を倒し、山に平穏を取り戻そうぞ」


 対峙する異形の破壊神と鉈を担いだ老爺。戦いの火蓋は切って落とされた。



 一方その頃、川に洗濯しに来ていたお婆さんは騒がしい山の方に目を向けながら小さく呟いた。


「爺さんは元気じゃのう。あの破壊神シヴァを相手にして一歩も引かぬとは流石じゃ」


 大地を揺るがす地響き、木々を薙ぎ払う衝撃波が山全体に広がり、シヴァと老爺の死闘の様相は容易に想像がつく。

 少しの間、山の方角に目を向けていたお婆さんは思い出したかのように我に返る。


「おっと、そうじゃった。洗濯物を済ませないといかんのぅ。爺さんなら大丈夫じゃろう。あらゆる悪鬼羅刹を屠ってきた爺さんならこのくらい訳ないじゃろうて」


 お婆さんはそう呟くと、川で洗濯をし始めた。

 暫く洗濯していると、川の上流から何かがどんぶらこと流されてきた。


「おや、あれは何じゃろうか。もう少し近くまで流れてくるのを待つとしようかのぅ」


 そうして待っていると、流されてきたものが何なのかが良く見える位置まで近付いてきた。


「これは……かぶかのぅ? それにしてもこんなに大きなかぶを見たのは初めてじゃ」


 お婆さんは流されてきたかぶを軽々と拾い上げると、地面に置いてまじまじと観察した。


「ふむ、どうしてこんなものが流れてきたかは判らぬが、これだけの大きさならば暫くは食べるものに困ることはないじゃろうな」


 そう言って、お婆さんは洗濯を終えた衣服と大きなかぶを担いで帰路についた。

 そして、日が沈みかけの時刻にお婆さんは家に辿り着き、大きなかぶを家の前に置いた。時を同じくして、血塗れの鉈を担いだお爺さんも帰ってきた。


「おお、爺さんや。その様子だとシヴァ狩りは上手くいったようじゃの」

「ふぉっふぉっふぉ、あの程度何のこともない。ワシの神斬鬼滅の太刀を食らって生き延びれるものなどおらぬよ。して、その大きなかぶはどうしたのだ」

「洗濯をしていたら川の上流から流れてきてのぅ。暫く食料には困らなさそうだから持って帰って来たんじゃ。それはそうと神斬鬼滅の太刀とは何なのじゃ」


 疑問を投げかけるお婆さんに対してお爺さんは自慢げに語る。


「ワシの編み出した剣技じゃ。いや、鉈技かのう。この技を食らって生き延びたものは未だかつて誰もおらぬわ」

「ほほぅ、流石は爺さんじゃ。しかし、どのような技なのか一度目にしてみたいのぅ……。そうじゃ、このかぶに使ってみてはくれぬか」

「構わぬが今ワシが持ってる鉈はシヴァの血で汚れておるからな。もう一振り予備の鉈があるからそれで試してやろう」


 そうして、お爺さんは予備の鉈を持ち出すと、お婆さんの見守る前で大きなかぶに向かって鉈を構えた。

 お爺さんは意識を集中させる。時の流れが徐々に緩やかになっていき、自身と大きなかぶだけがその場に存在する無我の極致まで集中力を高めていく。神斬鬼滅の太刀とは絶大な集中力のその先にある無我の極致に至ることで初めて扱える究極の鉈技。その一振りは空を裂き、生み出された衝撃波によって大地は荒野と化す。


「……ゆくぞ」


 集中力が極限に達したお爺さんが鉈を振るう。

 刹那、空を裂く轟音が鳴り響き、大きなかぶを両断すべく鉈がかぶを裂いてゆく。

 しかし……。


「なん……じゃと……」


 お爺さんが放った神斬鬼滅の太刀はかぶの中程でその動きを止めたのだ。だが、決して不発した訳ではない。現にお爺さんとかぶの前方にあった木々は衝撃波によって一直線に吹き飛ばされ、その威力が本物であったことは確りと窺える。

 そして、少しの間をおいて株が二つに割れた。


「おお……これは一体どういうことじゃ……」


 驚いた声を上げるお婆さん。しかし、それも無理もない。

 かぶの中からお爺さんの鉈の刃先を握りしめた小さな赤子が出てきたのだから。


「おぎゃー、おぎゃー」


 産声を上げる赤子を目にしてお爺さんは驚きを隠せない。


「なんと……かぶから赤子が出てきたではないか。いや、それよりもワシの神斬鬼滅の太刀をこの赤子が受け止めたというのか……なんということじゃ……未だかつて何者をも切り伏せてきたワシの技がこのような赤子に破られるとは……」

「それよりもこの赤子はどうやら女子のようじゃ。かぶから生まれたからかぶみと名付けようではないか。それでよいな、爺さんや」

「う、うむ……」


 狼狽えているお爺さんを放置してお婆さんはかぶみと名付けた赤子をかぶから拾い上げる。


「おうおう、元気な赤子じゃ。子宝に恵まれなかった私たちに与えられた小さな命。立派に育て上げようではないか」


 勝手に話を進めるお婆さんにお爺さんはついて来れていなかったが、まあ、それは時間がどうにかしてくれるだろう。

 ここから、かぶみの物語は始まるのであった。



―続きません―


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